Abema TVの成否を今こそ論じたい

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最近代々木のホームパーティで久々にCA女子なるものたちに遭遇しましたが、全盛期より(CA女子力的な)クオリティが下がっていますね。やはりここ数年は大量採用なのでしょう。

最近、亀田興毅さんの生放送視聴で話題だったAbema TVですが、昨年のローンチ時に本誌ではこういう記事を出していました。

Abema TVは当たるかもしれないと思った件(The Startup 2016.4.5)

こちらの記事でも、CA女子に関してはこのような見解を述べましたが、このトレンドに変化はなさそうですね。

CA女子は旬を過ぎたプロダクトであり、BCGのプロダクトポートフォリオマネジメント(PPM)でいうと、キャッシュカウから負け犬へとシフトしたフェーズであるといえる。

話が逸れました。本題はAbema TVについてです。インターネット業界の風潮的には、DL数もWAUも伸びてるし、いけそうだよね!感を醸し出しているかと思います。しかし、2017年5月現在、業界人に「Abema TVってどう思いますか?」という質問は、ある種の踏み絵と感じています。

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1年前の当初の私の仮説はこうでした(上記記事から抜粋)

①:スマホの中にTVを作った。スマホ最適化TVは実はまだ存在しない

②:ユーザーのTV視聴リズムを、そのままスマホにシフトすれば良い

③:フロー型コンテンツとしてセレンディピティーを誘発しやすい

「スマホ最適化テレビ」という概念は正しいのか?

まず①に関してですが、「スマホ最適化テレビ」という概念がそもそも正しいのだろうかという疑問がここ1年で私の中に芽生えました。デバイスごとに最適なコンテンツやフォーマットは異なるはずで、TVとスマホはデバイスが別なので、TVのコンテンツをスマホに移植してもワークしないのではないかなと。

正直にかつ端的に言うと、1年前に私が立てたAbemaの成功を感じた背景の仮説が間違っていたのではないかということです。

東京カレンダーWEBでの実務を通しても「スマホ最適な動画」は短尺なのではないかなと思います。

Abemaは今のところはテレビの置き換えを狙っているので、TV同様に番組表が存在します。決算資料によると25-34歳のユーザーが一番多い。年代的にはターゲット層であっても港区おじさんジュニアである私ではなく、地方のヤンキーが向けであると考えれば良いのか。私の周りではAbema視聴者は皆無です。

少なくとも私の感覚では「TVの視聴リズムで」スマホで動画を見ることはありません。スマホ動画は隙間時間での視聴が多い。Abemaは長尺なので隙間時間の暇つぶしには向かない。寝る前とか家でTVがないユーザーの視聴が多いか、あるいは高校生がこっそりギルガメッシュナイトを視聴する感覚なのか。

ユーザーがTVの視聴リズムをスマホに本当に持ち込むのか?という点が、1年前は特に疑問に思わなかったのが、動画制作や配信の実務も手がけた上で、最近は疑問に感じます。現に、国内のアプリ動画スタートアップたちは1分程度の動画が多く、3ミニッツの動画ですら、3分もありません。

本質的なKPIは視聴時間数ではないか

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上記は決算資料からですが、1月に急増後、資料にある通り「ベースアップ」はしています。

動画スタートアップが再生回数で競うのが意味がなく再生完了率をKPIにしていることがあるのと同様に、AbemaはTVより明確にデータが取得できるという構造から、社内的なKPIは視聴時間数に設定しておくべきではないでしょうか。

視聴時間数に応じて広告在庫が増え、eCPMいくらで売る、というビジネスになるはず。(GRPより元になるデータの信憑性が高く、ゆえにTVのようにざっくりとしたごまかしがきかない)

事業責任者であれば、まず気にしたい指標としては広告在庫がどれだけ伸びて、そこに広告が入ってくるかという点。まだ積極的に広告販売していないと聞きますが、MAUが800万あっても、ユーザー平均視聴時間が1分だと相当寂しいですよね。「視聴時間数」を知りたいところで、この数字を見ないと本当に好調なのかは外から判断しにくいです。

グロースの鍵はオリジナルコンテンツ

Abemaは初期は広告、その後月額課金でグロースさせたいと思うのですが、月額課金の成否と広告の成否はKPIが別。ゴミコンテンツをばら撒いても課金には至らないので、課金トリガーを引く強力なオリジナルコンテンツが求められ、NetflixやAmazonプライムと競合してきます。

Abemaを外側から見ると、実はNewsPicksに似ていて、まずは既成のコンテンツをソーシングしてくる。テレビ朝日との合弁ということも関係してか、アニメソーシングをフックに初期はグロースした。

次の段階はいかにオリジナルコンテンツで課金させるかが肝になる。NewsPicksは佐々木編集長の起用もあり、ここに腰を据えて取り組んだ結果、それなりの伸びを示し始めた。

この「動画オリジナルコンテンツ」は、考えるポイントがいくつかある。

課金トリガーを引くコンテンツと予算の関係性

最近ネット業界の有識者とディスカッションした話を一部引用しますが、動画制作予算とアーカイブ性で各プレイヤーをプロットするとこうなります。

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右上から説明すると、まずNetflixとAmazonプライムはガチでオリジナルコンテンツに予算を割いてきています。ものによっては1話数億とか、あるでしょう。

肌感覚的にですが、最近地上波のあのドラマ見た?というよりも「テラスハウス見た?」「バチェラー見た?」と口コミされていることの方が多くないでしょうか?いずれもキャストはセミプロなため、キャスティング費用は抑えられているものの、バチェラーとか撮影費用は相当かかってそうです。

