広報戦略の上手いスタートアップ企業って何社かあるなと思います。露出数が異様に多いあんな企業やこんな企業。露出が多いスタートアップ=「イケてるに違いない!」と読者や業界の人は捉えやすいのではないかと思います。仮にリテラシーが高い人であっても、一定以上の露出に晒されると、感覚が麻痺して錯覚してしまうこともあるでしょう。
よくメディアに出ているスタートアップは本当に成功する「良いスタートアップ」なのか。THE BRIDGEのスコアリング制に真正面からNO!を突きつけたいThe Startupとしては、スタートアップの広報戦略とその情報をどう受け止めるかという論点に触れておきたいところです。
読者の視点:露出評判に惑わされずその事業のPLを考える
スタートアップ情報の流通網をまずは把握しましょう。
図にするのも憚られるほど普通な図です。メディアに情報を提供するのは多くの場合はスタートアップ企業。僕は情報提供がなくても適当に書くことが多いですが。スタートアップにとっては、各メディアを上手く活用することで無料で露出する機会を得ることができ、ひいてはユーザー獲得やビジネス上のアライアンス、資金調達に繋げることができます。
我々メディア側も人間なので、コミュニケーション頻度が多く、対応が良い企業のサービスは手厚く取り上げようという心理が働きますが、時にそれが過剰だと感じることもあります。The Startupでは資金調達以外(時折サービスリリースもやりますが)のリリースは全てシャットアウトしていますし、特定のサービスの露出頻度が必要以上に高まらないよう配慮しています。綺麗ごとをいえば、過去の反省を踏まえた「癒着を防ぐため」の僕なりの倫理観です。
CTOの採用や、300万ユーザー突破。大企業とのアライアンスなど、これらの情報はユーザーに対してさほど有益な情報とは私は判断していませんが。CTO採用など日経新聞の人事異動で1行書かれる程度のネタのことですら、THE BRIDGEは大々的に取り上げますね。
至極当たり前の話を長々と続けて何が言いたいかというと、メディアの情報は事業者がいかに「客観性ある報道を心掛けています」と言っていようが、客観性などあるはずもないのです。押したいところをシレっと押し続けるのです。僕だってそうです。なので読者にはそのことを前提に入れて読んでほしいのです。
THE BRIDGEのスコアリングだけを盲目的に信じる馬鹿な読者はいないと思いますが、露出頻度が高すぎるスタートアップを何も思考せずに「なんか最近よく出てるから凄そう!」と判断してしまうのは危険です。これは本当に怖いことで、頻繁に見かけているとサブリミナル効果でいくら気をつけていてもそう感じてしまうこともあるのです。
メディアへの露出頻度をKPIにして投資判断する馬鹿なVCはいないと思いますが、いち市民としても露出頻度に惑わされることなく「最近このサービスよく見かけるけど、本当に儲かるモデルなの?サステイナブルなの?」と自分なりにその事業のPLを引いてみる。The Startupの読者にはそうあってほしいと思っています。そういう自分で考えるのはメンドクサイという読者はThe Startupのターゲット読者層ではありませんので、ここで直帰しましょう!さようなら!
