最近、「コンテンツフォーマット」について考える機会が増えています。併せて、メディアのオリジナリティについても。キュレーションメディアのやつらがパクってくるものですから、量の暴力に対抗するには真似できない独自性の高いコンテンツが武器になります。
イケダさんのこの説は興味深く咀嚼しました。
本当の意味でオリジナルなことなんて、書けないんですよ。オリジナリティというのは、突き詰めれば「文体」に宿るんです。なにを語るかは重要ではありません、どのように語るかが、重要なのです。
「何を」ではなく「どのように」というのはおっしゃる通り。その「どのように」を因数分解すると「文体」だけでなく「コンテンツフォーマット」にあると感じました。
文体は個人ブログの方が如実に現れます。TheStartupの場合は著者が相当性格が悪い皮肉屋だけど、実は少し人情味があるという点が固定読者であれば推し量れるはずです。一方でニュースサイトや新聞は「事実を正確に述べる」が正義であり、それだけを求められているともいえるので、個人の色(文体)は現れにくく、面白味には欠ける。
コンテンツフォーマットはニュースサイトであれば「速報!」とか企業のプレスリリースをコピペするだけですから、ニュースサイトであれば議題にすら上がらないかもしれません。せいぜい「フォトギャラリーで、ちょっとHな画像をたくさん入れておけ!」くらいでしょうか。
TheStartupには様々なコンテンツフォーマットがあります。ポジショニングマップでまとめるとこうなりますね。この二軸のマッピングは一時期業界で「梅木マップ」と呼ばれたらしいので、これもフォーマットといえばフォーマットですね。
ピンクがPVが跳ねやすく、青が跳ねにくいフォーマットです。基本的に「模倣難易度が高い」コンテンツの比率が高いメディアが言わずもがなオリジナリティが高く、独自のポジションを築きやすいです。各フォーマットを解説しましょう。
模倣難易度が高い:ファンドリターン予測やCA女子分析
☆1:賛否両論系
これは他の書き手が勇気がないため模倣難易度が高いだけかもしれませんが、下記の「炎上工学」に沿ったコンテンツフォーマットです。「多くの人が興味を持つ分野」×「極論」が方程式となります。
参考記事:「炎上工学」というヒットコンテンツの法則
ただこれはブランディング上マイナスに働いている説があるので、数は減らす方向で考えたいですが、こういうのがたまにないと面白くないんですよ。
☆2:ファンドリターン予測
これは本誌独自フォーマットとして業界の玄人から人気のようです。バズらないんですけどね。「回収不能」とか知り合いの経営者の企業が書かれている記事をシェアできないですよね。それなりに予測が当たっていると思われます。
☆3:業界分析
他であまり見かけないですが「動画」とか「教育」とか「月額課金」とか特定の領域をまとめる記事です。その領域を包括的に把握できるのが人気なのでしょうか。読者視点だと、あれば便利だよなあと思います。
☆4:IPO分析
速報ネタですが、他のメディアは数字を踏み込んだ分析をしてこないので、他の記者と分析力での差別化による模倣難易度が高まっています。ちなみに「社名 上場」などのSEO対策にもなるので、狙って取り組んでいます。
☆5:小説
なんか4回くらいで終わりましたがw 小説をやるメディアは多くないのと、他であったとしてもその小説自体が被ることはあり得ません。固定読者が読み返しに来るリズムができるんですよね。この知見は東京カレンダーWEBに反映されています。
☆6:CA女子
もう最近はやっていませんが、5記事くらい書いただけで、市場からは「CA女子アナリスト」と認知される始末です。誰もやらない、そしてやれない超ニッチは模倣難易度が高くインパクトも強い。今回のAKBの動画は前回よりクオリティが落ちてしかもなんかダサいなと思ったので掲載を見送り。
☆7:替え歌
これは実は記事下でたまにあるのですが、「Tomorrow never knows(人は悲しいくらい忘れていく生き物 グノシーで読んだ記事も スマニューの記事も)」的な業界事情の風刺歌が入ります。
模倣難易度が低い:公開情報まとめは真似できるが価値ある
☆1:資金調達ニュース
The BridgeやTech Crunchでも見られるやつです。本誌ではこのフォーマットは撤廃しようと思います。裏話をすると、資金調達ニュースを各メディアと同時に報じたり、各社HPのメディア掲載履歴に載ることで「メディアっぽく見せる」ためでした。
ある意味、数字が取れなくてもブランディングと割り切ってやっていましたが、最近では同時に出せばTSでも各メディアの表面上に出る「いいね!」数とかで勝てることもありますが、他メディアで読める記事なので、もうやりません。
☆2:資金調達まとめ
ニュースよりまとめてる分手間がかかるのですが、これも所詮はニュースを拾って加工しているだけで模倣難易度は低いフォーマットです。最近、月次で資金調達まとめを出す個人ブログもあるので、この辺は気が向いたら出すくらいにします。DBは毎日更新しているので、手元にデータはあります。
☆3:時価総額定点観測
これなど模倣難易度が低いフォーマットの最たる例です。30分で作成できる記事ですが、相場観を掴むトレーニングとしても自分で作成すると有用なので、うちがやる必要性は低いですが、しばらく取り組みます。
☆4:書評
誰でも書評は書けるわけですが、同じ本でも読み方は人によって違うわけで、他人の書評を読むのは結構面白かったりします。模倣難易度は高くないけど、切り口によっては化けるコンテンツ。ちなみに与沢翼関連本の書評かいたら「与沢翼」でグーグル検索8位になって、そこからのアクセスが比較的あります。
その他の「新サービス紹介」や「メディア論」は中途半端な位置付けですが、これのフォーマットにはそれはそれで固定読者が付いている気がします。「上場企業分析」や「M&A(あえてM&Aとフォーマット化しましたが、上場企業のM&Aまとめなど)」は公開情報を拾ってくるだけであり、ファンドリターン予測などと比べて模倣難易度は低いですが、読まれる時は読まれますね。
以上が、TheSTartupのコンテンツフォーマット・ポートフォリオ。
「コンテンツフォーマット論」を考える際に有用な事例がNewsPicksのこの話でした。
・速報(ニュース)では有料課金できない
・「毎日連載」「深掘り」「ストック型」で読者は課金する(例:イノベーターズライフ)
引用元:ニューズピックス 佐々木編集長が見つけた「勝利の方程式」
NewsPicksはPVではなく課金をKPIに置いていますが、15日毎日連載のようなコンテンツフォーマットは、どこかでユーザーの「続きを読みたい、その前の記事を読みたい」という課金トリガーを引いて課金に誘導させるという観点では最も相性が良さそうです。数日、魅力的なコンテンツを浴びせて読者のそのメディアへの訪問を「習慣化」させる中毒性のあるコンテンツであることが必須条件ですね。
逆に、単発の速報スクープ記事では課金されないというには、その記事は数時間タイムラグがあっても他のメディアでも読めるから。
冒頭のイケダさんの話に戻りますが「そのメディアが書くべきこと」を突き詰めることが大事だと思います。まだニュースで消耗してるの?