アイスタイルの決算から見る成長の鍵は「ブランドオフィシャル」という広告SaaS事業

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先週のマネーフォワードの現在の株価は割高か?に続き、ネット企業分析サロンからのスピンアウトコンテンツです。

今週は8月3日に通期決算発表があったアイスタイルです。

アイスタイル:ヤフーファイナンス
アイスタイル:2018年6月通期決算資料

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アイスタイル:企業価値と業績

☆株式
時価総額:882億
株価:1,319円(2018/8/7終値)
PER:91倍

☆業績実績(2018/6)
売上:284億(YonY+50%)
営業利益:21億(YonY+45%)
当期利益:12億(YonY+10%)

☆業績予想(2019/6)
売上:361億(YonY+27%)
営業利益:18億(YonY-15%)

株価に対する梅木の見解

・現状&短期
→2018年通期決算で2019年は投資強化で減益予想で、一旦売られる。8月3日の決算発表後は若干売られたが、すぐに回復した。だが、その前に無駄に上昇していた感が拭えず、最高値は1,807円で期待が先行していた。

ちなみに1年前は600円代を付け、PERも35倍程度だった時期もあった。メディアセクターで35倍は成長株にしては割安と言えた。

・中長期
→2016/8に発表した中期経営計画の2020年営業利益目標70億まであと2年。2019年が営業利益18億で、そこからの70億はかなりの高いハードルと感じる。

70億達成の場合、当期利益は42億と見なしてメディアセクターの成長企業PER水準の40倍をかけると時価総額1,680億円となる。このロジックでいえば株価2,510円程度。

8月上旬の「SPA!」でアイスタイルがお勧め銘柄として紹介され、目標株価2,000円となっていたが、仮に営業利益60億で当期利益36億だと、PER40かけて時価総額1,440億円。株価2,150円となる。中期経営計画を信用せず、それより若干下方で見積もっても、株価2,000円に届く実力はあるという見立てなのだろう。

IRで営業利益の項目(添付)に「修正が必要であれば今後検討」とあり、修正される可能性が高いと考えられる。この下方修正があった際に、株価は一旦落ちるのではないか。気になるのが、修正幅がどれくらいとなるかだ。

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市場:LIPSなどスマホネイティブに駆逐される?

セグメントは下記3つ。洒落た名前にしようしてわかりづらい。IRのセグメント名は使わず、下記を使用します。

On Platform=アットコスメ
Beauty Service=店舗
Global=海外M&Aが東南アジアの店舗

・市場
→下記の図によると化粧品市場は2.5兆円、そのうち広告宣伝費は6,200億円で、アットコスメの化粧品広告市場におけるシェアはまだ1%程度。成長余地はまだまだあるが、後述のLIPSなど競合も増えている。

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・競合
→コスメとは言い難いので、アットコスメの中では注力カテゴリーではなさそうだが、リクルートのホットペッパービューティーの予約送客課金の伸びは凄い。本来はここも取れる市場だったのではないかと思う。

一応、アットコスメ内にもヘアサロンやネイルサロンの予約導線はあるが、規模はホットペッパービューティーに遠く及ばないだろう。

この市場を取れなかった要因としては、リクルートは小規模店舗への営業に強いが、アイスタイルはそういった営業体制になっておらず、そこでリクルートと戦うのは得策ではないとし、あえて見送った可能性もある。

アットコスメの潜在的な競合としてLIPSなどスタートアップ系のプレイヤーが存在する。

現状ではアットコスメユーザーは非常に多いが、20代前半はLIPSのユーザーが増えている感覚値があり、CGMのため料理市場にようにTVCMでのパワープレイのグロースにならないと見るが、水面下でじわじわとアットコスメのシェアを侵食していくと予想。

後述するが、アットコスメはスマホファーストのUIになっておらず、楽天的なUIであり、若者に今後受け入れられなくなる可能性が高い。LIPSなどの新規プレイヤーに対して、適切なタイミングでM&Aなどの打ち手が打てないと、クックパッドのようにクラシルやDELISH KITCHENにシェアを奪われて、逆転される未来図も十分にあり得る。