企業の視点:実態と乖離させるブランディングもある種必要
読者視点では端的にいうと「露出回数によるサブリミナル効果で、自分で思考もせずにあの企業凄そう!と思うのはやめろ」という話でした。企業視点からも考えてみましょう。
本稿の冒頭の話で「広報戦略の上手いスタートアップ」というのは少し皮肉を込めた言葉で、「世間への見せ方は上手いけど、実態は伴っていない。実態とかなり乖離している」という裏のメッセージも含みました。
実態とイメージがかなり乖離していてイメージの方を信じ込んでしまうのは読者のリテラシーによりけりですが、企業側は実態よりも常にイメージは大きく見せておくくらいが望ましい気がします。大きく見せ過ぎることで痛い目に遭うこともごく稀にあるかもしれませんが、大きく見せておくことで、採用やアライアンス時に凄そうだと思わせることもスタートアップにおいては重要な戦略です。
なので企業側としてはガンガン露出して実態より大きく見せかけるのはある種の必要悪。企業側の戦略としては真っ当です。それにどこまでメディアは加担すべきかは、各メディアの倫理観によるところ。
露出を極端に避けるスタートアップも少なからずいて、露出を制限するのも一長一短。例えばC2C市場ではフリルは露出を制限している印象。僕も取材したいと思いメッセージを送ったところ、あえてのランチである種取材を封じ込められるという手を打たれました。会っておけば悪いことは書かれにくいだろうという算段はさすが堀井さんだと思いました。露出を制限する理由は、競合に1mmも情報を与えたくないというのが主な理由で、あとはそのメディアで露出しても当該サービスのユーザー獲得に繋がらないので「メリットがない」と思われることもありそうです。
しかし、メルカリがあれだけTVCM含めてガンガンいってしまうと、フリルの露出を制限した戦略は本当に正しかったのか。コカコーラvsペプシ戦争ではないですが、フリルvsメルカリ戦争を振り返った時に「プロモーションが勝敗を分けた」と言われかねないかもしれません。両サービスそれなりの規模で成長するとは思いますが、売上などで優劣は結局つくと思うので。
THE BRIDGEのスコアリング制度は、良く出来た仕組みだ
最後にTHE BRIDGEのスコアリング制度について触れておきましょう。なぜかメディア業界では他メディアについて言及するのはタブーな風潮がありますが、The Startupはタブーにこそ斬り込むメディアです。
結論、この制度は良くできた制度だと思います。THE BRIDGEにとってね。スタートアップ側が盲目的に信じるまではいかないとしても、1つの指標ができたことで、THE BRIDGEでの記事掲載が増え、記事がいいね!やRTを獲得するとスコアリングが上がる。
スタートアップにとってはTHE BRIDGE上でスコアリングを上げておくことが一種のブランディングになるので、スタートアップによってはこのスコアリングをKPIに置くところが出てきても不思議ではありません。THE BRIDGE側にとっては記事ネタの情報は集まりやすいし、スコアリングを上げたいスタートアップ社長たちが記事を頑張ってシェアしてくれてPVは上がりやすので、ウハウハです。メディア側の戦略としては上手い仕組みです。
しかし、このスコアリングは勿論完璧ではなく、変なポッと出のスタートアップのスコアが以上に高かったり、老舗企業のスコアが異常に低かったりします。それを一見の読者が見て、勘違いしないか。読者の情報リテラシーが高ければ問題ないかもしれませんが、情報リテラシーが高い人など一部にすぎず、ミスリードする可能性もあるなと。民主的に見えて完全に民主的ではない。半民主的なメディアなのです。
PVを稼ぐ装置として、スコアリング制度はある種のグロースハックといえるのですが、スコアリングによって読者から思考しようとする余地を奪うことにならないか。というのが懸念点であります。スコアリングを参考にする分には良いですが、The Startup読者の皆様に関してはスコアリングを絶対視せず、あくまで自分で考えてください。そう啓蒙しておきたいと思います。
「情報の読み方」を読者の皆さんと考えていきたいですね
優秀な経営者ほど情報感度が高いという記事がそこそこ反響がありました。「情報感度=多くの情報の中から自分に必要な情報を取捨選択する能力」というニュアンスのつもりでしたが、それすら読み取れない読者もNewsPicks上のコメントを見ると結構いたようです。
そんな読者はうちの読者ではないと切り捨てることは簡単なのですが、僕ももう少し読者側に歩み寄る余地があると感じ、情報の捉え方のケーススタディーとして「広報戦略の上手いスタートアップ」を取り上げてみました。読者の皆さんとは情報の読み方の質を上げていきたいですね。
NewsPicksもだいぶコメントの質が落ちてきました。どうでもいいコメントは目障りなだけですので、NewsPicks上でのどうでもいいコメントはお控え下さい。頻繁に微妙なコメントを残している方は今後名指しで「コメントしないで下さい」と掲載することも検討していますが、付加価値のあるコメントは依然として歓迎です。上質な言論空間を作っていきたいですね。
Gunosy木村さんも参加する、会員数261名突破のUmeki Salon
内容の参考:Gunosy木村氏の降臨、野村證券の近未来的なIPO時価格算定方法など
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コーヒーミーティングで梅木に「いつかお茶したい」しよう!
今日も適当にツイート中。 @umekida