今年の国内の緩やかな流行は様々な分野でのこの「テイストグラフ」的なサービスである。業界の方はどういったサービスが多いかは知っているであろうが、自戒を込めて今一度「テイストグラフって何だ」という検証をしてみたい。
昨年はGroupon系サービスが隆盛を極め、業界再編が激しかったことは記憶に新しいが、再編はさほどないもののテイストグラフで生き残るのもほんの一部だろうと私は推測してる。
テイストグラフ=ソーシャルベースの趣向性のマッチング
テイストグラフと呼ばれるサービスの特性はこの2つ。
■1:ソーシャルベース
・twitter / FB連携(というか登録がこのどちらか、もしくはFBからのみしかできない)
・サイト内で「フォロー」「フォロワー」という機能がある。
このどちらかないしは両方を満たしているケースが多い。ソーシャル時代においては「人が」起点となるため、実名性を担保しやすいFBの方がテイストグラフとは相性がいいといわれている(実際にtwitter / FBのどちらかをコネクトさせる場合、FBでコネクトする場合が多いという話もあるようだ)
■2:趣向性のマッチング
各テイストグラフを分析すると「総合型」と「カテゴリ型」、そして「CGM型」と「チェックイン型」に分れます。「総合型」の代表格はアメリカのGet Glue。TCによると4月時点でユーザー数は100万に達しているようだ。「カテゴリ型」の代表格は本稿では上げない。というか私が無知で知らないだけか。誰か知ってたら教えて下さい。
おまけ:想定されうるKPI
CGM型の場合:投稿コンテンツ数
チェックイン型の場合:チェックイン数
両方想定されるKPI:ソーシャルバズ(tweet/like)もしくは自サービス内のバズ的なライトなコミュニケーション
生き残るテイストグラフの特性
■1:テイストの「高いマッチング率」
テイストグラフが提供する最大限の本質的な価値は、「あなたと趣向性が合う人を紹介する」という、今まででいうレコメンドの質を上げたものである。従来のレコメンドはデータを元に「定量的に」アマゾンとかで
「この本を買った人はこの本も・・・」としていたものですが、テイストグラフでもチェックインなどは「定量的」な指標として取ることも出来ますがCGMコンテンツの閲覧による「定性的な」マッチングが強化されてきている点が特徴です。
CGM型の方が定性的な情報が上がってくるため「レコメンドにはないレベルのマッチング」が実現しやすいのではないかと思います。チェックイン型も従来の顔の見えないレコメンドよりは「誰がチェックインしたか」わかるのでマシなのですが、マッチングの精度はCGM型と比較するとかなり低いのではないかと思われます。よって今までにない本質的な価値に繋がりやすいCGM型の方が、ユーザーエクスペリエンスとしては驚きがあり、価値を感じてもらいやすいでしょう。
■2:「総合型」は十八番カテゴリによる爆発、「カテゴリ型」はマーケットニーズ
私の持論、というか至極当たり前のことなのですがwebサービスは「毎日継続して使ってもらえるインフラ的なもの」が勝つと思っています。唯一の例外はコマースであり、「必要な時に見て買う」というユーザー行動となるでしょう。基本的にはこうしたテイストグラフ的なサービスは、コマースのような明らかな「これ欲しい」的な明確な目的よりもtwitterやFBの延長線上で「何か面白いことないかしら」的な使われ方が多いと想定されます。
▼「総合型」
Get Glueはどう伸びていったかわかりませんが(米国で100万規模はインフラとはいえず、今後の動向を注目しています)「チェックイン型」でTV番組などにチェックインしてそこからソーシャルバズへという流れが多いようです。Get glueが米国のいわゆる「10m$スタートアップ」の仲間入りを果たすには総合型であるにしろ「TV番組へのチェックインからソーシャルバズ」的な、どこか特定のカテゴリで爆発させてユーザー数を増やしていく必要があるでしょう。
個人的にはどんなサービスも「総合型」は立ち上がり速度は鈍く、インフラ化するのが難しい印象です。このような背景で、国内におけるGet Glueの類似サービスである「i.nterest」は普及が難しいと予測しています。
