2016年1月19日にローンチしたバズフィード・ジャパン。メディア事業であるがゆえ、スケールにはやや時間がかかるということは同業者としては理解している。
とはいえ、当初の期待の割には、ビジネスマンの間で話題にされる機会もなくなったように思える。実際にUmekingのタイムライン上でバズフィードの記事を見かけることは本当にほとんどないのだ。自分だけではないはずだと思い、アンケートをとって見た。
バズフィードって
— 梅木雄平 (@umekida) 2016年5月9日
回答数も173件なので大したことはないが、この結果をどう見るか。むしろ、16%が「毎日見るよ」というのが驚きだった。少なくともUmekingのフォロワーには20人以上はバズフィードを毎日見る奴がいるのか。どんだけ暇だよ。一方で52%は「全く見ない」という結果となった。
ハフィントンポストも私は全く見ないが、案外マスは見ているというように、バズフィードもヤフーの後押しもあって、マスに浸透する可能性は否定しきれない。
とある木曜の夜に半蔵門のカレー屋でビーフカレーを食べていたら、バズフィード・ジャパンの鳴海さんと遭遇したので、鳴海さんに少し話を聞いた。
ちょうど「バズフィードが全然バズってない件」という記事を書こうと思っていたんですが(梅木)
ぜひぜひー(鳴海)
鳴海さんはネガティブな情報でも歓迎という、ある意味Umekingより高いジャーナリズム精神のある方である。特定の人に対するポジティブなネタもネガティブなネタも構わず拡散する。私が燃やされているような記事でも構わず拡散する。そこに情が入り込む余地はない。プロフェッショナルである。これは日本人からするとやや理解できない感覚かもしれないが、私は同業として理解できる一方、自らの情の甘さを認識する。
なぜバズフィードに転職されたのですか?(梅木)
バズフィードってしばらく外部ライターを使わないらしいんですよ。バズフィードのCMSって先端的と聞いていて、そのCMSを使いたくて。僕、CMSヲタクなんです(鳴海)
え!?CMS使いたいから転職したの?
ちょっと驚いたのですが、CMSがコンテンツを左右するという話をされていて、NAVERでバズコンテンツを量産していた鳴海さんがそう仰ると説得力がありました。
普段どういう風に仕事してるんですか?KPIとかあるんでしょうか?(梅木)
1日1本書けばいいという感じで、街をふらふらしながらネタを探していますね。KPIとしてはPVは見ていなくて、シェア数やどういう反応をされるかを見ています。BUZZSUUMO(有料)を使ってトラッキングしています(鳴海)
PVを追わないというのは、広告営業もやっている私からすると、2016年の日本のビジネス社会では綺麗事に思える。本国のバズフィードはご存知の通り記事広告で売上を伸ばしてきた。ロジックとしては、サイトのPV規模と1本あたりのPVは関連が薄い。1万本の記事の100万PVのサイトと、50本の記事の50万PVのサイトであれば、後者の記事広告の方が1本あたりPVが期待でき、良いメディアと思われるだろう。
しかし、日本の広告主や代理店はそんな単純な計算すらもしないで、プランニングするような人がほとんどではないか。代理店も「あのメディアはPV規模が小さいですが、記事広告はめちゃ強いっすよ」という売り方はしない。とにかくメディア全体のPV規模がまずあって、そのメディアの業界内のプレゼンスを上げるということが、広告を売るというビジネスをする上では先決に思える。なので、Umekingも日々東カレのPVで消耗しているのだ。
ちなみにTheStartupは当初からPVを追わない運営方針であり、広告主からの出稿も受けてきたが、基本的にはUmeki Salonや昨今はnoteといった課金モデルで売上を伸ばしてきた。おそらく、2016年通期はUmeki Salonとnoteのみで年間2,000万円以上は売上が立つ。
自社メディア事業のみで3,000万円の売上までいけるかは際どいところだが、誰も雇っていない個人メディアであり、労力も週の15%程度なので、収益性としては十分である。ちなみに、労力を週30%にしたからといって、売上が2倍になるわけではない。そこが悩みでもある。
しかし、法人が運営するメディアは広告収入が軸であり、バズフィードも記事広告がビジネスモデルの主軸であるがゆえ、本来的にはPVとは切り離せないはずで、厳密に言えば記事広告のPVは広告主から求められるはずだ。
バズフィードって、どんなコンテンツでバズらせたいんですか?
(梅木)信頼性のあるもの、ポジティブなものですね(鳴海)
これはすごく興味深くてですね。強いオピニオンやネガティブな話でバズらせるのはさほど難しいことではありません。逆に、ポジティブな記事でバズらせるって難易度が高いなと思いました。
DeNAに売った方がいいSpotlightとかが、ポップにバズらせるという意味合いでは、バズフィードジャパンの直接的な競合にもなる気がします。Spotlightは芸能系の笑えるネタとかもある気がしますが、クリックしてみたら記事が消えていたということも少なくありません。そういった信頼性に対して、「拡散した記事がデマだった。なんてことはあってはいけない」と鳴海さんは強く意識されていました。
ポジティブにバズらせるというのは、サラダチキンのようなことをおそらく指すのでしょう。セブンイレブンの売上に彼はどれほど貢献したのでしょうか。
ちなみに、飛ぶ鳥を落とすバズフィードでしたが、本国では2015年度の売上目標約280億円が未達に終わり、約200億円で着地。2016年度の売上目標を本来の半分である約280億円に下方修正したと発表。
引用元:BuzzFeed slashes revenue forecasts after 2015 income falls $80m below target
さすがに強気すぎる目標だったか、このユニコーン企業はどのような末路を辿るのか。IPOまでいくのか否かには注目したい。
本国での勢いが落ちてきているといえなくもないバズフィードだが、日本市場を席巻する日は来るのだろうか。ハフィントンポストもSpotlightも読まない私にとっては、東洋経済オンラインの方がよほど面白いのだが、自らのユーザー感覚のみで市場の勝敗を判断するのは愚かである。バズフィードがどんな記事をバズらせてくるか、期待したい。
他人のメディアのことなどいえず、この記事自体が全然バズらない可能性もあるというか、バズらなそうだなとは思う。
Umekingはポップにバズらせるセンスに自信がないので、バズフィード社を受けても、不採用になると思われます。
以上、半蔵門のカレー屋での会話を少し再現しつつ、思ったことを書いてみました。
ちなみに、鳴海さんはBLOGOS時代に比較的早くTheStartupをBLOGOSに転載しないかと、声をかけてくださった方であるということは、梅木マニアの間でもあまり知られていない事実である。