サイバーエージェントが新卒社長を定期的に生み出す意図

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755の不振を受けて、755は新卒社長からCA8の取締役に社長を変更。20億の先行投資は失敗か?という記事がバズっていました。

サイバーエージェント(以下CA)は定期的に新卒社長を生み出しています。my365という写真アプリがスマッシュヒットしたが、グロースハックツールはヒットしているかわからないシロクや、会社は学校じゃねえんだのバズハウスとか。そういえば筆者の同期でもいましたね。サバンナ・・・(本当に一部の人しかわからない内輪ネタですが敢えて記載)。

CAが子会社を立ち上げまくって若手に社長を任せていく件の是非はUmeki Salonでも議題になったことがあります。新卒社長というのは国内のインターネット業界ではあまり例がなく、CA流人事としての風物詩的な感も。

CAの新卒社長及び若手の子会社社長は企業側と人材側にどういったメリットやデメリットがあるか洗い出し、みなさんと思考を深めたいと思います。

CA

企業側は採用ブランディングと優秀社員の離職率低下を狙う

新卒に子会社を任せる際には資本金は5,000万前後とする場合が多そうです。755のようにいきなり多額のTVCMを突っ込んだのは例外中の例外であり、現預金300億近く持つCAにとって、5,000万程度の資本金は全部飛んでも「ドンマイ」的な感じでしょう。

おそらく新卒に子会社を任せてヒットする確率は、CAVの投資先がIPOする確率(高くて10%程度)より低いと思われます。新卒ではなく、30歳未満の若手を社長に据えた場合はもう少しヒット率が上がると思いますが。ヒットが出ればラッキー、出なくても採用ブランディングや社内に対して、こんなキラキラキャリアパスがあるよ!と提示することで、優秀な社員の流出を防ぐ抑止力としての機能を狙っているのでしょう。

新卒社長なんて夢があるわけですから、新卒採用市場ではDeNAに奪われかけた優秀な新卒社員を「君なら社長もあり得るんだぜ?」と誘惑する切り札となります。優秀な社員の流出に関しては、CA社員にヒアリングすると、単純に同業他社に転職するには、CAより報酬もキャリアパスも魅力的なところがあまり見当たらないので、転職する気が起きない。という話も聞きます。実際にCAからの転職先で一番多そうなのはリクルートですね。

よって新卒キラキラ社長は投資を全損しても(755のような場合は除く)採用ブランディングと社内の優秀層を引き止める効果を鑑みると投資対効果に十分見合います。その中で一発当たる事業があればかなり儲けもんです。

新卒キラキラ社長が失敗して子会社を畳んだとしても、他の部署で活躍してくれれば、その人材一人にかけたコストに対して長期的に見ると十分回収できる可能性もあります。突拍子もない施策に見えて、実は企業側にとっては定量的にも非常に合理的な判断です。

従業員にとって、子会社社長ほど恵まれた環境はない!

まず新卒の観点を。新卒採用においては昨今のCAは主にDeNAあたりと戦っていそうです。もしくは電博のような代理店。外資金融や戦略コンサル、総合商社志望の学生はあまり併願しなそう。起業志向はあるけど、いきなり起業するほどでないチキンな学生も採用ターゲットでしょう。そんな「優秀な(意識の高い)学生層」に新卒社長の事例は刺さるはず。「新卒社長」カードは採用市場におけるジョーカーともいえます。このジョーカーの存在で、競り勝つことも実際にあるでしょう。

次に若手社員の観点を。社会人6-8年目の脂が乗ってきた人材には様々なキャリアパスがあります。①転職してキャリアアップを狙う。②社内の要職(GMやマネージャー)を狙う、③独立を狙う。子会社社長のポストは③の欲求を満たすちょうど良い存在です。

資本金はCAが出してくれるし、社員もCA社内から集められる。しかも子会社設立したばかりで何も結果出してないのに年収1,500万円!なんて恵まれた待遇なんだ!やらない方がアホじゃね?やりますやります!やったります!というのがCAの子会社の若手(Under 30)役員の心理かと思います。