ブランドオフィシャルというSaaSに利益成長がかかってる

・注目
→アットコスメでB向けに広告の次の柱としてSaaS展開を2018年4月から開始。「ブランドオフィシャル」という名前で、いわばライン公式アカウントのようなもの。月50万円の月額課金モデル。目標契約は400ブランドで、中計の達成はここの成否次第と言えるのではないか。

ブランドオフィシャル

仮に400社導入すれば、月商2億で年間24億。利益率も高そうで、営業利益に多大なインパクトがある。(人件費とシステム費用くらいだろうから、営業利益率50%を越えるポテンシャルのある商材と見る)

・事業資産
→コスメに関心の高いCと、そのCにアピールしたい広告主B。

Cを拡張して考えると、コスメに興味がある人はヘア・ネイルサロンにも興味があり、ホットペッパービューティーの市場も取れたはずと感じる。だが前述の通り、アットコスメの広告主はナショクラ中心で、リクルートのように中小店舗営業は得意ではなく、カルチャーにも合っていないため、敬遠したという見方が妥当かもしれない。

Bに対するマネタイズを、水モノの広告から、SaaSに転換を図っている。療育は違えど、マイクロソフトやアドビが売り切りモデルからSaaSモデルに転換して成功したように、ここの成功がアイスタイルが営業利益50億以上を出し、安定的に時価総額1,000億円台を維持するための最大の鍵と考える。

・KPI
→決算説明資料からは「MAUと会員数」と置いているように見えるが、より重要なのはMAUであると私は判断する。

直近のMAUは1,560万だが、伸びておらず横ばい傾向。

会員数は増加しているが、アプリは会員登録しないと見れない。閲覧のみのユーザーを取り逃がしており、DL時の離脱率が高そう。

会員化しなくともMAU伸びればメディアパワーが伸びて広告に繋がるのだが、SaaSのブランドオフィシャルの媒体資料を見ると、「ユーザーとのつながりを濃くする」ことを提供価値と捉えている。

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添付のIR資料で、リアクション数を「コネクト数」としているが、これを指標にするのは本質的ではないと感じる。

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Facebookで言い換えると「ブランドページやりましょう!いいね!たくさん付きますよ!」と売り込んでいるようなものである。

この「コネクト数最大化」のために、会員数をKPIとして重視していると思われ、非会員のUXが犠牲になっている(会員ログインないとアプリの閲覧すらできない)

アプリで会員ログインしないと閲覧できないとなると、新規ユーザーの流入に歯止めがかかり、新規ユーザーが増えないと結局は会員数も頭打ちになる。この辺は議論したかと思うが、それでもSaaS売上のために会員数を獲得する方向に振り切ったのだろう。

非常に意地悪なことを言うと、このブランドオフィシャルはLINE公式アカウントの設計に似ていなくもないと感じるが、LINE公式アカウントの効果が悪いという話はよく耳にする。LINEは「フォロワー数の多さ」を主張するが、アカウントによっては7割型ブロックされたいたりもして、必ずしもユーザーと広告主がWin-Winになっているとは言い切れない。

コネクト数をKPIとしてしまうと、LINE公式アカウントのようなワークしない商材に陥る可能性もあり、そこは注意したいところだ。

とはいえ、事業者視点ではSaaSで売上利益が安定するのは非常に好ましいことで、事業者、ユーザー、広告主の3者のバランスをどう絶妙にハンドリングしていくかがポイントとなる。

言い方は悪いが店舗やグローバルは規模を大きく見せたいために売上を積んでいるに過ぎず、店舗セグメントとグローバルセグメントのモニタリングの重要性は低い。営業利益の比率で見ると、アットコスメ事業でFY2019予測は80%程度を占める。

本丸はあくまでアットコスメ(しかも利益的にはSaaS)で、店舗やグローバルはお化粧に過ぎない。店舗は増やせば一定の売上の伸びは見込めるので、帳尻を合わせる際のパラメーターになりやすいと言える。

