2017/8/31 19時追記:何社か「株式分割」が反映されていない企業があり、データを訂正いたしました。
ポストIPO・スタートアップの時代という朝倉さんのポストを拝見しまして。
一応スタートアップ好きとして「The Startup」などという名前の自称メディアを運営しているものととしては、応援していたスタートアップがIPOしたその後というのも気になるんですよね。
傍目に見ただけの感想ではあるのですが、他のテック系メディアは「スタートアップ時代」については記事を出しているものの、「IPO後」は触れる機会が少ない印象があります。せいぜいIPO時に「売上と利益これくらいです」とさらっと紹介する程度。
これはほとんどの書き手にファイナンスリテラシーがないため、突っ込んだことを書けないというメディア側の裏事情が確実にあると思われます。とはいえそれを差し引いても、IPO後のスタートアップの行方について報じられる機会は少ないですね。せいぜい「上場ゴール」が話題になった程度です。
上記記事から一部引用させていただくと
日本におけるこのようなスタートアップ・エコシステム形成の機運を一過性のブームで終わらせることなく、さらなる次元に引き上げるためには、一体何が必要でしょうか。私は、スタートアップ・エコシステムにおける「アフターマーケット」の発展こそが鍵を握ると考えています。
その通りだと思いますし、IPOしていった元スタートアップ企業が成長してマザーズや東証一部で時価総額を伸ばした結果、M&Aの有力な買い手企業となっていきます。じげんなどはまさにその好例でしょう。
M&Aの買い手が増えることは、国内のスタートアップ・エコシステム全体を俯瞰すると非常に好ましいことですし、IPOした企業にはぜひ上場ゴールと言われないよう、その後業績を伸ばしていっていただきたいものです。
また別の箇所を引用させていただくと
あくまでもアメリカの市場との比較ではありますが、日本のスタートアップは相対的に早い段階で上場していることが見て取れます。世界的に見ても、日本の市場は上場に向けたハードルが低いユニークな市場と言えるでしょう。
この後、「この事実をただちに肯定的、否定的に論ずることはできない」とあるのですが、それを論ずるというチャレンジを本稿で試みてみたいと思います。
この論点はいわゆる「小粒上場問題」であり、小粒の規模をどう定義するかも人により様々ではあると思うのですが、公募時価総額500億未満を今回は小粒と定義しましょう。LINEやマクロミル、今後出てくるであろうメルカリなどは該当しません。
この「小粒上場問題」では大抵堀江さんが「小粒上場(笑)」というツッコミで悲観的な見解を示されます。おそらく、上場維持コストと見合わないのではないか?という経験からのご見解と思われます。
監査などで年間1億円くらいは上場維持コストがかかるでしょうから、営業利益5億円程度の会社にとってはコスパ的にいかがなものかというご指摘はごもっともに思えます。営業利益10億円以上、ないしはその規模を2年以内に目指すとかで、競争戦略上で意義があるとかであれば、上場の意味はあるかと思います。
個人的には小粒上場全てが微妙だとは思っていなくて、個別案件によると考えています。下記に2013年以降のネット銘柄53社のIPOについて、公募価格と直近価格を比較して騰落率が高い順に並び替えました。(株価は円表記)
IPOからどれくらの時間が経っているかにもよりますので、絶対的な数値ではないことはあらかじめ断っておきますが、指標として参考にはなるはず。
公募価格から直近株価2倍以上の企業:20社
個人的にははてなとか全然良いと思っていませんが、アカツキは時価総額1,000億円越え、イトクロやグノシーも600-800億円台でここ最近は推移しています。
公募価格を2倍以上上回っていれば、上場ゴールと言われる筋合いは全くないでしょうし、公募時にSBIとかによほど低い公募価格に抑えられてIPOして跳ねたというわけでない限り、業績も順調な企業が多いと思われる群です。最近では本誌にGREEN様で継続出稿いただいている、アトラエあたりの伸びが凄まじいと感じます。
公募価格を上回るが、直近株価は2倍未満の企業:17社
この群もフリークアウトやイグニスのように株価のボラティリティーが激しかった銘柄もありつつも、基本的には業績を堅調に伸ばしている企業が多いのではないでしょうか。
直近株価が公募価格を下回っている企業:16社
これは結構微妙な企業群ですよね。メタップスやgumiのように、公募価格を張り切ってしまったため、公募価格割れとなっていたりもします。
しかし、その2社を除いた15社の中でもっとも時価総額が高いのはVoyageで219億円ほど。他の銘柄は二桁億円の時価総額でうろうろしているものが多いです。
この中の企業でいうと、AppBank、サイジニア、アルベルトあたりは厳しそうだというのは、業界人のコンセンサスではないかと思います。
小粒IPOが問題となるケースとは?
