◯◯思考的な書籍やコンセプトをよく目にするのですが、案外「アセット思考」で検索しても、大してヒットしなかったので、アセット思考的な考え方について、少し考えてみたいと思います。
私が考えるアセット思考とは、文字通り「資産を積み上げることを考え、そこから逆算した意思決定や行動を日々積み上げていくこと」です。
アセット思考に基づいた意思決定をしていると、「積み上げが効いてくる」ので、同じ労力を投下しても、どんどん生産性が上がっていきます。アセット思考と生産性は密接に関わっていると思いますね。
レストランでご飯を食べる場合
日常生活の例としては、高級レストランで飲み食いしていたとしましょう。適当に選んで、行ってみて、ふーんと思うのが大抵の人です。
しかし、自分の訪問履歴を仮にエクセルでデータベース化しておくと、自分の好みが可視化できるようになります。
訪問した場合、食べログにレビューを書いておくとしましょう。すると、誰か見てくれる人がいて、それが積み上がっていくと「梅木はグルメらしいから、困った時に聞いてみよう」と知り合いから思われるかもしれません。
相談された際に適切な回答ができ、相談者が満足したとしましょう。ささやかではありますが、一つ信頼を獲得できたと言えるのではないでしょうか。
このように同じ高級飲食店にお金を使う行為でも、ただ行っているだけでは消費になり、その情報を整理して人に紹介できるまで持っていければ、それは資産価値となり、単なる消費ではなく資産価値を築くための投資になるとも言えます。グルメきっかけで、人と知り合い、人的資産を築くことも可能になります。
特に難しい話ではなく、自分が日頃していることを、積み上げていくとどんな価値が出るのか?ということを想像して、価値が出そうなものであればアセット思考的に、アウトプットを意識することでインプットの精度を上げる努力をしたりする。
ちなみにその人のことを参考にしたわけでは全くないのですが、高校生の頃、担任の先生が「ラーメンデータベース」的なHPを作っていました。
食べログも存在しない、2000年くらいの話です。私は旭川が地元なので、ラーメン屋が多いのですが、初めて行く店だと情報がない。実家では、そのラーメンデータベースを参照して、行く店を決める。ということがありました。これは紛れもなく、アセット思考で、ユーザーの役に立っています。
オンラインメディアの記者の場合
次は例を変えて、オンラインメディアの記者の立場で考えます。これはCGMとかではなく、スタンダードに事業者側が記事を書いていくメディアを想定します。
メディアの記事の場合「資産性」というと、「記事」の賞味期限の長さという軸と「記者」の認知度の高低があります。
ポジショニングマップは面倒なので作りませんがw ベストなのは「記事の賞味期限が長く」かつ「記者の認知度が高い」ことではないでしょうか。それが最もブランド価値の高い状態です。
ストレートニュースは賞味期限が非常に短く、AIにも代替されて行くので、記者の存在を必要としなくなっていきます。ストレートニュースを書くくらいなら、意味不明なポエムを書いた方が、アートとしての資産価値ありますね。
一方で、多くのメディアは記事が記名ではないことも多く、誰が書いているのかわからないこともあります。この場合、記者は受託事業のようなもので、時間を切り売りしているだけで、資産は全く蓄積されず、アセット思考にはなっていません。
あのメディアで記事を書いていました!(匿名で)というのと、実名で名が売れているのとでは、説得力も違うかと思います。
記名で賞味期限が長い記事を書いているオンラインメディアはほとんどなく、故にライター業は消耗品になっています。まともな人は早い段階でこれに気づいていて、自分の知名度を記名記事で上げていき、知名度を元にした単価の高いタイアップ広告記事などを受注しています。ANAの旅行の記事を見たら、インフルエンサーだらけだったw
冗談ではなく、認知度が高く賞味期限長い記事を書く人と、認知度が低く賞味期限短い記事を書く人だと、稼ぎが10倍以上の差になっているでしょう。
インターネット事業におけるアセット思考
