キャピタリストの傾向と対策を紹介するVCの赤本コーナーが人気でしたが、かねてから要望の多かった各VCファンドのパフォーマンス予想をする「ファンド・リターンズ」というコーナーを設け、不定期で更新します。国内の主要VCファンドのパフォーマンスをThe Startupの情報網を元に私が独断と偏見で推測していきます。
第一弾は渦中のIVP、2号ファンドの予想。Q:podをパクレゼルブと合弁で立ち上げ、Grouponへ華麗にEXITされた記憶が懐かしいですが、1号ファンドの案件と思われるため、今回は割愛。同様にmixi上でサンシャイン牧場を展開した中国発で日本にローカライズしたrekooも1号ファンドと思われるため割愛。
■ファンド概要
名称 : IVP Fund II A, L.P.、IVP Fund II B, L.P.
組成 :2012年11月にクロージング
投資開始:2011年4月
規模 :約60億円(7,150万ドル)
出資者 :NHN Japan、KDDI、GREE、mixi、オプトなど
出典 :CNET
個別銘柄解説でのパフォーマンス予想のレーティング基準は下記。
■ファンド・リターンズのレーティング基準
A:5倍以上での回収
B:3〜5倍での回収
C:投資簿価〜+αで回収
D:回収不能
海外の成否が鍵を握る、スマートエデュケーション
2号ファンドの国内7案件を紹介。長いのでパラグラフ2つに分けて。
■1:ジモティー
既に先週の記事でご紹介の通り。IVP100%で立ち上げ、累計投資金額は2億。大手ネット事業会社へ2.5億で譲渡しており、まだ30-40%持分がある。かなり厳しいと思われる案件を簿価+αで回収しており、まだ持分があるので、この回収力は凄いと素直に思います。負けを引き分けに持ち込む力が凄そう。
クラシファイドは時間がかかるビジネスであることは業界コンセンサスですので、今後のアップサイドがいかほどかに期待したいですが、厳しいと思いますので、EXITシナリオは今回株主ととなった大手ネット事業会社への売却と予想。既に簿価は回収していますから、2-3倍にはなるのかも。強引なディールに見えますが。
■2:One of Them(ワンオブゼム)
「海の上のカメ農園」というゲームがシードラウンドの株主サイバーエージェントのAmeba上で人気を博したようですが、それ以外のヒットはあまり見当たらず。ガチャウォリアーズはヒットなのでしょうか?
エンターテイメントカンパニー?へと舵を切ろうとしていますが、記事を読むだけではイマイチよくわからず。上場は厳しいんじゃないでしょうか。gumiあたりが上場後に株式交換などで20-30億で買ってくれると期待しましょう。そうすれば2倍〜4倍のリターンくらいにはなるのではと。
■3:エムラボ
記事のリリースはあるのですが、HPも既に見当たらないところを見かけると、清算したのでしょうか。いや、清算したと聞いた気がします。IVPのHPからも消えています。
EXITしたと思われるGrouponなどは記載されたままですが、完全にEXITした案件はHPから外すのか、それともなかったことにするのか。結末はよくわかりませんが、投資簿価以下での回収と推測。これは失敗案件ですね。
■4:スマートエデュケーション
一番読めないのがスマートエデュケーション。知育アプリでの課金にスケーラビリティはあるのか。国内では500万DLいっているそうですが、App Storeのトップセールスランキング見ると、2014.5.30時点では7位、28位あたりです。これらのアプリは従量課金型で、月額課金へのシフトも噂されていましたが、ランキング上では月額課金で売れているとはいえなそう。
海外でどれだけ伸ばせるかが鍵で、海外の成否が読めない。海外で当たれば上場も見えるかも。予想パフォーマンスは僅かな期待値を込めてA〜B。ベストシナリオで上場、ワーストシナリオでしまじろうへの売却とします。
クラウド会計のfreeeで1発ホームランなるか?