総合型は「十八番カテゴリによる爆発」が必要となるでしょう。
▼「カテゴリ型」
完全にそのマーケットの規模感に拠るかと思います。「どのカテゴリを取ったか」で勝敗はすでに分れ得るといえるでしょう。人が生きていてその「テイスト」が話題になる回数。人がそのカテゴリをどれくらい必要としているのか。そういった意味では人間の生活インフラである「衣食住」は確実な需要が見込まれ、頻度的には「食>衣>住」となりそうです。
エンタメ系も「住」よりは頻度が高いため、エンタメの総合系はニーズがありそうですが、映画や音楽などさらにニッチ化してしまうため、マッチングの精度はどうしても下がってしまい、サービスとしての魅力は相対的に下がるでしょう。それ以外はさらに厳しいかなと思っています。
テイストグラフの覇者となる潜在能力:「iQonとRetty」
まずはこの図を見て頂きたい。
先程の「テイストグラフの型」をマッピングしたものである。私がテイストグラフの最も本質的な価値と判断した、マッチング率(精度)が高いと想定した「CGM型」、そしてカテゴリ型の中でも「衣と食という高いマーケットニーズを満たす」という観点において、衣のiQon、食のRettyがテイストグラフという分野における覇者になると予測を立てた。
▼iQon
テイストグラフという言葉があまり聞かれなかった2010年春にローンチしている。コーディネートサイト。*サブタイトルに「人と人とのつながりから新しいファッションを発見できる」とあり「テイストグラフ」と定義づけられる。
iQonに関してはファッションという特性上ECに繋ぎ込みやすいという特徴があり、おそらく主なマネタイズは「サイト上のコーディネートの商品のリンク先で購入することでのアフィリエイト広告モデル」と想定される。投稿コーディネート数もそれなりにあるようで、お洒落女子たちが「ウィンドーショッピング」ならぬ「ネットサーフィンショッピング」を楽しみ感性を磨くのにいい場所であろう。
私も昔ECバイヤーをしておりファッション好きではあり、男性のコーディネート投稿数は少ないのが少し残念なところではあるが、モデルとしては「ファッション」という生活に密着したマーケットに対してコーディネートパターンを知りたい、増やしたい」というアンメットニーズを満たしている、よいサービスであると思う。
「食」という生活密着度が高いマーケットに対して、「行きたいレストランをログ化したい」「人づてにオススメのレストランを知りたい」というアンメットニーズをテイストグラフで埋めにいくというサービスであり、
私もユーザーとしてよく利用しているが「自分の外食を1tweetレベルで綺麗にログ化できる」「投稿に対してリアクションがあるとなんか嬉しい」
「人の投稿に対して『行きたい』ボタンで行きたい店のログを貯められる」この3つのアクションがイージーに循環しておりヘビーユーザーを醸成しやすいサイクルを形成できている。
「食」という頻度が高いテイストに対して「イージーなサイクル」で行った店と行きたい店のログがコミュニケーションを伴って溜まるのは、ユーザーに取って心地よい体験のはずである。
▼最後に:この2を満たさないテイストグラフは生き残らないだろう。
1:カテゴリでのマーケットニーズ(衣食住、ギリギリエンタメまで)
2:高い精度でのテイストマッチング
この2つをいずれも満たしていないサービスがほとんどであり、生き残るのは難しいと思います。本稿がこれからテイストグラフを立ち上げようとしている方々の参考になれば幸いですし、投資家に対しても上記を満たさないサービスへの出資はお勧めできません。*そもそもテイストグラフ系はマネタイズが難しく、クラウドファンディング系の方が早期マネタイズが見込まれます。
とはいえAirBnbなどの例もあるので一概にはいえないですが、確実性が高そうな案件はこの分野では上記のファンダメンタル分析からiQonとRettyといえそうですね。(iQonは億単位で資金調達済みですが)
考えてみりゃ「そりゃそうだろ」という今回の分析結果ですが、案件が乱立している時は冷静な判断をしにくいものです。ご参考までに。