先日の記事でインキュベーションプログラムに懐疑的な記事を発表したが、一方で新規事業の立ち上げに注力する戦略を取り「事業開発会社」と称するベンチャー企業も少しずつ出てきている。(新規事業に積極的な企業を事業開発会社と本稿では呼ぶ。 言葉のあやではあるが。)
一見インキュベーションプログラムと似たようにみえる事業開発会社の新規事業だが、事業開発会社の話に特化し、その実態を考察する。
大手ネット企業の新規事業が上手くいかない3つの理由
いきなり批判的な内容から入るが、大手ネット企業では新規事業に参入した結果、見事成功を収めることもあれば、散々たる結果に終わることもある。通常のスタートアップに比べ、資本力や人的リソースにに恵まれたはずの大企業の新規事業がなぜ失敗するのか。その要因を考えてみる。
▷①:金があれば何とかなると思っている
本業で得たキャッシュを元手とするため、資本的な制約が厳しいスタートアップが知恵を振り絞るのに対し、金があればなんとかなるという考えが少なくない。金により思考停止に陥り無駄なコストが膨らみ、結果的に事業が立ち上がらずに大きな累損だけが残って撤退するというケースも見かける。金があればいいというわけではなく、大手が陥りがちな罠である。
▷②:本業で余裕があるからか必死さが今ひとつ足りない
これはスタートアップと比較してのことですが、失敗すると後がないスタートアップと違って、事業が失敗しても会社からクビになるリスクが低いというか、ドンマイで済まされそうな雰囲気がないだろうか。背水の陣感がギリギリのところでの閃きや、開発やビジネス展開のスピードに如実に現れてくるだろう。土日も頑張っているか否かが、単純ではあるがどれだけ必死であるかの指標となるであろう。
▷③:市場環境を見誤っており担当者のリテラシーが低い
社長直轄で行われることが多い新規事業であるが、社長自体が一昔前の成功に胡座をかき、最新のトレンドに十分にキャッチアップできていない場合があるため、事業判断を間違えやすいケースもあるであろう。同様に最新のトレンドに明るい社員がおらず、新規事業の核となる現場社員が見当たらないのも頭痛の種であろう。トレンドに明るく、事業を立ち上げる力がある人間は、自分で起業している可能性が高いだろう。
注目の事業開発会社:Voyage、リブセンス、スローガン
カカクコム、サイバーエージェントなど大手ネットベンチャーで新規事業に積極的なところもあるが、今回はこの3社に注目してみた。
ネット系企業で事業開発会社として認知が高い企業にVoyage groupが挙げられる。メイン事業の「ECナビ」からVoyageに社名を変え、「人を軸にした事業開発会社」としてリ・ブランディングを図っている。HPで確認できる事業だけでも10以上の事業が立ち上がっており、「量を重視する方針」が窺える。本誌でも遠くない未来にVoyage特集を検討している。
昨年末に上場したリブセンスも事業開発会社として名高い。メイン事業であるジョブセンス関連事業以外にも複数の事業が立ち上がっており、事業を確実に立ち上げる「質の追求」の方針があることが窺える。ジョブセンス事業の堅調な伸びに加え、その他新規事業の伸びが今後の同社の業績を牽引するだろう。
学生向け就職活動メディアGood Findを主宰し、幾多もの学生をベンチャー業界に送り込んできたベンチャーヒューマンキャピタル事業を営むスローガンでインキュベーションラボが発足した模様。リンク先のブログによると、一点突破よりも複数の事業を立ち上げていく方針となりそうだ。今後、事業開発会社の仲間入りを果たすかに注目が集まる。
新規事業に取り組まなければならない正反対の事情
企業により成否がはっきり分れる新規事業であるが、なぜ新規事業に取り組む必要があるのであろうか。主に2つの理由があるであろう。
▷①:本業の弱体化が目に見えており、新規事業を伸ばさないと厳しい
過去の本業の積み上げにより、ある程度キャッシュは潤沢にあるものの、数年後の本業の業績予測が市場環境の変化などにより芳しくなく、新規事業の成否如何が会社の存亡を左右し得るケース。必死ではあるが本業自体が芳しくないため、会社全体として悪循環にはまる場合もあるであろう。
▷②:本業は今後も順調だが、更なる飛躍を狙う
本業が伸び、そのキャッシュを元に新規事業を立ち上げる。企業として好循環なケースであるといえる。この「背水の陣ではない新規事業立ち上げ」に関して、スローガン代表である伊藤氏のブログコメントが興味深く、一部編集して紹介する。
新規事業に取り組む理由は組織づくりの観点からです。2010年の秋に新卒1期生だったsyamasakiが会社を辞めました。(これまでスローガンにジョインした社員は私含め16名いますが、辞めたのは彼だけです) 採用したメンバーが辞めるのは正直悲しいことでした。
同時に大切なことに気付かされました。自分たちがイケている事業をやり、挑戦心に溢れて常に新しいことに挑戦する会社であり続けなければ、メンバーは退屈して辞めていってしまうだろうと。どういう世の中にしたいかといった理念をしっかりと共有した上で、常に新しい何かをうみだし、成長し続けるベンチャーであり続けること。それがすぐれた組織を維持する上でも必須なことだと思いました。
企業としてさらに高みを目指したい新規事業もあるだろうが、こうした組織作りの観点からも、優秀な人材が活躍できる場を与えるという意味での新規事業の創出というのは意義深い。
これから事業開発を試みる企業担当者は「上手くいかない3つの理由」に留意して、新規事業を成功させていただきたい。リブセンスなど、手堅く立ち上げて成功の芽が出ている企業もあり、スローガンのように強い組織作りの一環としての新規事業という観点もあるであろう。事業開発会社の新規事業に本誌は今後注目している。