ミクロからマクロに昇華してきましたが、我々がいるインターネット事業においても、アセット思考的な事業とそうでない事業に分かれています。
ざっくりとインターネット事業のセクターを分けるとこうなっています。
C向け:メディア、コマース、ゲーム
B向け:広告、FinTech、その他B2B
アセット思考に紐づいた考え方をすると、ユーザーがそのサービスをどれだけ継続的に利用するか。
一番アセットが積み上がりやすいのはFinTechの決済事業だと思います。決済は導入後に決済履歴などの情報が溜まっていきますし、よほど不便さを感じないと解約しないのではないでしょうか。相対的に解約率が低そうな領域です。
一方で同じFinTechでもロボアドの場合、そこを使い続ける理由はリターンとUXの良し悪しが主な気がしていて、アセットが積み上がる構造にはなっていません。仮想通貨取引所も同様な構造ではないでしょうか。
次に良いのはメディアで、メディアといっても様々なメディアがあるので一概には言えず、アセットが積み上がっていないものもあります。考え方としては、コミュニケーションかコンテンツをベースに、そのメディアにアクセスすることが習慣化する、と強いです。
例としては、コミュニケーションだとLINE、コンテンツとコミュニケーション両方あるのがFacebookとインスタとtwitter、コンテンツのみだと食べログ、とかですね。
コミュニケーションとコンテンツ両方のアセットが積み上がるので、FB、IG、twitterは強いと言えます。LINEも占いとかゲームとか、外堀でコンテンツを作ってはいますが、FB、IG、twitterの場合はそのワンプロダクトにコミュニケーションとコンテンツが両方内包されているのが強い。
一方でかなり前からSnapchatには個人的に疑問を持っていて、コミュニケーションツールとして使われているものの、「メッセージが消える」ので、資産が積み上がらないのではないかと。
若者が恋人との別れを一番実感するのが「相手とのLINEの履歴を消した時」と答え炊いたのを何かで見て、これはとても理解できる気がします。恋人とのメッセージの文字って、振り返って読む資産価値があるんですよね。
コマースはメディアほどは「そのサービスを使わなきゃいけない理由」が乏しい気がしていて、ユーザーにとっては「あそこに行けば欲しいものがある」という品揃えの多さや割引ポイントの有無がアセットになると言える。
ゲームは非常に微妙で、モンストがヒットしたからといって、次のmixiのゲームがヒットするとは限らず、再現性が非常に低い。モンストのユーザーを次のゲームに流すというのも、さほど機能しないのではないか。コロプラが自社ゲーム同士で回遊させる考え方で、ユーザーアセットを活かそうとしていましたが、結局上手く行ったのかよくわからない。
当たれば儲かるものの、「資産性が低い」という点が、株式市場から評価されない最大の理由で、多くの投資家はそれに気づいている。メディアやコマースと比べると、ゲームはプロダクトとして賞味期限が短い、とも言い換えられます。
最悪なのは広告事業で、特に広告代理店の場合、ユーザーがそこを経由して買わなきゃいけない理由が乏しい。割引などでの価格競争に陥りがちやすいですね。アドネットワークやRTBで利益が出ていても、株式市場で評価されにくい理由はそこにあるのでしょう。
インターネット事業でもアセットが積み上がるものとそうではないものがあり、かつその中でも比較的アセットが積み上がりやすいメディア事業でも、物によっては積み上がらないこともあります。
なので、事業評価する際の指標や自社のプロダクトを振り返ってみて「本当にアセットが積み上がっているのか」を定期的に点検したりすることが重要ではないかと思います。
生活レベルのミクロな話から、事業レベルのマクロな話までしてみましたが、「その事業は本当にアセットが積み上がっているのか」という議論って、さほど聞かない気がするんですよね。もっと議論があって良い論点ではないでしょうか。
今後は事業の話をする時は、必ず質問項目に「どんなアセットが積み上がるのか」と「それは本当にアセット価値が高いのか」を聞くようにしたいと思います。