トレンドのない時代の編集術

Pocket


最近、人生史上最高に「編集者として」苦しんでいます。自分を活かす方が得意であり、相手を活かす編集は本質的に向いてないという仮説が自分の中ではあります。しかし、編集者には作家的要素があり、作家にも編集者的要素がある。編集者としては私は一流になれない気がしていますが、まずは1.5流程度まで編集力を高める、日々研鑽でございます。

そんな中で最近勧められて読んでみた「圏外編集者」という本から、気になった箇所をピックアップして少し考えてみます。

圏外編集者

知名度がいろいろだったり、時にジャンルが全く違ったりする音楽を入れて予想外の展開にしていくのが、フロアを盛り上げることにつながる(P52)

DJの話ですが、DJは高度な編集力が要求されるわけで。スタンダードナンバーばかり入れてもつまらないし、誰も知らない曲ばかり流してもつまらない。様々な曲をミックスしてつなぎ合わせることで、特有のグルーヴを生み出すわけです。WEBメディアにも全く同じことがいえて、「THE」な直球コンテンツもあれば、「え?」的な変化球コンテンツも必要。定期的に「え?」的なモノを投下していくことで、飽きさせないというか「そう来たか!」と思ってもらえることが大事だなあと。

メディアが取り上げる例外的な「東京」がいかに美化されたウソなのか、それが地方の子達にいかに無用な劣等感を植えつけているかが実感できた。(P84)

これは「東京」を謳うメディアとしては看過できない話。私は東カレWEBではリアリティを追求しているつもりなので「美化されたウソ」を伝えているつもりはない。けっこう、「そんな馬鹿な」的なリアクションをいただくけど、極力リアリティを伝えるようにしていて、全くリアリティがなければディティールに落とし込めないので、けっこうリアルを伝えているつもり。

厳密にいえば「東京」といっても「港区近辺」が中心であって、台東区とかは我々の主要な守備範囲ではありません。地方の人たちに無用な劣等感を植え付けるほどの想像力は働きませんでしたが(私も北海道出身なのにね)、メディアがリアリティを伝えていないと言い切ってしまうのは、この著者の勘違いでしょう。もちろん、虚像のみお伝えしているところもあるでしょうが、隣のひとの普通な暮らしを見て何が面白いの?というのが私の感覚であり、多少浮世離れしてるほうがエンタメとして面白いと思う。リアリティと浮世離れのバランスが重要。

好きな本を見つけてじっくり読むこと、100回読み返せる本を何冊か持つことが大切。

実はクリエイティビティって「多読」からは養われないと私は思っています。意識の高いビジネスマン(笑)の中には多読が偉い的な風潮がなきにしもあらずな気がしますが、多読の結果、脳内にその養分は蓄積されているのか。ビジネス書であれば、要点を摘めば良いのかもしれない。しかし、小説とかドラマとか音楽とか、クリエイティブなモノほど、1つの作品を深く味わうことでこそ、見えてくる世界というのがあります。見えなかったモノに気づくようになるというか。

大学時代音楽サークルにいた頃は、同じ曲を1,000回以上聞いたりしていました。本を100回読み返したことはないのですが(1冊の本を10回も読み返したことはないかも。あ、ホイチョイとかは読み返したかもw)その作品を徹底的にすることで、自らのクリエイティビティに必ずや活かせます。一度読んだだけの人に、村上春樹調の文体で文章を書くことはできません。

この時代を決定付けるのは、すでに「トレンドのない時代」に突入しているのではないかということ。たぶん、現代史上で初めて。(P254)

インターネットによって、マスメディアの影響力が分散してきた。マスメディアの虚像もインターネットによって駆逐されつつある。トレンドはマスメディアによる煽動や拡散で形成されてきたモノが多く、マスメディアが従来ほどはその機能を果たさなくなった今、トレンドという概念が失われつつある。

考え方を変えると、メガトレンドを生み出す難易度は格段に上がったが、プチトレンドは確実に生み出しやすくなっている。個人へのパワーシフト、個人の時代と言われる所以はそこにある。(メガ)トレンドなき時代には、爆発的なリーチ数を望むことは難しいが、深いリーチによって、メディアと読者の関係性の質を上げることは可能になったと思う。

中間業者を介さないC2C的な販売関係によりクリエイターは誰が読んでいるかわかる(noteは購入者履歴がわかる)、Facebook上で展開する有料サロンでは読者の顔が見える。なんか自分が普段やってることばかりに落ちてきたけど、時代の編集の方向性として、自分がやってきたことはだいたい合ってるかなと答え合わせにはなった気がする。狭く深く突き刺す編集術が、トレンドなき時代には主流になっていくのだと思う。旧くはターゲティングメディアと呼ばれたものを、インターネットで深化するのだ。

大抵の編集の教科書には「異質なモノを組みあせろ」と書いてあって、言いたいことはこの本も一緒かなと。この著書の強い主張としては、ロードサイドというかアウトサイドというか、メディアの虚像ではなく、メディアは目を向けないところに目を向けろという話であったと感じた。「圏外」編集者とは、従来メディアからすると圏外なところばかりを狙って行ったよという背景の現れであろう。



Pocket

コメントを投稿する

「トレンドのない時代の編集術」に対してのコメントをどうぞ!