ガイダンス予想と妥当PERを元に算出した、ネット企業88社の理論時価総額

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最近はウメキワークスがメインでTSは月1-2本ですがしぶとくやっていきます。

ここ最近のTSは株関連の記事が多くなっています。企業分析というより、株価分析ですね。2019年1月には下記の記事を出し、「株価は振り子であり、ゆえに適正株価でとどまるのは一瞬である」という説に大変共感しました。

2019年1月の今だからこそ、市場サイクルを極める(TheStartup:2019/1/2)

ゆえに「あの企業の株価が高い」「安い」みたいな話は日常茶飯事で、ほとんどの株価が適正株価から乖離していると言えます。だからこそ、そのに収益の機会があるわけで、株式市場のプレイヤーたちはそのスプレッドを血眼になって探し続けています。

また、上記の記事では書籍に記載のある下記の引用を掲載しています。

底値に狙いを定めるのが間違いだというのなら、一体いつ買えば良いのか。答えは単純明快。価格が本質的価値を下回った時である。

この「本質的価値」とはなんなのか。唯一絶対の解ではありませんが、当期利益とPERから企業価値を算出するアプローチが最もポピュラーかと思います。

しかし、ネット企業の場合は赤字企業だとPERがそもそも算出できないとか、成長率や期待値の高いセクターはPERで判断するなんて馬鹿げている。という風潮もあります。

特に、売上や利益成長率で判断されやすいグロース株の場合、PERでの判断は愚の骨頂であり、PERを主軸に判断していれば、アップトレンドにいつまで経っても乗ることはできません。

ですが、本質的価値を測る際にオーソドックスであるPERベースの手法が意味がないとは私は思いません。PERベースのバリュエーションは、本質的価値から乖離した企業を多く発見できますし、長期的に見れば正しいPERに収斂されていく傾向にあるはずです。

そこで、今回はPERベースでのバリュエーションと現在株価の乖離を調査しました。調査ロジックは下記の通り。

対象企業:ネット企業87社。楽天証券でのアナリスト予想の記載があった企業に限定

数字単位:億円

☆PER設定のロジック:売上YonY◯%に応じて変動

メディア:約45%=50倍、約30%=45倍、約20%=40倍、15%=35倍、10%=30倍、5%=20〜25倍、マイナス=5倍

FinTech&コマース:約45%=50倍、約30%=45倍、約20%=40倍、15%=35倍、10%=30倍、5%=15倍

B2B:50%以上=60倍、40%以上=50倍、30%以上=45倍、20%以上=40倍、10%以上=30倍

広告:約30%=30倍、約10〜20%=20倍、マイナス=12倍

ゲーム:約15%=15倍、0〜10%=12倍、マイナス=10倍

参考:日経平均PER=12〜13倍

大前提として、各セクターの売上成長率ごとのPERが妥当か否かというのが論点となります。ゲームは評価されず、B2Bの中でもAIが過大評価されています。セクター人気を多少反映し、PERは傾斜をかけました。

今期と翌期の市場コンセンサス予想の売上成長率から上記PERを適用し、それに市場コンセンサスの当期利益を掛け算して理論時価総額(Cap)を算出しています。

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しつこい注意書きですが、あくまで予想当期利益とPERの掛け算での理論時価総額なので、現実的にはキャッシュたくさん持ってるからPBR1倍は切らないだろう。的なGREEなキャッシュリッチな企業は、理論株価ほどには株価は下がらないだろうと感じます。

あとはセクター人気や投機筋の人気によって、高音が定着してしまったので、みんながそれくらいの価値があると思い込んでしまいがちなものの、理論株価で見ると割高すぎてヤバス。みたいな銘柄もいっぱいありますね。

今期割安企業:23社、グノシーやじげんが割安

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まず、異常値的な企業は青セルを付けました。ユナイテッドの当期利益が膨らんでいるのはメルカリの売却益であり、一気に売却ではなく今後こまめに売るとはいえ、本業ではないのでさほど評価されません。オイシックスの前期から今期の売上YonYが高いのはM&A効果です。