直近株価が公募価格割れの企業群全てに未来がないとは思いませんし、アカツキのように公募250億円前後で上場して1年半後には1,300億円に達しているという、明らかに成功な(業績的にも株価的にも)ケースもあります。
一方で、某上場企業経営者からも「上場しなくても良かったかもしれない」と弱音を聞いたこともあります。
時価総額500億円を超えてくると機関投資家も入り、流動性も上がっていきますが、朝倉さんの記事にもある通り、特に時価総額二桁億円の企業にはアナリストカバレッジもつきません。
機関投資家も流動性が低そうな時価総額500億未満の銘柄には投資しないため、本当は将来性がある銘柄でも流動性が低くて株価が上がらずに割安で放置されている場合があるかと思います。
時価総額二桁億円の銘柄とか、銘柄次第では個人投資家には美味しい市場ともいえるかもしれません。2017年は3月くらいまで時価総額20億円程度だった夢展望が2ヶ月で10倍以上の時価総額となっていたりもしました。
小粒IPOでは具体的にどのようなケースが問題になるのでしょうか?問題となるケースを想定してみました。
①:上場後、公募価格割れが続き、業績も下方修正が続く
②:上場後3年以上経っても時価総額が300-500億円を越えるエクイティストーリーにそもそもなっていない
③:業績は好調なのに規模が小さくて注目されずに株価が上がらない
率直な疑問としては、時価総額二桁億円で上場して、その後もあまり成長性が見込めない場合、なぜ上場するのかな?と感じます。既存株主のEXITを作る以外で、意味があるのかなと。
2017年8月31日現在、日本国内のインターネット銘柄で時価総額が二桁億円の上場企業は28社あります。この中には今後成長してまずは100億円に乗せてくるところもあるでしょうが、AppBankのようにピーク時は300億円台あったのが、今や40億円台というケースもあります。
これらの時価総額二桁億円の企業が上場維持する意義は一体…?それこそ、上場維持コストが重くて、営業利益を逼迫するので、無理に上場を維持していなくても…と感じます。実際、二桁億円台だったフォトクリエイトはCCCに買収されて非上場化しています。
①②は論外なのですが、③は今後ますますアナリストが減っていくトレンドにあることを鑑みると、構造的な課題といえます。時価総額300億前後で機関投資家に地道にコミュニケーションしてる起業家のお話とかをお聞きしたこともありますが、業績に加えて地道なコミュニケーションが花開いていそうな企業とかもありますね。
時価総額1,000億円規模の企業の決算は注目されますが、数百億円中盤規模の決算を拾ったり、良い会社だと思いますよ!という周知する場がもっとあっても良いのかもしれません。本来は本誌もそういう役割を担うべきなのかもしれませんが、なかなか悩みどころであります。
最近はIPO記事はウメキワークスで掲載しており、IPO記事を出すと着実に購読者数が増えていきます。今日は8月末日で明日から9月ですが、今日までにマガジン決済をすれば8月の分の記事は全部読めるはずです。明日以降の決済ですと、全て単品課金になってしまいますね。
というFacebook広告をここ数日出していました。笑
ちょっと寝不足で辛くて頭が回りきらなかったのですが、小粒IPOはゴミなのか問題について、他の論点やご意見をお持ちの方はぜひtwitterやNewsPicksなどでお聞かせください。
個人的には小粒IPOが全て悪いとは思わないのですが、感覚値的には1/3くらいは明らかに上場すべきではない銘柄な気がしています。