スタートトゥデイ発「WEAR」はクックパッド並のポテンシャルを秘めるCVR12%の最強メディアコマース

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スタートトゥデイの新サービス「WEAR」経由でのZOZOTOWNの売上が月商1億円を超えたというニュースを1月に目にした。兼ねてより気になっていたサービスであることもあり、WEARに直接話を伺ってきた。

WEARの直近の公開情報を最初に載せておこう。これを頭に入れて読み進めていただきたい。

■WEAR最新事業数値(2014年1月時点)

MAU:240万(当面の目標は500万)
WEAE経由ZOZOTOWN売上:1億円/月
注:あくまでZOZOTOWNのみの売上であり直販ECを含まないため、WEAR経由の売上自体はもっと多い
CVR:12%

コーディネート投稿件数:20万
アイテムセーブ数:1,700万
クローゼット登録数:620万

WEARはO2OではなくコーディネートCGM+コマース

2013年10月末にリリースされたWEARだが、リアル店舗で気になる商品のバーコードを読み取り、ZOZOTOWNや店舗直販のECで後から買えるという点が注目された。これはリアル店舗をショールーム化してしまう可能性があると、リアル店舗から脅威と思われるなど、O2O銘柄としての側面を強く印象づける船出となった。リンク先の記事でプロモPVが確認できる。

しかし、話を聞いてみるとこのO2O機能は現状ではさほど機能しておらず、メインはコーディネート投稿とその閲覧にあるようだ。下記の写真のようにコーディネートをお気に入り的な意味の「SAVE」したり、コーディネートに使われた商品を「BUY」したりすることがWEAR上でできる。

スクリーンショット 2014-02-22 20.59.39コーディネート投稿のCGMといえば、スタートアップではiQonが有名だ。WEARとiQonの特徴を比較しよう。

■投稿内容

WEAR:本人の全身写真
iQon:インターネット上の写真を組み合わせる

■コマースへの導線

WEAR:コーディネート内の洋服をZOZOTOWNのデータベースから持ってきて買える確率が高い
iQon:アフィリエイトで外部に依存している

WEARの3種類の投稿者とスター化する一般人アカウント

CGMであるがゆえに投稿がないとサービスは成り立たない。全身写真はかなり投稿ハードルが高い。MAUに対する投稿者数自体は決して多くないだろう。投稿者層は3つに分けられる。

①:WEARISTA(著名人):85名
②:ショップスタッフ:約4,000名
③:一般人:?

まずWEARISTAとサービス上で呼ばれるWAER公認のユーザーだ。WEARの世界観に共感してくれそうな著名人を足で開拓して口説いたそうだ。この手のサービスは著名人にフィーを払って利用してもらうこともあるだろうと思うが、WEARは著名人にフィーは払っていない。共感してもらえたユーザーにのみWAERISTに認定している。

次にショップスタッフ。ショップスタッフは自らの全身写真を投稿することで、店の商品の販促に繋げることができる。WEAR上で人気になれば、オンラインからオフラインへと客足が伸びることもある。バーコードスキャンからZOZOTOWNで購入の流れは「オフラインtoオンライン」であったが、ショップスタッフの投稿によって「オンラインtoオフライン」の商流を作り出すことができる。

最後に一般ユーザー。twitterやinstagramでのフォロワー数が1,000人に満たないユーザーでも、WEAR上では万単位のフォロワーを獲得している例が数件出てきているのが興味深い。元々の知名度ではなく、WEARに投稿するコーディネートや写真の質の高さから、閲覧ユーザーを魅了し、ユーザーがコーディネートを参考にした指標となる「SAVE」数を伸ばし、「SAVE」数が伸びた結果、人気ユーザーとしてランキングに入り、さらにフォロワー数が伸びるという循環になっている。

人気ユーザーのコーディネート投稿に対する「VIEW」数は1万に上ることも少なくない。フォロワー数の約半分がVIEWされる傾向にあるようだ。

しかし、本人の全身写真を投稿することは特に日本人にとってはハードルが高いといえ、一般ユーザーの投稿者数がどれくらい伸びるかは懐疑的だ。台湾などのアジア圏の方が全身写真などの投稿に抵抗が低そうで、そちらからの方がユーザーの伸びを牽引する可能性はありそうだ。

女性中心でDAUも高く、中毒性の高いサービス

次に閲覧ユーザーの傾向を見よう。現状は女性ユーザーの方が多く、初期はZOZOTOWNから誘導したユーザーが多いことから、ZOZO系のファッションユーザー属性が中心だ。ZOZO系とは女性誌でいうとNYLON系であり、CanCamなどの赤文字雑誌ユーザーがZOZOで買い物するイメージはない。ちなみに、クラシコ系とロンハーマン系をミックスする自称OCEANS系と称する筆者は、ZOZOよりはBUYMAの方がユーザー属性に馴染みそうだ。(どうでもいいですね。すいません)

明確に開示されてないデータと、定性的なデータで興味深い点は下記。

・DAUもかなり高い
・就寝前のアクセスが多い
・利用ユーザーは30歳より少し若い?(ZOZO平均年齢は30歳)

