メディアで人を動かすことを、僕はまだあきらめないよ

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田端さんの新著「広告やメディアで人を動かそうとするのは、もうあきらめなさい。」をkindleで読みまして僕なりの感想を。

スクリーンショット 2014-08-06 14.11.35大枠としては広告主側の視点でしょうか。

タイトルを反語として捉えると「(金を使えば)広告やメディアで今までは人が動いていた」となります。

それが現代においては通用しなくなってきているので、「もうあきらめなさい」というタイトリング。

最後まで読めば分かるのですが「あきらめる」は「諦める」と「明らめる」があり、「広告やメディアで人を動かす仕組みを(もう)明らかにしなさい」という洒落たメッセージも込められています。

本書で参考になった点と僕(メディア視点から)の見解を。

動かす人数ごとに、人が動く構造が異なる

本書の最大の特徴に挙げられるのが、1,000人から10億人ごとの「人が動いた事例」を元に、その背景を構造的に説明している点。その構造は「心技体」という表現でもなされていますがそれを落とし込むと「心理」「チャネル」「体験」の3つの掛け算になる。

その掛け算が最適化され、スイートスポットに入れば、想定以上の「人が動く」結果が得られる。そんな感じでしょうか。

具体的に自分自身の事例に落とし込んで考えると、The Statupという個人メディアで記事を書いていても1,000人にリーチする記事と1万人、10万人にリーチする記事があり、各記事が読者にリーチするまでの構造は全く異なります。今回は2つの事例で解説しましょう。

まず1つ目はリーチが多く取れる方の記事の構造。僕の中では勝手にバイラルコンテンツと見なしていますが(バイラル=可燃性が高いという意味も多分に含む)これはキャリア論や名刺がどうしたといった、抽象度を上げてビジネスマンであれば誰しもが身近に感じるであろう論点を出します。その論点に対して極端なポジションを取ります。

すると賛否両論に分かれ、結果的に多くの人にリーチする。僕のポジションは意図的に極端にしている側面はありますが、それが僕の本音であることは嘘偽りがない。あとはFacebook論やtwitter論とかインフラ的サービスは多くの人にとって身近で自分ごとなのでやはり数字が取りやすい。このバイラルコンテンツ群で新規読者を獲得しにいっているのが僕の現在の戦略です。

賛否両論コンテンツだと否定派からは感情的に僕を快く思わない人も内包されてくるので、僕を嫌う人が増えるという側面がある。そういう人と僕は相性が悪いので、それで良いと思っています。オフラインで会う前に好きか嫌いか分かってくれていると良くて、ある意味こうしたコンテンツはリトマス試験紙であります。

2つ目のリーチが少ない記事。リアルな話をすると1,000-2,000前後のPVの記事。PVが跳ねていないから記事の質が低いというわけではなく、内容が先端的すぎてごく一部の人にしか興味を持たれない。でも一部の人には刺さっている。ということが少なからずあります。The Startupが本来想定する読者層というのはそういう人なのです。バイラルコンテンツで来た一見さんが固定読者に転換する率は低いと見ているので。

例えば、スマホ事前決済アプリO:derの記事。PVはまあそれなりといったところですが、これは玄人ウケの良い記事であり、スタートアップ業界の一見さんにはまずピンとこないでしょう。事前決済?はあ?と思われ、タイトルでクリックされません。こういう記事に反応する人こそ、固定読者であり、僕が最重要顧客と位置づけるべき層の人々です。

こうした構造は僕も理解していましたが、それがより体系立てて本書で紹介されているので、自分なりに解釈が深まり、本書を読んだ意味があった。

広告やメディアで人を動かすのにあきらめない方がいいこと

これは本書の後半部分に書かれていたことを一部抜粋させていただきます。

■あきらめないほうがいいこと

1:人の本音(生活者インサイト)を探求
2:ありのままを見せ、ある程度の判断を世の中に託す
3:広告やメディアが本当の力を発揮する最適な組み合わせを見出す
4:世に溢れる情報の中に、あなたの商品やサービスの良さに繋がるものがあると信じる

この中で僕が最も重要だと思うのが1のインサイトの探求です。人々は今どういう心理なのか。顕在心理と潜在心理を読み解き、その心理を代弁したり気づかせるためのコンテンツを用意する。

2のありのまま論や3のメディアミックスも重要ですが、インサイトが起点になってないと結局何を伝えたいのかわからなくなってしまう。読者の心理を読み取った上で、何を伝えたいか。伝えるべきなのか。発信者(メディア)はその精度を高めていくべきだと思う。

メディアで人を動かすことを、僕はまだあきらめていない

言葉遊びで、今回の記事タイトルにしてみたけど、実際に僕はメディアで人を動かすことを諦めてはいない。

メディア視点としてはメディアという容れ物にコンテンツというメッセージを載せ、それが人に届き、その心や実際の行動(何らかのコンバージョン)で人を動かす。それがメディアの存在意義だと思っている。だから読んで何の感想も持ち得ないし、行動にも繋がらないコピペメディアはクソだと思っているし、だからTechCruchは残念なメディアだと思っている。

人を動かすために僕が意図しているのはメッセージを明確にすること。(時に行間を読んでくれという、ペナルティエリア内にそっとスルーパスを出すだけというコンテンツもあるけど)。断定調で強いメッセージを発すれば発するほどそれに共感する人もいれば拒否反応を示す人もいる。そこには少なくとも読者に思考する余地がある。The Startupは読者に思考してほしいメディアというコンセプトがあり、たとえそれで僕の意見がボコボコにされようが、コンセプトに沿っていればそれでいいのである。

全ての人をプラスの感情に振れさせる必要はなくて、むしろ嫌な感情に振れさせる必要も時にはある。嫌な感情を紐解くと、自分にとって突かれたくない痛いところを突かれてしまったから反射的に反論してしまうのではないか。これは僕自身もよくあることだし、人間なら誰しもそういう経験はあるだろう。

こうした「自分にとって嫌なコンテンツ」に触れることも必要だし、僕は様々な匿名アカウントから主にtwitterで批判されることもあるけど、全てを反射的に「うざいぜ!」で片付けるのではなく、なるほど。そういう見方もあるよなあと解釈することも必要だと思っている。だが、そういう人たちをいつも相手にする必要は必ずしもない。

イケダさんも「人を嫌な気持ちにさせる」ブログは希少価値が高いと言っていますが、僕かて批判にされされているのを何とも思わないこともないし、理研の笹井氏が自殺したくなる気持ちも少しは理解できます。メディアの人も人間なので、多くの記者は極力人に嫌われたくないと思っているはず。だからポジションを取れない。

人がやらないことにこそチャンスがあると考え、僕はそこのポジションを取っている。だからなのか、イラつく人の方が多くて僕自身が罵倒されることはよくあるけど、人を動かせてるってことじゃないかと思う。それは僕が取った立ち位置なのだから、計算通りだし、全ての読者をコントロールすることは不可能だ。自分が意図しない方向に人が動いても甘んじて受け容れようと思う。

それでもいい方向に人が動くことももちろんたくさんあるし、そうした手応えを今まで十二分に得てきた。感謝されたこともたくさんある。

だから僕は、メディアで人を動かすことを、あきらめないよ。

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