どこまで「潜る」事業なのか?

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スタートアップの赤字報道をたまに目にすることがあります。そういった赤字報道が出る度に「うわー。ここ大丈夫?」という経営の素人たちのコメント付きで記事が拡散していきますが、スタートアップが赤字なのは当たり前です。むしろ設立から期があまり立ってないのに、いきなり黒字の方が不健全でスケーラビリティに欠けます。

スタートアップでは「Jカーブ曲線」といって事業を始めて2〜3年は赤字であることが多く、その後黒字転換して累積損失を回収しにいくというモデルとなっていることが多い。

スタートアップあるあるの一つとして、事業計画書で3年目に黒字転換して伸びる!というのがある種のフォーマットとして存在します。そのフォーマット的な事業計画をその通りないしはそれを上回るペースでオペレーションを回せるかが最も重要な点であり、スタートアップの決算を見て「赤字!やばくね!」というのはこうしたロジックを知らない素人の意見です。赤字=ヤバいという刷り込みで判断しているだけ。

私が新卒時代に勤めた企業では、マネージャー陣以下と経理部の人以外は財務諸表を読めてる人が皆無だったので、非金融の一般的なサラリーマンがニュース見てそう反応するのも致し方ないのかなあ。

ちなみに売上が上がっていないので明らかに赤字なメルカリはDL数などの主要数値が事業計画を上回って達成しているとの話を取材で聞きました。

曲がりなりにもスタートアップのビジネスモデルという連載をやっていますし、本誌でも様々なスタートアップやIPO時の企業の財務分析をしてきましたが、今期黒字か赤字かという短絡的な話ではなく、この事業モデルの時間軸を見て、どこまで「潜る」(赤字を垂れ流すの暗喩)モデルで、浮上した後にどれだけの利益あるいは利益率を見込めるモデルなのかに注視すべき。3つのケーススタディーを通して考えましょう。

ケーススタディー1:ライフネット生命(月額課金に近い)

ライフネットの時価総額は2014年9月5日現在約180億円。保険の事業モデルは契約者数を伸ばしていくことによる積立型。月額課金のモデルに近い。保険事業は「契約件数」「経常収益」「経常費用」が注視すべき項目かと。

スクリーンショット 2014-09-07 11.24.22スクリーンショット 2014-09-07 11.25.18積立型なので経常収益は解約されまくらない限りは綺麗に上がります。ただ、新規契約件数の伸びが芳しくない感じです。決算短信によると新規契約獲得の営業費用(CPAといっていいのかな)は2012年度⇒2013年度で45,513円⇒42,148円と低減している。広告宣伝費は前年比70%と抑えたようで、認知定着によりCPAが低減している。経常費用は他にも保険ならではの項目がいくつかありますが、ライフネットは時間をかけて契約件数を伸ばしていけばしっかり利益は出ていくモデルで、時間軸が少し長いだけ。

2013年8月の本誌のIPO予想検証記事でも「2〜3年の中長期でbuy」としており、1年前の時価総額は309億円だったので、株価はしっかり下がっています。2〜3年がもう少し伸びるかもしれませんが、モデル的には時間がかかるけれども、しっかり収益は出るモデルかと。

ケーススタディー2:ロコンド(在庫保有型コマース)

決算ネタではいつも大人気なロコンド。2014年、ロコンドの決算が面白いという記事から画像を引用させていただきましょう。

スクリーンショット 2014-09-07 11.33.334期潜った結果、5期目以降の黒字転換が見えなくもない状況です。ただ、ロコンドは在庫を持つコマースサービスであり、在庫を持つ事業は利益率が低くなりがち。コマース企業としてスケールしている楽天やZOZOTOWNはモール型なので手数料ビジネス。

なのでロコンドはいくら頑張っても事業モデル自体が利益率が上がっていくモデルではないので、アップサイドはかなり限定的で、成長性の高い企業とは言えないと判断します。ロコンドを例にとっただけで、在庫を持つコマース企業は全て同じ構造にあります。

ケーススタディー3:グノシー(メディア広告モデル)

あえて最後にグノシーで締めましょう。メディア事業は広告か課金収益が主であり、グノシーやYahoo!、Amebaは広告型。クックパッドや食べログは月額課金型のメディアといえます。いずれにしろ規模を追うことで収益がついてくるモデルで、広告モデルのメディアは無料で閲覧数の最大化を狙う。課金モデルは閲覧数は最大化せずに、利便性の高いサービスを通して課金ユーザーの最大化を狙う。

これもまた調べているうちにいい記事を見つけました。GUNOSYの決算書が(良い意味で)すごすぎてビビるという記事の売上総利益の比較図を引用させていただきましょう。

スクリーンショット 2014-09-07 11.43.45売上に対する売上原価率が低く、高い売上高総利益率を実現しているとのこと。メディアはコマースと違ってモノではなく情報を扱うので、原価は開発費とコンテンツを生み出す人件費くらい。多くの人に見られて広告売上が10倍になろうが、原価も10倍になることは考えにくい(在庫保有型コマースの場合は売上と原価は連動する)。ゆえに高収益体質を築きやすいモデルです。

このモデルにおいては多くの閲覧ユーザー数を確保して広告売上を上げることがKPIなので、いかにスピーディーに認知を獲得するかというのが定石。よってグノシーが広告費かけてユーザーを取りにいくというのは普通の選択肢です。ただ普通じゃなかったのがそのスピード感とぶっこみ感なだけで、決算書見ても何の違和感もない。

「グノシーの決算、やばい赤字だったね。どう思う?」と聞いてみるのは相手のビジネスリテラシーを測る質問の一つとして良いでしょう。そこで「13億の赤字とかwww マジやばくねwww」と言っちゃうような人は財務諸表を読めなかったり経営に近しい仕事をしたことがない人なんでしょう。本誌の読者の皆様におきましては、そんな回答をする方はいないと思いますが。

これはグノシーじゃなくとも、スマートニュースでもAntennaでも同じことです。メディアが広告で収益を取るには「閲覧者数を最大化して圧倒的なブランドとなる」のが定石です。

ちなみにThe Startupもメディア事業ですが、記事数を増やして閲覧者数を最大化するよりも、月額課金制のサロンへ誘導するモデル。B2CではなくB2Bメディアと自認しており、読者ないしはサロンメンバーと直接接点を持つことで別の仕事に繋がるという副次効果があります。これが個人メディアとして最適なモデルであるというのが、試行錯誤してきた上での私の見解。

グノシー決算への反応はビジネスリテラシーを測る踏み絵

以上、どこまで「潜る」事業モデルかを考えた上で事業評価をした方が良いというか、当たり前のお話でした。意外にこういうった基礎的な話を押さえていないビジネスパーソンが多そう。

事業構造を自分なりに見極めた上で、決算記事に対するコメントはした方がいいですよ。「グノシー赤字13億おわたwww」とかコメントしている人は、全うなビジネスパーソンからは「こいつ、リテラシー低いな。付き合うのやめるか距離を置こうか」と思われているに違いありません。そういったクリリンな皆様にまずは押さえておいていただきたい記事です。

それにしても「ネット通販の苦悩」さんはいい記事書かれますね。見習う点が非常に多いです。

*ちなみに私も一応自分で会社を経営していますが、スケールさせないので1期目は黒字で着地させています。

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内容の参考:スタートアップ起業家の家賃に迫る

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