要検討・議論項目

1.ブランドオフィシャルの獲得進捗
→この指標が最重要KPI。中期経営計画達成はここにかかっている。獲得の精度は正直読みづらいが、2019年度下半期にクロージング強化とIRに出ており、2019年度3Q4Qでの進捗に注視。

2019年通期予測でアットコスメセグメントは売上93億(18実績73億)営業利益31億(18実績26億)の予想。この伸びの大部分はSaaSに依存すると思われる。

2.メディアパワーの維持
→MAUのモニタリング。LIPSなど新興系にシェアを奪われるか否か。

3.ポジティブサプライズのポテンシャル
→グローバルでまたM&Aなどしてアップサイドをうまく作ること。単に店舗を増やして売上を伸ばしていっても、ただの小売業なのでさほど評価は上がらない。

上記3点がポイントに思えます。

営業利益50億出ればメディア企業としては当期利益30億PER35倍でも時価総額1,050億になる。

営業利益50億突破にはブランドオフィシャルの出来に大きく依存しそうですね。

現状はPER90倍ですが、中期経営計画の数字を投資家は信じている。かつ、その達成の主要因となるブランドオフィシャルに期待している。と見るのが妥当かと思います。

中計のロジックがしっかりしているので、来期が減益予測になってもそこまで株式市場は過剰に反応しない。同じ減益予測でも中計のロジックがアイスタイルほどは明確ではないGameWithと株式市場の反応は対照的です。

ただ、中計未達予想のアナウンスと、SaaSの不振が明確になると期待値がグッと下がり売られるかと思います。400アカウントへの導入を目指すブランドオフィシャルですが、アップサイドのアカウント数も把握しておきたいところですね。仮に成功したら単価は上げやすいと思うのですが、アカウント数は化粧品系広告主に限定してしまうと、アップサイドが低い。

以上です。

恥を忍んで、過去の本誌のアイスタイル関連の記事を貼っておきましょう。

アイスタイルの株価が2015年初から5倍に上昇したが明らかに割高(2015/10/28)

すげえな売り推奨してるw 実際この時紹介した株価は1,081円で2016年から2017年夏まではだいたい1,000円を割っていたので、1年程度の短期で見ると的中しています。しかし2018年に入ってからは1,000円を大幅に超えてきているので、中長期保有でいうと「売り」は正しくありません。

最近は「買いだ」「売りだ」ということは少なくなりましたがw 時間軸とセットで語らないと話になりませんね。3年前の私の分析は雑すぎてお恥ずかしい限りです。黒歴史。

アットコスメのアイスタイルが上場。クックパッドとの比較からジャンル特化型CGM事業の成長要因を探る(2012/3/9)

これは上場直後の記事ですね。上場した頃は時価総額100億前後でした。有料課金がスケールのポイントと指摘していますが、その後も有料課金は大して伸びていません。私の黒歴史二号です。

2010〜2012年はメディアセグメントのアットコスメ事業の売上比率60%程度と高かったのですが、2018年実績でいうとアットコスメ事業の売上比率は25%まで落ちており、売上は店舗と海外で積み上げていったという歴史的経緯が伺えます。

店舗と海外というボリュームで成長させつつ、メディアが伸びる時間を与えていたという見方もできますが、メディアパワーは2016年ごろからは横ばいです。なので、SaaSが金脈になるかも!という点に気づいたことが良くて、SaaS事業のグロースに本当にかかっている感じです。

上場時にクックパッドと比較していますが、アットコスメのSaaSが当たれば、ジャンル特化型メディアのマネタイズとして大いに注目に値します。

ワンショットの広告ではなく、広告をSaaS化するというモデルが機能するジャンルであれば、ジャンル特化型メディアの再成長戦略としてハマる場合もあり、その試金石としてもブランドオフィシャル事業の成否はとても楽しみにしています。

長くなりましたが、以上です。こういう話を銘柄ごとのスレを立ててグダグダとしたいので、ネット企業分析サロンに関心のある方は下記から是非。

銘柄ごとのスレがあると、時間軸で自分が何を考えていたかわかりやすくて、有意義です。



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