本誌もかつてはメディアっぽさを演出するために、スタートアップ業界の重要なニュースリリース合戦(ほとんとが大型資金調達ネタで、ごくたまに買収ネタなど)に加わっていました。
リリース合戦の相手は大抵Tech Crunch、The Bridge、CNET、そして日経あたりです。他のメディアにとってはリリース「合戦」などとは思っていないかもしれませんが、ストレートニュースで手間をかけず、かつ調達した起業家がソーシャル拡散してくれて手っ取り早く数字が取れ売るネタなので、「いかに調達リリース合戦でソース元として拡散されるか」を2年前くらいに頑張った記憶があります。
当然うちは零細メディアですから、Tech Crunchなどには負けるわけです。しかし、時々ソーシャル拡散数では勝てるようになり、同タイミングに記事を出せば、濃い内容を書けばそっちが拡散されるということを身を以て体感しました。
そして資金調達記事を書くと、各企業が「メディア掲載一覧」として各社のHPに記載してくれます。そこで他メディアとフラットに並んでいれば「メディア感」を醸し出すことができるのです。PVが取れなくても、ニュースの発行体からすると多くのメディアで取り上げられたほうが都合が良いので、大抵は歓迎されました。
そうした地道な取り組みの甲斐もあって、「メディアっぽさ」を醸し出すことは一定以上はできたと感じたこともあり、資金調達リリース合戦に参戦することはしばらくなくなりましたし、今後もほとんど書かないでしょう。まあ、TheStartupというメディアの運営の裏話です。
この手のスクープ・リリース合戦においては、メディア業界の慣習として「日経ファースト」なるものがあり、日経はニュースリリースの発行体が敷いた情報解禁時間を破っても良いという暗黙知があり、現に結構破られているケースを目にしました。
本日2016年1月3日でいうとairClosetの10億資金調達の記事が日経に載っていますが、他誌の掲載はありません。おそらく他誌は1月4日か5日に掲載してくると思われます。これはairCloset側から「日経だけ3日掲載でいいっすよ」と言ったわけではなく、日経が勝手に破ったのではないか?と推測します。過去にそういう例は数多あるからです。
こうした鮮度が高い記事はスピード命で、airClosetの10億調達の記事が明日以降Tech CrunchやThe Bridgeに掲載されても、日経ほど読まれないでしょう。日経はその立場の強さを利用して、解禁時間を何度も破り、他誌からPVを奪っていっているのです。
同じ解禁時間に記事を出すというのは紳士協定的な話にも思えるのですが、日経にはそれが通じない。日経は普段から企業幹部と癒着し、その手のスクープを取ることが価値とされている、と記載された記事も何かで読んだことがあります。
この日経の卑劣なやり方は、メディア弱者からするといたたまれなく、何度も腹ただしい思いをしてきました。同じ解禁時間に記事を出せば、内容が他誌より良ければリーチは最大なんだから日経が読まれるだろうに。そうした自信がないとかではなく、ビジネスとして交渉力の強さを活かしたプレイなんでしょうね。それは理解しています。
こうした、資金調達合戦で日経と戦って消耗するのも疲れましたし、「リリース合戦という消耗」からは本誌は基本的には手を引く次第です(スクープを先取りできれば話は別ですが)。
本稿のタイトルは日経と戦う人向けという極めてニッチな内容ですが、読者の皆様には日経は紳士協定もクソもないメディアなんだということを再認識ししていただきたく、今日のリリースを見て思ったので書いておきました。
もちろん、日経にも中には良記事はありますけど、情報解禁時間を破らないと勝てないような記事しか書けない日経なんて。ポイズン。という感じ。
日経じゃなくても、発行体に圧力をかけて自分のメディアだけ解禁時間を早めてもらった記者も知っていますが、なぜそんなことをするのだろう。私はもうそんな不毛な競争はやりません。
日経を読むこと自体はどうでもいいと思います。ネット版は有料会員40-50万人いるのはすごいですよね。
日経の報道姿勢は、同業者の観点で見るとあり得ません。
☆追記
読者の方が教えてくださいましたが、この記事と併せて読むと日経の構造の理解が促進できるかと。日経は企業の広報誌ですね。
スクープの裏側 読者が絶対に知らない リーク依存症という重病