スタートアップがM&A時に注意すべき4つの論点

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2015年に入りスタートアップ企業のM&Aが増加していますが、今後も増加していくと思われます。周囲にも買収された経験のある起業家が増えてきているという実感を持つ読者の方も多いのではないでしょうか。

一方で「俺はIPOしか考えてないぜ」という鼻息の荒い経営者も少なくないですが、見方によっては社員や株主を鼓舞するために「IPO!」と言わねばならんこともあるのだと思います。「M&Aやったるぜ!」だと社員からすると「あれ?ストックオプションないのかな?」と疑問持たれたりしますしね。首脳陣はM&Aを目指すで合意を取りつつ、社内的にはIPOともM&Aとも言わずに突き進むスタートアップもありそうです。

しかし、買収された経験のある起業家はシリアルアントレプレナー以外はおらず、多くの起業家にとっては初体験のことです。M&Aへの関心が薄い起業家向けにも、本稿ではM&Aではこんな点に被買収側であるスタートアップは気にかけると良いのではないかという点をご紹介。

M&A

1:買収スキーム(取得比率とキャッシュインタイミング)

ぼんやりとニュースを見ると、「買収」って「100%買収」を指すことが多そうだと思ったりしませんか?厳密には被買収企業の51%以上の株を持つことが買収であり、100%買収のみがスタートアップのM&Aとは限りません。100%買収の案件が相対的に多い気はしますが。51%程度を買収して、その後上場を目指すというスキームもありです。

またキャッシュインの手法やタイミングもいくつかあります。

1:買収時に全額現金
2:株式交換
3:アーンアウト方式(買収時に一定比率は現金か株式交換+残りの比率は2-3年後の成果に応じた成果報酬)

1の全額現金が多いように見えがちですが、時価総額が高い企業は株式交換でやったりしますし(スタートトゥデイのスキームに多い印象)、初期のキャッシュアウトを減らすのと、PMIでのモチベーション設計のためか、クックパッドはアーンアウト方式の利用が目立ちました。

100%買収でその時にキャッシュインうぇい!だけではなく、他にもパターンがあるということをスタートアップ経営陣にはぜひ認識していただけると。GMOは実際に家入さんが代表だったペパボを買収して上場させていたりと、買収後に上場というシナリオも全然あるわけです。

2:キーマン条項の有無。無しのところもある

「ロックアップ」と呼ばれることもありますが、被買収企業のキーマンとなる人物(CEOなどCクラス人材に適用されがち)が抜けたら、被買収企業の事業が立ち行かなくなるリスクがあるか。大抵は買収から「2年ないしは3年」のロックアップがつけられ、その期間対象者はその職を辞めることができません。

すごく極端な言い方をすると、キーマン条項なしで起業家はスタートアップを売ってその後業績が悪化したりすると、「やり逃げ」みたいなもので、「買収ゴール」となってしまいます。大抵の場合はキーマン条項が付いていますが、クックパッドのM&Aでは「人の気持ちは買えないから」ということで、キーマン条項はつけていないとクックパッド代表取締役の穐田氏が明言しています。

参考記事:クックパッド 穐田誉輝 x リブセンス 村上太一

逆に、被買収企業の経営者が事業成長の足かせになるリスクもあり、買収側はキーマン条項を入れずに経営者に出て行ってもらい、その後バリューアップを頑張るという選択肢もあります。

キーマン条項は付いていることが多いですが、特に100%買収で買収時に数億から数十億円のキャッシュインがあった起業家のモチベーションがPMIで下り、なんか微妙なことになった。という例は国内でもいくつかあったと聞いています。キーマン条項と買収スキームは密接に連動していて、PMIのパフォーマンスに相関がありそう。

3:valuationロジックが資金調達時と異なる場合が多い

実力に不釣り合いな不当に高いvaluationが付きがちな昨今ですが、meryのような超人気銘柄でもなければ、資金調達時と同様のvaluationロジックはM&Aにおいては通用しない場合が多いかと思います。

シリーズAなどでポスト5-10億円のvaluationロジックは「なんとなく成長するでしょ」とか「これくらいのステージならまあこんなもんか」という相場観で調達側と出資側の合意を形成していることが多いかと思います。DCF的なアプローチはほぼ皆無でしょう。

M&Aにおいては、買収金額をきっちりと回収できるか否かという定量的な指標が重視されることもあり、そこの感覚に買収側が自信を持てなければ「買収金額が見合わない」ということで見送りになったりします。もちろん定性面も買収側は加味しますが、買収額を全然回収できない場合は後々GREEのように減損になるリスクがありますので、買収金額の回収の確度は重要な論点となります。

なので、売上が上がっていない企業を買収するにはかなりの勇気が必要で、米国のスタートアップM&Aのロジックはまた異なるのかもしれませんが、Facebookのインスタグラム買収とか、売上立ってないのに1,000億とかすごいですよね。将来的に自社の脅威になり得るというディフェンスM&Aの意味合いもあったかと思いますが。

4:独立性を維持するか、買収先の資産をフル活用するか

スタートアップを買収する場合、買収側は自社が新規事業では立ち上げにくい被買収企業のエッジを評価していることが少なくない。それは被買収企業のCEOのタレントであったり、企業文化に起因します。

すごくほんわかした企業に、DeNAの知的EXILE体育会系軍団が「うっす!SEOは俺に任せろ!」などドカドカ入ってくることで崩れる企業文化もあるかもしれません。もしくはGREEの学歴だけ高くてインターネットのことを全然知らない管理職の人間がハンズオンっぽいことをやろうとしてきて迷惑とかあるかもしれません。

買収後に独立性を維持する方向で頑張りたいのか、それとも最大限に買収先の資源を活用して事業を伸ばしたいのかの方向性は最初に決めておいたほうが良いでしょう。買収側によっては、「うちと企業文化が合わなそうだな」という理由で買収が見送りになることもありそうです。

「独立性の維持」と「買収先の資産のフル活用」は決して二項対立ではありませんが、「買収先の資産のフル活用」はCEOを買収先から送り込んでもらうとかそういうシナリオもあるわけで、あえてこういう書き方をしました。

大きくはこの4つの論点でしょうか。他にもこんな論点があるなどあれば、ぜひコメントなどで教えてください。スタートアップ経営者の皆さんは、来たるべきM&Aに備えて、過度にvaluationを上げすぎないことを強くお勧めしますが、人気銘柄は高くても買収されるんですよね。



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