Facebookログインなどを中心とした「ソーシャルコマース」はまだどこもヒットしていない印象がある。Pinterestかて実際にどれだけ今後売り上がっていくのは怪しいし、日本でのアクティブ数は一時期より減少しているだろう。そんな中でWEARの「CVR12%」は驚異的な数字だ。その要因をWEAR事業部ディレクターの中川氏はこう見る。

「SNSと異なり、ユーザーが『服を買う気』でWEARを訪れていることがCVRの高さに繋がっていると感じます。WEARはファッション雑誌を読むような感じで、WEARを通して購買意欲が掻立てられるのだと思います」

単品カタログからコーディネート販売へと進化し、市場拡大

そもそも、スタートトゥデイは中長期ビジョンとして「商品取扱高5,000億円」を目指している。

スクリーンショット 2014-02-22 20.07.59上記資料:平成26年第3四半期決算資料より抜粋

従来のECは単品カタログ売りであり、そのスタイルは未だにほとんどのECで変わらない。そこにコーディネート売りで新たな需要を喚起し、アパレル業界の市場規模自体を拡大することをWEARを通してスタートトゥデイは目論んでいる。

いちユーザーとしてWEARを見たとき、コーディネートによりスタイリングのインスピレーションが沸き、購買意欲を喚起されることは十分あり得る。WEARが本当にマスに浸透すれば、アパレル業界の市場規模を数十%拡大することは想像に難くない。しかし、短期で成果の出る事業ではない。短期と中長期でWEARのインパクトを整理しよう。

■WEAR事業の短期的なインパクト

①:WEAR経由でのZOZOTOWNないしは直販ECの売上増
②:WEAE経由で直販ECの売上増によるZOZOとブランドの信頼関係の強化による、ZOZOでの取扱量の増加

■WEAR事業の中長期なインパクト

①:カタログ単品買いからコーディネート買いへとユーザー行動が変化し、習慣化する
②:コーディネート買いの浸透により、アパレル業界自体の売上規模が拡大

モバイルコマースとしてみると中毒性のあるコンテンツが鍵

WEARは「コーディネートレシピ」という言い方をすることもあり、「衣服」という人々の生活に密着した領域であることからも、「食」のレシピ領域を制するクックパッドと同様の事業展開の可能性が期待される。短期的にはWEAR単体でスタートトゥデイ全社に対するPLインパクトはさほどないだろうが、5年ほどのスパンで見た時にはクックパッド並のサービスに成長するポテンシャルがあると感じた。

ZOZOというとNYLON系なイメージがあるが、これをCanCamなどの赤文字雑誌やVERYなどの主婦層雑誌、男性もLEON系などと、ファッション分野を全てカバーし、WEARのコーディネートを見て服を買うという行動が習慣化すれば、社会に大きなインパクトを生む。

全身写真の投稿が主であり、投稿ハードルが高すぎるという課題はあるものの、WEARが描くビジョンに共感できるし、自分と似た属性の投稿ユーザーが増えればWEARのコーディネートを参考にして服を買うようになると、私自身が思う。尚、Umeki SalonではWEARを話題にするとメンバーからこんなコメントをいただいた。

■サロンメンバーのWEARに対するコメント

今あるモバイルコマースは、ユーザにスティッキーなサービスを作れてるとこが少なく、カタログの域を出ていない。SEOの効かないアプリの世界ではロングテールは取れない。ユーザが継続的にアプリを開きたいと思う仕組みが必要だと思う。

その点、WEARはファッショニスタがコーディネートを投稿し、ユーザがそれをフォローするという構造がNewsPicksにも似ていて、ちゃんと回り始めてるように見えます。おそらくキュレーターをちゃんと人として見せていることが要因の一つなんじゃないかと思います。(人は人か、人に準ずるほど人格化されたブランドをフォローするものというのが根幹にあるのでは)

結論としてはスケールするし、マネタイズも成功すると思ってます。

メディアコマースの観点で筆者はWEARに注目したが、モバイルコマースの観点もたしかにある。ファッション領域のコマースとしては、直接買える商品が多いFancy、Origamiがあり、SumallyのようなPinterestに近しいサービスも存在する。

サロンメンバーが指摘する「スティッキー(中毒性)さ」はとても重要であり、従来の単品カタログのコマースではスティッキーさは生まれにくい。FancyもOrigamiもtwitter的なフォローフォロワーの機能があり、そこに単品を流していくだけなので、それだけではユーザーはスティッキーにはならないだろうし、現に筆者自身も速攻で離脱した。継続的にアプリを開くモチベーションがない。

一方でWEARはコーディネート投稿を中心とすることによって、単品販売よりもファッション雑誌的な見え方に近づく。その方がコンテンツとしては協力であり、ユーザーが定期的に訪れるモチベーションを喚起しやすい。よって、筆者は現状のままではFancyやOrigamiはスケールして売上が上がると思わないし、筆者周辺ではそのようなコンセンサスが形成されている。

現状のままのFancyやOrigamiがスケールして売上が伸びるという意見がある人がいればぜひコメントしてほしい。筆者はWEARの圧勝だと断言する。

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東洋経済で「スタートアップのビジネスモデル」を連載中。
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