右下象限ですが、料理動画系はアプリ内検索を駆使し、レシピを探す行動習慣を身につけるユーザーをどれだけ作れるかが肝です。動画自体ははっきりいってコモディティであり、「肉じゃがの作り方」の動画それ自体でそこまで差別化はできないはず。

動画をローコストで大量生産し、あとはアプリ勝負に持ち込むというプレイで、スタートアップらしい戦い方ができます。一見、キュレーションメディアに構造が似ている(大量生産方式)のですが、根本的に異なるのはコンテンツのアーカイブ性で課金トリガーが引かれるため、現状のクックパッドの有料会員数程度(国内で約200万人)のアップサイドはあります。

手前味噌ながら東カレもプロットしておきましたが、1分港区おじさんなどの「謎に中毒性があるコンテンツ」はある意味アーカイブ性は高いといえます。料理動画よりコストはかかりますが、数十万円かかるレベルでもありません。

左下象限はFacebookでバズることはあっても、その動画目当てに課金するほどのコンテンツではないかと思います。よって、左下象限はアプリユーザー数を最大化した広告モデルしか成り立ちません。個人的にはこの象限、結構キツイのではないかと思う。

最後にAbemaを左上象限にプロットしましたが、制作予算はNetflixなどと比べると敵うはずはありません。

Abemaの課金グロースは、テラスハウスやバチェラー級のメガコンテンツ(あくまで各々の国内の課金ユーザー増加に寄与したと本誌が独自に判断した)の有無にかかっているといえ、メガコンテンツを生み出すには予算は潤沢にあった方が有利ではあるといえます。

とはいえ、予算が少なければメガコンテンツを生み出せないとは必ずしも言い切ることはできません。拙著「グロースハック」のように、低予算でもグロースは可能なのです。コンテンツのグロースハックはキャスティングや演出に金をかけるのではなく、スマホでウケる動画コンテンツの仕組みを生み出せるか否かのアイディア勝負ではないでしょうか。

Abemaもオリジナルコンテンツが肝となることをわかった上で、エースを配置してきています。

動画サービスは私のユーザー体験上、テラスハウスやバチェラーなどオリジナルコンテンツでそのアプリを起動し、見終わったらレコメンドで他作品を回遊し、視聴時間数が伸びていく。よって、まずはそのアプリを起動したい、起動トリガーとなるコンテンツの有無が超重要で、テキスト以上に「コンテンツ・イズ・キング」の世界です。SEOが効くとかもないですしね。

あとコンテンツ論でいえば、コンテンツ好きのためのコンテンツなのか、暇つぶしのためのコンテンツなのか、どちらかに振れないと視聴されないのではないかと有識者の指摘もあります。

暇つぶしの場合は1分などの短尺が適していますが、長尺は暇つぶしではなくそのコンテンツ目的で時間を確保するので、質の高さが問われます。私自身、自らバラエティ番組を企画出演少し編集もして、これはうっかり手を出すと危険だなと感じました。

ストレートにいうと、Abemaは長尺だがそれに耐えうる質になっていないことが多い気がします。超リッチコンテンツの制作は、予算と質がある程度比例しそうな気もしますね。

ポジショニングマップから鑑みるに、Abemaはリッチコンテンツか、暇つぶしコンテンツなのか、中途半端な位置にいるといえます。

結論、Abema TVは成功すると思いますか?

上記までの論点を踏まえて、読者の皆さんはAmeba TVは成功すると思うでしょうか?

インターネットサービスのマスでの成功の指標として、地方ユーザーの定着が挙げられます。B Dash Campで中州やすすきのに行く際には、私は必ず現地の人たちに「使っているアプリ」を聞きます。メルカリの知名度やインストール率は高かったです。中州のキャバ嬢に浸透すれば、勝ちといえます。

おそらくテラスハウスとかも、出演者の層が地方人から見たキラキラ系職業が多く、わかりやすく地方人向けに作った気がします。港区女子はテラスハウスには登場しません。

キラーコンテンツなしの状態で、地方ユーザーに定着するのか、それともキラーコンテンツに成否がかかっていると判断するのか。予算が少ないから、Netflixほどのコンテンツは作れないと見て、Abemaを起動したり課金するインセンティブが低いと見るのか。

様々な論点があると思います。

2017年5月現在の私の見立てとしては、キラーコンテンツなしでの本質的なグロース(視聴時間数増加)は難しく、WAUなどは見せかけの指標にすぎない。キラーコンテンツを今後生み出せる確率は予算の制約と人材クオリティの掛け算から、20%程度と判断します。

予算上、圧倒的に不利な分、コンテンツ制作陣のクオリティ次第といえます。そして、TV番組を作っていた人を責任者クラスに配置すると、TVというデバイスに最適化したコンテンツフォーマットにひきづられる確率が高く(雑誌とテキストメディアのような関係です)柔軟性の高い素人を配置したほうが成功確率は上がると思います。

私自身も同じコンテンツ制作者として感じるのは、ホームランを打つことは非常に難しいということです。ヒットはそれなりの再現性がありますが、Abemaはホームランを数本打たないといけないという状況ではないかと思います。ホームランの積み上げがグロースに効いてくる。

皆さん、Ameba TVの成否をどう考えるでしょうか?ぜひtwitterやNewsPicksなどでご意見いただけますと幸いです。

アンケート作成しましたので、ご関心ある方はぜひ。



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