ユナイテッドを除くと、今期の市場コンセンサスの業績に対して、現在株価は割安な企業は23社となります。

個別で指摘していくと、ZOZOは下方修正の影響でまだ株価が戻ってきていません。ユナイテッドを除いた首位のマクロミルは、当期利益50億で売上YonYも+10%を見込むのに、時価総額は500億程度と、B2Bの中では流行りのAIではなく地味な銘柄とはいえ、過小評価に感じます。

前期今期、今期翌期と売上YonY平均が+30%を超え、当期利益予想が23億あるグノシーもPER23.7倍程度で時価総額は546億。成長率と利益水準の割には、割安です。

じげんも過小評価に感じますし、好決算で株価が上昇したエニグモも、理論上は現時点ではまだ割安な水準といえます。

今期割高企業:Kudan、PKSHA、HEROZ、弁コムなど

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誌面の関係で、分割してお送りしますが、上記が「現時点でそこそこ割高」な企業群となります。シェアリングテクノロジーはM&Aで前期今期YonYを伸ばしました。個人的には、理論株価と現在株価は±20%程度に収まっている場合、マクロ環境にも左右されるので、誤差と見ても良いかなと感じています。

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さあ、この企業群がいよいよ「利益水準に対して時価総額が割高」な銘柄たちです。まず、下の方の赤セルの11社は赤字企業であり、PERで評価不能です。メルカリのような企業は、投資をやめれば当期利益100億くらいサクッと出るだろうということもあり、売上成長率はYonY+50%程度なのでPER50倍で時価総額5,000億。みたいな雑な推計で理解できます。

マネフォ的なSaaSも米国では主にPSR評価であり、翌期売上95億に対してPSR10倍で950億、みたいのは理解されそうです。

赤字企業でいうと、やはりユーザベースはかなり過大評価されていると感じます。翌期は4億円の黒字に転換予定ですが、仮にPER100倍つけても時価総額400億です。しかし、現在時価総額は977億。SPEEDAでSaaS的な評価で翌期売上173億に対してPSR10倍というロジックなら、理論的に1,730億くらいになるので、PSRで見るとまだ上昇余地があるといえます。

ユーザベースのような高売上成長率、低利益企業は理論的な評価が非常にしにくいため株価もボラティリティが高まりやすいといえそうです。利益ベースで見ると、グノシーの1/5程度の評価額で良いはずですが、現状はユーザベースの時価総額はグノシーの約2倍です。

利益ベースで見ると、両社は株式市場から10倍程度の本質的価値の乖離があるといえます。 グノシーは利益出てるのに株式市場でウケなすぎ、ユーザベースは利益出てないのに、ウケすぎ。ということ。

黒字銘柄に目を向けましょう。KudanやPKSHAなど、AI企業も数多く登場しますが、B2B系は先行投資で売上成長を重視し、先行投資を削れば利益率が改善する企業も多いことから、PSR評価の重要性も上がっています。なので、売上成長率にもよりますが、PSR10倍程度であれば適正と見なすこともできなくはありません。

しかし、現時点での時価総額翌期売上予測をベースで割ったPSRで見るとKudan200倍、HEROZとPKSHA共に約50倍となり、流石にPSRベースでも正当化できません。これらの銘柄は、AIというバブルの筆頭と言わざるを得ないでしょう。

セクター別に見ていくと、まずメディアでは「弁護士ドットコム」「ウォンテッドリー」が利益水準に対して、明らかに割高です。特に弁コムは、翌期でも予想利益が4億で、成長率に乗じたPER45倍を掛けても、理論時価総額は180億程度です。現在時価総額は911億。これも「クラウドサイン」期待でPSR算出しようとすると、翌期予想売上34億に対して20倍でも時価総額は680億。PERでもPSRでも正当化できません。明らかにバブルです。

サイバーエージェントはよく「AbemaTVへの先行投資で200億使っているため」を強調するので、それが株式市場から許容された現在株価になっていると感じます。AbemaTV先行投資費用を含んだ当期利益ベースでは理論時価総額は1,380億、翌期でも3,300億で、現在の5,300億とは乖離があります。AbemaTVへの期待が膨らんでおり、翌期以降の数字が良くなければ、現在の株価はバブル的です。

