引き続き、B Dash Camp2019springのレポートです。
B2B SaaSで伸びている会社が実践していること
スピーカー:(敬称略)
黒佐英司(マツリカ)人工知能型営業支援
宮田昇始(SmartHR)クラウド人事労務
中尾豊(カケハシ)薬局向け
大野暉(サイバーセキュリティクラウド)サイバーセキュリティ対策モデレーター:
倉林陽(DNX Ventures)
全ての話をメモできたわけではないですが、ざっくり半分くらいの話をご紹介。
2019年のSaaSプライベートユニコーンは56社
モデレーターの倉林さんのスライドですが、プライベート市場でのユニコーンSaaSは56社あるようです。
実際に米国上場市場では、GAFAの成長が鈍化して、SaaS銘柄の売上成長率が高いこともあり、SaaSの株価が爆伸びしています。最近だと、OktaやTwilioの株価の勃起具合がやばいですね。
ちなみに米国では年間売上成長率が25%以上ないと上場できない?(厳密いはしにくい?のか)という考え方もあるようです。利益が出ていないので、売上成長率が一定以上ないと、微妙だよね。というロジックは良く理解できます。
こういうスライドの解説がありましたが、この辺のSaaSの数字の見方はじっくり伺ってみたいですね。SaaSの経営者や投資家以外の人は、上記を見てもわからないと思いますが、興味がある指標ですね。
後から振り返ると、初期のプライシングは安いことが多い?
Q:プライシングについて
宮田:価格改定は頻繁にしていて、1年に1度値上げや新価格を出している。ID単価750円くらい
倉林:チームスピリットだとちなみにID単価600円程度
中尾:1度だけ価格改定したが、5年契約にして解約をほぼゼロにしている。業界の文化として、長期契約でもいける
大野:ウェブサイトのセキュリティで個人情報などを守っているサービスを展開。競合は米国企業がほとんどで、そこをターゲットにした。グローバルでは従量課金で良いというユーザーが多いが、日本はそうではないので、定額にこだわってきた。
Q:プライシングのロジックで参考になった指標は
宮田:最初は似たサービスがなくていくらにしたら良いかわからなかった。ユーザーヒアリングが参考にならなかった。質問の仕方を「いくらなら高いと感じるか」と聞くようにしたら、ヒアリングで相関が出てきた。最近はアップセル商材を出したが、実際に売りながら考えた。
黒佐:CRMはベンチマークサービスがたくさんあるので最初は困らなかったが、値上げはABテストで試していった。
中尾:競合比較で決めたが、業界の変な価格があり、そこを参考にしてプライシングした。価値と価格の感覚があまりわからない人も多く、よくわかっていないで支払っている場合も多い。価値の話をしていると、価格の話にならないこともある。
大野:セキュリティベンダーが6社あるが、3社は1兆円(梅木注記:売上?時価総額?かは不明)クラス。ユーザーはオンプレから、クラウドに移行する時点で価格が下がると思っている。最後発だったので、競合より価格を低くして始めて実績を作ったが、結果的にはもっと高くても良かったなと思っている。
倉林:最初はユーザーを取らなければいけないので、自社の原価をベースとしたプライシングはあまり意味をなさない場合が多い。
各社のセールスやマーケティング手法
Q:どんなビジョンを描いていてどういう人材が欲しいか
このテーマは個人的に関心がなかったので、紹介を割愛しますが、SaaSは採用市場でのPRが足りていないという説が会場からは出ていましたね。ぶっちゃけ、平社員レベルだと地味でつまらない仕事に映りそうですw 経営者や投資家にとっては面白いのでしょうが。
Q:各社のセールス手法について。マーケティング投資のタイミングと、何を見てそう思ったか。
大野:試行錯誤していた。アウトバウンドで失敗して、インバウンドで上手くいった。代理店は実績が出るまで売ってくれなかった。解約率は今年間1%程度だが、3%程度の時期もあったので、プロダクトやカスタマーサクセスを磨いて、解約率を下げた。そのタイミングで踏んでいった。直販の成長率は高いが、売上比率は代理店も半分程度ある。
中尾:代理店は使うが、クロージングまで使わない。
宮田:直販が多いが、今後代理店を利用していくが、クロージングは自社でする。プロダクトのアップデートが頻繁でもあり、セールス時の説明が難しい。
宮田:ARR5,000万くらいまで属人的だった。その後、セールスのプロセスを分けた。1,000名以上の企業じゃないとフィールドセールスに行かず、それ以下はオンラインでクロージングしたりするが、地方だとオンラインでクロージングできない。キーマンとの(オンライン)商談を設定するのが難しい。会いに行くと会ってくれる。8月から大阪に支店を出す予定。最近ようやくアウトバウンドを始めた。
中尾:薬局は地方のおじいちゃんをどう説得するかなので、最初はフィールドセールスをしていた。最近はマーケとインサイドセールスをやっている。キーマンを開拓するのは時間がかかった。
宮田:SaaSは他社のセールスの仕方から学ぶと目から鱗なことも多い。ヤプリの展示会のセールス手法はとても参考になった。
下記は個人的感想。
前日の夜のSaaSセッション(完全オフレコ)の話も聞いていたので、そこでの内容には触れませんが、米国の上場SaaSはグロースに投資して赤字を掘りまくり売上成長率を高めるのがスタンダードで投資家もそれを理解している。
しかし、日本の(機関)投資家はまだまだそのリテラシーがないことが多いという話は日頃から耳にしています。日本の投資家はすぐに利益出せという傾向にあるらしいですよね。
国内のVCでは今回のモデレーターのDNXやセールスフォースなど、SaaS特化型の投資家はいますが、機関投資家のSaaSの理解レベルはまだ怪しい気がしていて、海外の機関投資家の方が理解してくれるので、上場企業や上場直前の企業でも海外の機関投資家に説明しに行っている企業が何社かあると聞いています。
SaaSのバリュエーションに関しては、メディアによる啓蒙もあった方が良いと思うので、機会があれば詳しく調査したいと思っています。ご協力いただける方いらっしゃれば、お声がけください^^
ジャンルというかビジネスモデルとして、私はSaaSに非常にポジティブです。ここ2-3年は国内のスタートアップ資金調達件数も、SaaSがダントツで多い気がします。
今回はプライシングのロジックに焦点を当てましたが、MRRを伸ばすにはプライシングが変数として最も大きいので、何度も改定(主に値上げ)したり、そもそもこの価格が正しいんだっけ?と自問し続ける事が大事だと思います。
ビジネス全般の話として、4Pの他のPと比べて、プライシングが一番PDCAを回す回数が少なくなりがちだと思うので、SaaSの人に限らず、プライシングはもっと意識していくと良いのではないかと思います。なので、自社と市場が異なるサービスのプライシングロジックをいろいろ調べてみたり、聞いてみたりすることは有用だと思います。
宮田さん曰く、最初は自社の単価が低すぎてビビるらしいですが、海外の投資家に聞いたところ、単価が上がっていく企業が多いと聞いて安心したようです。