オイシックスのIPOにみるバーティカルコマースの限界

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オイシックスのIPOが先日発表されました。私はユーザーではないものの、Umeki Salonでは複数のオイシックスユーザーから「野菜の美味しさは感動モノだ」と聞いています。

株価算定に関しては丸山先生の記事にお任せするとして、本稿では未上場セクターでも人気沸騰中のバーティカルコマース分野としてオイシックスを扱い、今後の可能性に関して考察します。

参考:オイシックスが上場承認されたので想定時価総額とか試算してみた

オイシックスの営業利益率は5%、らでぃっしゅは1%

まずは事業数値からです。類似会社であるらでぃっしゅぼーや、バーティカルコマースの参考例としてアパレルのzozotownを引き合いに。

営業利益率5%前後で推移していますね。なかなか切ない。らでぃっしゅに至っては1.2%です。ぐぬぬ感が漂いますね。らでぃっしゅに関してはドコモによるTOB実施後、ローソンに譲渡しており、販路はドコモによるd-shoppingとローソンという、キャリアとコンビニという強いチャネルを押さえています。TOB後の売上はわかりませんが、野菜ECという分野において両社は競合であるという認識に違いはないでしょう。

ECという「仕入れて売る」という構造上、商社並の利益率となり、スケールメリットを効かせていかないと潤沢な利益は生まれにくいでしょう。その点、zozotownはモールモデルということもあり、営業利益率25%前後という数値になっています。同じECでも「モール」「直販」で差は出るでしょうね。

■らでぃっしゅ:参考記事

ドコモが69億円で買収、20%をローソンへ
d-shoppingで販売
ローソンで販売

オイシックスはブランド力を活かした差別化ができるか

オイシックスらでぃっしゅぼーやも、よく見てみると昨年話題になった「定期購入モデル」ですね。野菜の定期購入は、生協が成立するくらいですから、生協をオンライン化したブランディングで差別化するという、既存の需要をオンラインに置き換えたモデルです。本当にユーザーニーズがあるかわからないファッションの定期購入などとは違い、成立するだけの素地はありました。

スマホ対応もしており、スマホによって小売市場全体のEC化率が高まることが予測されますが、数年でいきなり倍々にはならないでしょう。3~5年で2倍になる市場ではないのは明白です。よって野菜の定期購入という市場ではらでぃしゅとの喰い合いを続けていくのでしょう。

感覚値としてオイシックスの方がブランドイメージが良く、保険におけるライフネット同様、野菜の定期購入ならオイシックスを使っていると言うとなんだかカッコ良く、先端的なイメージがあります。僕の高校の同級生でオイシックスユーザーがいて「お!マジか!」と衝撃を受けつつ「こいつ、やっぱセンスいいな…」と思ったのを覚えています。

オイシックスブランド(プライベート・レーベル、以下PL)での野菜販売に進出する噂もあります。PLは利益率が高くなりやすい構造ですし、ブランド力があれば売りやすい。しかし、上記の通り市場がいきなり大きくなるわけではないため、成長は限定的であろうと思います。毎年売上120%増くらいの手堅く緩やかな成長が見込まれるのではないでしょうか。投資銘柄としては手堅そうではありますが、IPO株特有のアップサイドは見込みにくい。

バーティカルコマースの売上規模の限界:200-300億?

コマースは各市場で単価や購入頻度が異なるでしょうが、楽天やAmazonのような総合的になりつつあるサイト、zozotownのようなアパレルという比較的大きいジャンルのECであればスケールするものの、バーティカルコマースはバーティカルなだけあって売上成長は限定的かと思います。

総合型のサイトで応え切れない細やかなニーズに対応することで、ユーザー獲得を狙えるという仮説がバーティカルコマース流行の仮説です。

■バーティカルコマースが満たすニーズの一例

マニアのニーズも満たせる充実のMD
現代的なUI(既存大規模サイトは移行しにくい)
ロコンドのようなカスタマーサポート

ECとはいえ商材が異なれば単価も購入頻度も異なるでしょうが、モールでなければ売上のアップサイドは200-300億円程度ではないでしょうか。程度といいつつ、それはそれですごいと思いますが、直販の場合は良くて利益率10%くらいでしょうし、上場まではいくものの上場後のスケールが結構厳しそう。

■その後の成長シナリオのオプション

海外事業
商材のラインナップの拡充
プライベート・レーベルへの参入

バーティカルコマースという観点ではBUYMAが注目ですね。だいぶ懐かしい記事をご紹介しておきましょう。

ファッションECのBUYMAを運営するエニグモがIPO:ZOZOTOWNとの比較からBUYMAの成長余力を探る

エニグモのIRによると、高い利益率で成長していますね。これも直販ではなくプラットフォームモデルだからですね。今期着地は売上12億の営利5億くらいというところでしょうか。上記の記事では「公募価格の2-3倍は確実に上がる」とし、公募価格1,750円に対し、初値4,000円、2013年2月7日現在は7,280円です。利益率が高い企業が株式市場はお好きですよね。初値に対してでも2倍の水準です。

昨年の記事と同様のことを言ってもしょうがないですが、アパレルはマーケットがあるので、まだまだBUYMA自体は伸びそうだなと。しかし、売上規模が小さくてもモールだったりプラットフォームモデルは利益率が高いから成り立つ。直販バーティカルコマースは売上がスケールしないと厳しい。

■直販vsプラットフォームの利益率の差(約8倍?)

オイシックス:売上約150億、営業利益約7億 利益率約5%
エニグモ  :売上約12億、 営業利益約5億   利益率約40%

注:流通額ベースで見るとエニグモは「販売高」がオイシックスでいう「売上高」に当たります。エニグモは取引成立時の手数料が売り手と買い手に5.25%ずつで10.5%。よって流通額は売上の約10倍で120億くらいと読めます。

直販vsプラットフォームは在庫を持つ持たないという違いがあり、在庫を持たないプラットフォームの方が身軽ですね。PL上はエニグモの方が利益率が高く見えるので、投資家からすると魅力的に見えやすいかと。

バーティカルコマース事業者は極力良いビジネスモデルを構築して利益率が高い方向へシフトしておきたいものですよね。未上場バーティカルコマースで注目度の高いスターフェスティバルごちクルなどは弁当のコマースプラットフォームとなっています。いいモデルですよね。調子が良い事業とよく話を聞きます。こういうバーティカルコマースが数年内にIPOしてくると思われます。

*本記事はBLOGOSへの転載はお控え下さい

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