ゲームでいうと、GREEとコロプラが減収予想続きのため、PER10倍で計算すると、GREE理論時価総額336億、現在1,136億。コロプラ理論時価総額114億、現在888億。現金はGREE870億、コロプラ600億あるので、PBR1倍を切ってくることはなかなかないかとは思いますが、BSではなく未来のPLのみで算出すると、かなり厳しい結果になります。

翌期割安企業:31社、リユースのSOUが狙い目か

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既に翌期解説も一部してしまっていますが、今度は「値幅余地:翌期〜現在」の騰落率順です。翌期の話なので、当期利益との掛け算よりは、ボラティリティが高くなってきます。平たくいうと、1-2年持っていれば「PERアプローチの理論的には」株価上昇が見込みやすい銘柄群ということです。

翌期のガイダンスの売上成長率と利益水準をベースにすると、理論的には二倍以上の時価総額上昇余地がある企業は7社となりました。上述でもピックアップした、マクロミル、グノシー、じげん以外だと、SOU、ファーストロジック 、デファクトスタンダード、BEENOSの4社。

これら4社は時価総額水準的には草コイン群なわけですが、中でもSOUは翌期利益予想21億で現在時価総額が305億程度。コマース企業で、成長率もYonY20%前後なので、少なくともPER30倍は付いても良いのではと思います。リユース事業が主軸というのが地味で、過小評価されやすいのかもしれません。(むしろ、私も最近まで知らず、カバーから外していましたw)

翌期割高企業:出前館がまだやや割高か

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上記、そこそこ割高っすね群。当期割高群とさほどメンツ変わらず。

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明らか割高群。翌期利益予想では赤字企業は、11社から3社に減少。LINEとユーザベースがかろうじて黒字転換。当期割高群での指摘とあまり変わらないですね。

夢の街(出前館)が、まだ過大評価な気がしないでもありません。直近決算発表後、下方修正でストップ安になりましたが、翌期でも6.8億程度の営業利益で現在684億の時価総額です。翌期利益20億強のエニグモやSOUより時価総額高いですからね。出前館と、エニグモやSOUの時価総額の逆転は時間の問題ではないでしょうか。

しかし、出前館の方が売上YonYが平均+30%超えなので、プレミアムが付いている。というロジックは理解できます。それでも、まだ過大評価な気はします。

以上です。あくまでPERアプローチの視点であり、現実の株式市場はPSR以外にもPBR1倍は割らないとか、マクロ環境要因がとか、様々な要因で株価が成り立っているのは理解しています。

しかし、企業が将来生み出しうる利益ベースで、現在株価に左右されずに理論的な時価総額を弾き出して見ることは、決して無駄な作業ではないと思います。

株価が高い状態でも低い状態でも、それが長く続いてしまえば、それが普通のことであると人々は受け取るようになってしまいがちではないでしょうか。

冒頭でも述べましたが「株価が適正であることは長い時間軸を取ると一瞬しかない」ので、適正株価である瞬間の方が非常に少ないのです。

なので、適正価値に対して高い株価も低い株価も、それがしばらく続くことは理論上は全然あります。振り子であるがゆえ、人気すぎて買われすぎることも、不人気過ぎて売られすぎることもあるでしょう。

バリュー株投資の王道アプローチとしては、適正価値より低い株価で仕込んで、時間軸を読み切ることは難しいが、適正価値に株価が回復する。もしくは、適正価値を上回る振り子の動きを期待する、というものかと思います。

問題は「時間軸を読みづらい」ことであり、バリュー投資アプローチで塩漬けしている間に、グロース株の収益機会を数多く逃してしまうことは多々あるでしょう。しかし、バリュー投資で「適正価値よりかなり低い株価」で仕込めば、ダウンサイドは限定的なので、あとは焦らず時間が解決するのを待つばかり。

待つって、なかなか難しいですよね。



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