このような企業側の思惑と社員側の思惑が綺麗に一致しているのが、CAがこれほどまでに子会社役員に若手を起用することができている要因と思われます。この綺麗なエコシステムは、企業の組織人事論の教科書にすべきレベルの美しさです。

CA子会社役員は優秀な栽培マンか?サイヤ人ではない

ここからがUmeki Salonで実際にあった議論です。

まず筆者の持論を。CAの社是は「21世紀を代表する企業を作る」です。これは企業スローガンとしては至極まっとうな一方、非常に自己中心的な企業にも思えます。社外で起業した方が活躍できる人材は、どんどん社外に輩出して起業させた方が日本社会全体のためになります。その点、リクルートのカルチャーの方が、世の中全体を良くすることを考えられています。極論すると「21世紀を代表する企業を作る」は「自分たちだけよければそれでいい」とも捉えられかねません。

しかし、サロン内では非常に冷静な意見が多かった。まず、子会社役員は上記の通り資本金も出さなくていいし、社員も社内から集められる、それどころか給料も上がってしまうこともあるというリスクフリー状態です。その分、彼らは株をほとんど持たないわけで、アップサイドのリターン設計がありません。彼らにとってのアップサイドは、社内でドヤれるというのと、CA8に登用されて年収3,000万にupする、社会的信用力が増すくらい。それで納得する人材であれば、社外に出て起業しても通用しないという意見もありました。

立ち上げ時にリスクを全く取らず、この程度のアップサイドで満足するというのは、その程度のタレントということ。本誌の用語で説明するならば、彼らは「優秀な栽培マン」であり、決してサイヤ人ではないということです。

将来的にスーパーサイヤ人になり得るスタートアップ起業家たちは、立ち上げ時には飯も食えないので飴で凌いだり、社員に逃げられたり、資金ショートしたり、何度も死にかけています。その度に仙豆を飲み、戦闘力を上げていくのです。実際に死んでいく率が7-8割くらいだと思いますけどね。

そんな骨太なスタートアップ起業家たちは、CAの子会社と事業領域がバッティングしても全く気にしません。あんなリスクを取ってないやつらに負けるわけがないと思っているんですね。昨今の事例で、スタートアップがCA子会社に負けてるのって、MakuakeがCampfireを上回ったくらいかと。

なので、上記記事の「スタートアップはサイバーエージェントをなめてはいけない」は逆説的なタイトルで、記事を掲載した当時は「なめてるやつなんているのか」とのコメントが多かったのですが、構造的にスタートアップ側の人間はサイバーエージェントを脅威に感じていることはほとんどありません。取っているリスクが全然違うので、粘り負けするなんて思っていない。

子会社が上手くいったら、資本政策で困ることもある

CAの子会社ではサイバーバズが上場を噂されていますが(ネイティブアドのノンクレジット問題の影響で延期になった可能性もありますが)、資本政策がどうなっているか、興味深いところです。一説には、社長がCAから株式の一部を買い取ったという話も。真意のほどは、上場時に。

以上です。CAで子会社役員に起用される方々がは優秀なことは間違いありません。そしてそのシステムは企業側と社員側双方の思惑が一致しているので、これほどまでに機能するのです。しかし、市場を見ると子会社役員は本当に社員のためにとって良いのか。それで喜ぶ人材であれば、その程度であり、市場には狼のようなサイヤ人候補たちが飯が食えなくて飴をなめて這いつくばって頑張っているので、CAの子会社役員というのはスタートアップと比較するとぬるま湯に思えてしまう人が多いんだろうなという話です。

動画全張りのCAといえども、飴をなめて這いつくばる社長には、勝てないかもしれませんね。

スクリーンショット 2015-07-26 11.15.36*決して優秀な栽培マンとサイヤ人で優劣をつける記事ではありません。人生を通してみると、栽培マンの方が幸せに見えたりもします。サイヤ人は人生で何度も死にますからね。自分に向いているスタイルを選べていればそれで良いと思います。



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