後半の3社を紹介。
■5:MUSE&CO
バーティカルコマースのアップサイドはかなり限定的なのでは?と本誌では以前から指摘しています。現に上場しているOisixでも売上高100億台前半のラインでコマースなので利益率もとても低い。上場ゴールになりやすい分野がバーティカルコマースで、未上場でのバーティカルコマースの筆頭といえるロコンドが上場してくるか否かに注目が集まります。
楽天やZOZOによる買収シナリオも想定しにくく、出口を求めにくい案件という印象。とはいえ回収に強いIVPです。強引に20-30億で売却を成立させ、2-3倍のリターンを手堅く出してくるのではないか。
■6:The Real Real
米国で人気の高級衣料品特化C2B2CのThe Real Realを日本にローカライズ。Grouponの時のようなローカライズ案件で、経営陣もGrouponの経営陣がチームごと移籍して運営していましたが、最近社長が交代したようです。
ローンチから1年近く経っても商品出品数があまり伸びていないように見えます。ファイナンス情報はどこにも出ていないので、累計投資金額は適当な予想ですが、かなり厳しい案件だと思います。売上の平均単価は高いんでしょうが。最悪簿価でも回収できないかもしれず、D判断としました。米国のローカライズ案件だから別にいいのでしょうか。この案件のファイナンスのスキームはよくわかりません。
■7:freee
唯一、手堅く上場を狙える銘柄。シードからシリーズBまで、株主はDCMとIVPのみ。DCMがリードインベスターではないかと推測します。私が東洋経済オンラインで紹介した通り、B2Bのクラウド会計は月額できっちり売上が経つ美しいビジネスモデル。どれだけマーケティングに資金を投下して素早く上場できるかという勝負に見えます。
東洋経済オンライン上では2018年頃の上場で、上場時推定時価総額300-500億と予想を出しています。freeeのリターンがIVP Fund IIの国内リターンの生命線といえるため、少し踏み込んで試算しましょう。
■2018年頃のfreee事業数値予測
登録事業者数:100万
有料会員化率:10%
平均月額単価:1,300円
(個人事業主980円、法人1,980円=7:3と仮定)
ライフタイム:○年(スイッチングコスト高い)月商 :約1.3億
年商 :約15億(ライフタイムが数年でも年の売上分は1年)
コスト :約8億(人件費+広告費、広告費は年が経つに連れて低下)
営業利益:約7億上場時推定時価総額:150-300億
予想IVP累計投資金額:5億
予想IVP持分:10-15%
予想リターン:15億-45億
ちょっと東洋経済オンラインで付けたときよりコンサバにしてきました。登録事業者数100万を実現できればこれくらいの数字が付いてきます。
国内案件総括:freee+αでどこまでリターン出るか
上記の表の右端で国内案件のIVP累計投資金額と累計パフォーマンス予想を出しました。現時点で累計20億程度の投資と見られます。freeeとスマートエデュケーションがある程度の規模で当たってくれれば、他の5案件が投資簿価程度での回収でもリターンはプラスにはなります。VCって10件失敗しても1件当てれば良いビジネス。ファンドなので純粋な経済的リターンがあれば最低限良いわけです。
freeeに関してはクラウド会計の分野で猛追するマネーフォワードと凌ぎを削り、マネーフォワードにシェアを奪われて成長が鈍化すれば、回収が上手くいかないリスクは孕んでいます。手堅いビジネスなので最低限、3倍程度での回収は見込めると思いますが。
freeeのヒットだけでは心許なく、IVPの国内案件のリターンの成否を決めるのが現状はスマートエデュケーションになるのではないかと見ています。スマートエデュケーションで2倍は回収できないとキツいですね。あとは起死回生のワンオブゼムでしょうか。期待薄ですが。
パフォーマンス予想を正確に算出するのは難しいですが、投資簿価を割ることはさすがにないのではと。freeeの成否に左右されそうなため、何倍のリターンになるとは断言できませんが、最低でも2倍、良ければ5倍くらいという感じです。ジモティーに代表される「回収への強い意志」がIVP最大の強みに見えます。
分析ツールサービスのApp Annieに代表される中国案件
IVP Fund IIは総額60億円。国内には現時点で約20億張っていると思われますが、中国も主戦場です。むしろ中国案件のほうが筋が良いと聞きます。
App Annieというアプリの市場分析やASO(Application Store Optimization)のツールサービスが筋がいいとの説があります。つい先日はオランダの調査会社Distimoの買収と、セコイアキャピタルなどからの17億円の資金調達を発表しています。
私は中国市場はめっぽう弱いのでなんともいえませんが、ポートフォリオは16件ありますし、なんかホームランが1,2本出るんじゃないでしょうか。国内がダメでも中国で回収できるのかもしれません。グローバルでポートフォリオ張れているのは強いですね、アジアではCAVも手広く張っているのですがどうなのでしょうか。インドネシアのCAVの人はぜひコメントください。
このような記事を書いてみると、ファンドマネージャー的な視点が身に付きそうで良いですね。書いてみてすごく勉強になりました。VCは全て当てる必要はなく、LPから預かった金にリターン付けて返せばいいわけですよ。
IVP Fund IIはfreeeが当たればリターンがプラスになりそうですが、ポートフォリオを張るファンド事業なのに、国内案件はリスクヘッジできていないように見えます。
この連載「ファンド・リターンズ」は各ファンドから嫌がられるかもしれませんが、読者のニーズがあれば継続しますので、読者の皆さんのソーシャル上での拡散が僕のやる気を決めます。この手の記事を読みたい!と促した田端さんなど、続編が読みたい方は感想とともにシェアしてください。国光さんのワンオブゼムの買収に関するコメントもお待ちしております。連載を継続する場合は、各ファンドの皆様、ご協力をお願い致します。
以上、ペナルティエリア内より梅木がお送り致しました。
LINE田端さんも参加する、会員数230名突破のUmeki Salon
内容の参考:【きまぐれUmeki Salon第1号】LINE田端氏の降臨など
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今日も元気にツイート中。 @umekida