人と金を調達し、情報は曝け出す:上場のメリットとデメリット

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今年はインターネット企業のIPOが増えてくると言われています。過去にサロンでも話題にしたことがあるのですが、上場のメリットとデメリットには何があるのか。今一度考える良い機会ではないかと思います。

上場

上場の7つのメリット:信用力強化による人と金の調達

「歴史に名を残したい!」とかそういう感情的な話ではなく、客観的事実としてのメリットを列挙します。

①:社会的信用力の向上
②:①に付随する採用力の向上
③:創業者のキャピタルゲイン
④:創業者以外の株主(VC)のキャピタルゲイン
⑤:株式での資金調達(100-200億の時価総額であれば10億前後)
⑥:借入での大規模な資金調達をしやすくなる
⑦:B2Bであればビジネス取引に有利に働くことも

大きな流れとしては「上場により社会的信用力が増す」ことにより、人と金を調達しやすくなることといえます。金は上場時の公募での調達に加え、大規模なデットファイナンスをしやすくなります。

デットファイナンスといえばじげんの50億調達がありますが、これは非上場ではやりにくいと思われます。上場による信用力で金利が低下したりします。現にじげんは調達後にM&Aを何件か手掛けています。デットファイナンスでレバレッジをM&Aを連発する上場したばかりのインターネット企業はほぼなく、異次元の異彩を放っています。

B2Bサービスでは「上場企業」という看板があると導入ハードルが下がるなど営業上のメリットもあることは見逃せません。ただしゲームなどB2Cサービスは上場企業だからといってユーザーが増えるとは思えません。

上場の6つのデメリット:情報開示と短期的な視点に陥る

個人的にはけっこうデメリット多いよなと思う。

①:四半期決算対応に追われる
②:①がゆえに中長期の新規投資がしにくい
(短期的なPLを悪化させにくい)
③:事業を理解していない投資家にとやかく言われる
④:情報開示により競合に情報を知られる
⑤:株価と時価総額の乱高下の心を乱される
⑥:経営者の社会的責任が未上場と比べて重くなる

とある上場企業経営者Aさんがこんなことを言っていました。

中長期的な新規投資をしたくても投資家に説明がつかないと、株価が下がるのでやりにくい。

他の上場企業経営者Bさんはこんなことを言っていました。

なんで事業を何も知らない株主に、株価が下がった時に怒鳴られて謝らなければならないんだ。何やってるんだ俺。

いずれの愚痴もごもっともではありますが、上場することを選んだのはその起業家です。メリットデメリットを天秤に架け、デメリットの方が大きいと思えば非上場でいた方が良い。

上場により「人」と「金」の調達という果実を得ながら、「情報」は開示しなきゃいけないので競合が多い市場ではそれが不利に働きかねない。

上場が不利に働いたのではないか?という事例としてはレアジョブがよく挙げられています。

◆参考記事:メタップスの非上場戦略が証明したIPOの魅力低下【ホリエモン的常識】

レアジョブは時価総額50億前後での上場であるため、上場での資金調達によるメリットよりも、後発のDMM英会話に猛烈にキャッチアップされた情報開示によるデメリットの方が大きかったのではないかと読み取れます。

経営において「人」も「金」も重要ですが「情報」も重要です。優先順位は自社が置かれた競争環境によっても違うでしょうね。

スタートアップの非上場戦略と上場に最適な企業のステージ

こういったメリットデメリットを踏まえた上で「デメリットの方が大きい」と判断したのか、上場しなそうなスタートアップもあります。pixivは上場しなそうという話をよく聞きますし、本誌に度々登場するPairsやCouplesを手掛ける毎週青学生と会っているらしい赤坂さんが率いるエウレカも上場する気がない説があります。

マクロミルでベインキャピタルによるTOBに応じてMBOした杉本社長はAntennaを運営するグライダーアソシエイツに関しては非上場を維持したいという発言もしている。

こうした非上場組もいるが、上場する時期も重要な論点。市況に左右されるのはもちろんだが、営業利益1-2億円程度の段階での上場は望ましいことなのか。小粒上場は良くない論を唱える人もいるが、米国では非上場企業の時価総額の大型化が続く。UberやAirbnbをはじめ、未上場にも関わらず1兆円を越える時価総額を付ける企業も増えてきている。

本稿中段で紹介した堀江さんによるメタップス非上場戦略の記事があるが、メタップスは上場時にどれだけ利益が出ているかわからないが、43億円の調達を新規投資に注ぎ込んで、より強い財務体質を整えてから満を持して上場という絵を描いていることが望ましい。

上場後も売上が上がっていれば利益は度外視でよいというAmazon的な経営手法もあるが、日本国内の株式市場で「Amazonモデル」は通用しないという風向きもある。

営業利益1-2億円程度の財務状況では下方修正ですぐ赤字転落もあり得るほど財務体質はまだ弱いと言わざるを得ない。成長企業をどんどん出すのが東証マザーズの意義ではあろうが、IPOバブルといわれる2015年においては、財務体質の脆弱な企業のIPOが増えるのではないかと懸念が拡がる。

未上場市場で大型調達をしつつ(しなくて良ければしないに越したことはない)売上と利益が出る体制を築き上げ、満を持して上場し、時価総額は公募でも500億以上を付ける。これが2015年現在で想定されるインターネット企業の一番美しい上場の姿かもしれない。

既にJDIとgumiで二枚のイエローカードを喰らっている野村證券に後はないだろう。健全なIPOが増えることを本誌では願っている。



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