Webサービスで名プロデューサーと呼ばれる人は多くはない。スタートアップではほとんどの場合社長がプロデューサーを兼ねている。プロデューサーの質でサービスの成否は決まるといっても過言ではない。
そこでTheStartupでは評判の良さげなプロデューサーに声を掛け、彼ら彼女らに「プロデューサーのいろは」を聞いていきたいと思う。初回は400万DLを突破したお笑いアプリ『bokete』やバイラルメディア『Virates』のプロデューサーを務めるイセオサム氏に話を聞いた。
イセ氏は新卒で日本テレビに入社しており、ピュアなインターネッツのプロデューサー人材にはないユニークな視点も持ち合わせる点が魅力的だ。
カーディガンの「プロデューサー巻き」でキメるイセオサム氏
『bokete』誕生秘話に垣間見えるイセ氏のプロデュース力
そういえば、『bokete』のアプリってどう生まれたんですか?
インスタグラムにインスパイアされたんだよね。シンプルでいいんだけど、笑えない。これを笑える感じにしたらいいんじゃないか。笑えるインスタグラムってどうだろうと。そこで自分だけでやるのではなくて、『bokete』というWEBサービスを運営していたオモロキの鎌田(代表取締役)に声をかけて、一緒に始めたんだよね。自分一人でやるより、一緒にやった方が面白くなるだろうと思って。
こんなシンプルな話の中に、プロデューサーの本質が散りばめられている。
企画(アイディア)を考え、人を巻き込みプロジェクト化していく。それがプロデュース力の根幹であり、イセオサム氏は自らを「人の繋がりを作ってプロジェクト化することには長けている」と振り返る。
人の繋がりを作る型のプロデューサーは飲み歩いて人脈作りに勤しむ方も多いらしいが、イセ氏は最近それをできていないと嘆いていた。「誰かを巻き込んで一緒にプロジェクトを始める」というのは、映画の制作委員会やプロジェクトファイナンス的な動きに近しいとの指摘もあった。
キチガイに憧れるふつうの人だから、プロデューサーに向く
イセ氏に「良いプロデューサーの条件」を聞いて整理すると4つ浮かんだ。
■1:ふつうの人が何を求めているかわかること
プロデューサーといえば「頭のいい人が就く職種」と思う人もいるだろう。実際にそうなのだが、特権階級意識や「自分は平均よりは上だろう」と思っている人は、案外ふつうの人が何を求めているかわからない。知とうともしないこともある。
実は自分もそういう(自分は平均より上だろうと思う)時期がありました。しかし、アドラッテというポイントサイト運営を通して、「こんなにポイントを集めたがる中学生がいるのか!」と気づき、ふつうの人の感覚を少しずつ理解していきました。
頭でっかちな人は、ふつうの人が何を求めているか推し量ろうしない。高学歴エリートにけっこうありがちなことかもしれない。
■2:クリエイターとふつうの人の架け橋になれるか
プロデューサーの仕事とは、クリエイターが制作したモノをユーザーに届ける仕事と言い換えることもできる。そこで、「クリエイターとふつうの人の架け橋」という表現がイセ氏から出てきた。
僕がプロデューサーとして評価されているとしたら、「キチガイに憧れるふつうの人」だからだと思う。僕はキチガイ(≒クリエイター)ではないけど、クリエイターの話を理解して、ふつうの人へ届ける努力はできる。
■3:プールの大きさが予めわかっている
イセ氏は「プールの大きさ」と表現したが、言い換えると市場といえる。プールの大きさに合わせたビジネス展開を描けることが重要だという話であろう。
プールが大きければ良いわけでもなく、LINEが国内で5,000万ユーザー獲得したような市場はスタートアップで攻めるよりLINEのような企業が攻めた方が適切だとか、自らが泳ぐプールのサイズが適性であるかを見極める力を指していると筆者は把握した。
■4:我慢しきれるか
後述するが、プロデューサーはつい細部に口を出したくなる気持ちがあっても、現場に任せきれるか。我慢しきれるかという点も重要だとイセ氏は語った。
プロデューサーとディレクターは対等。その違いについて
インターネット業界ではプロデューサーの下にディレクターを付けるという慣習が多くあるように思えるが、イセ氏は「プロデューサーとディレクターは対等な関係である」という持論を展開した。
■プロデューサーの仕事
・プロジェクト全体統括
・スタッフィング
・予算管理
・マーケティング
・外部提携■ディレクターの仕事
・監督として作品の世界観づくり
・サービスのグロース
・進捗管理
プロデューサーとディレクターの仕事は実は全然異なる。スタートアップにおいては、スモールチームで「エンジニア・デザイナー・ディレクター」の3名でアプリ開発を開始することも多い。立ち上げ時に「ディレクター」の仕事は実はさほど多くなく(サービスの世界観作りか)、スタートアップではプロデューサーはやはり社長であることがほとんどである。
この「プロデューサーとディレクター」のコンビが大事。テレビや映画もそうで、宮﨑駿と鈴木敏夫とか。会社だとHONDAの本田宗一郎と藤沢武夫とかが良いコンビだと思う。
プロデューサーは現場の能力を上手く引き出せるかという点も重要であり、マネジメント力と直結していると筆者は感じた。サービスローンチ後は運用してサービスを伸ばせる力もプロデューサーには必須だという。
仕組みだけではなく、コンテンツを創っていきたい
イセオサム氏は『bokete』を400万DLまでディレクターとして成長させた後はプロデューサーとなり全体を統轄する一方で、資金調達も実施している『Virates』を運営する『狩猟社』(『まさか』から社名変更)にて動画制作の仕事を今後担っていくという。そんなイセ氏がプロデューサーとして制作したスマホ向けドラマがある。
インターネット業界では「仕組み」を作りたがる人は多いけど、実際の「モノ(コンテンツ)」を作りたがる人は少ない。自分はそこをやっていきたいとイセ氏は語る。こういったスマホ向け動画制作ができる人材は希少であろう。いまのうちに狩猟社をイセオサム氏のロックアップ付きで安い価格で買収しておくと良いかもしれない。
主演の平山あやさんと写真を撮り、にやけるイセオサム氏
イセ氏にインターネット業界の名プロデューサーについて聞くとnanapiのけんすうさん、エウレカの赤坂さん、元コミュニティファクトリーの松本さん、じげん平尾さん、ユナイテッド手嶋さんなどスタートアップ業界および本誌ではお馴染みの名前が挙った。
プロデューサーに関して深堀りしていきたいので、またこの企画はお届けしてみたい。「このプロデューサーに話を聞いてみてほしい」というリクエストは歓迎するので、tweetでも知り合いであればFBメッセージでも良いので、気軽にいってほしい。