2O12 iOS6が世界を変えてしまうこともある

Pocket

*うにー*がスクランブル交差点で雨が降りしきる中歌い出した初夏から季節は移ろい、東京は秋を迎えようとしていた。2O12年夏はいろいろなことがあった。まず、Facebookのshareボタンが廃止された。厳密にはLikeボタンもshareボタンと同様の機能を果たしていたのだが、一時期からそのサイトの記事に直接「いいね!」しないといいね!数としてカウントされなくなった。これはテック系メディア業界に深刻な「いいね!」不況をもたらした。Tech Crunchでも「いいね!」数が100を下回るという記事が珍しくなくなった。

そしてiphone5が発売された。しかし、その直前にリリースされたiOS6にupdateするとGoogle Mapがバグだらけという現象に日本全国は苛まれた。iphoneユーザーにはiOS6が醸し出す世界と現実世界の境目がつかなくなり、iOS6の地図に世界は徐々に塗り替えられていった。気がつけば新宿西口という駅が副都心線に新設されていた。新宿西口駅は北参道駅と新宿三丁目駅の間というとても奇妙な間に組み込まれていた。

新宿西口駅で降りてブックファーストに向かうか、新宿三丁目で降りて伊勢丹に向かうかという選択肢で迷った僕は、試しに新宿西口駅で降りることを選んだ。

新宿西口駅の改札を通り、A3出口から地上に出た。そこはどうやらロータリーだったようで、ストリートミュージシャンが優しい歌を歌っていた。どこかで聞いたことがある声だなと振り返った。*うにー*だ。*うにー*が活き活きと朗らかに歌っている。曲はCHEMISTRYの「愛しすぎて」だった。掌にはスマートフォンを握っていた。何やらスマートフォンに向かって歌っているようだった。たしかに周りに客は居なかった。ひょっとするとnanaが完成したのかもしれない。nanaに向かって歌っているようだ。

愛しすぎるとたしかにもう戻れないかもしれない。たしかに彼の手は震えていた。彼の手にぬくもりは残っていないだろうけど。知らない振りをしてそっとしておいたほうが良いと思い、僕は西口を離れて新宿三丁目へ向かった。

商業ビルの地下にあるBrooklyn  Parlorへ入った。14時を過ぎていたがいささかバブル気味な価格のハンバーガーを頼み、ついでにスコッチもオーダーした。奥のソファー席で寛ぎながら、店内のwi-fiを利用し、Mac Book Airを開いた。僕はおもむろにPinterestを開き、商業空間の写真をRepinし始めた。やれやれ。Pinterestといえどもイメージ通りの絵はなかなか見つからない。とはいえGoogle画像検索よりはマシだ。地道にRepinしていこう。

Repinとは?RepinとRetweetの本質的な違いについて僕は考え始めてしまった。画像の持つ力とテキストの持つ力。そしてそれを一旦は保有した人との関係性。Brooklyn Parlorはそんな抽象的な思考へ誘ってくれる都内でも希有な空間だ。ここは単なるカフェではない。NYにスリップした感覚を覚えることもある。スコッチに口を付けながら、僕はiOS6以前は存在しなかったはずの新宿西口駅について想いを巡らし始めた。りとるえんじぇるは言った。

「もうiOS6以前のセカイにはモドレナイ」

そうだ。OSはupdateすると古いOSにはもう戻れない。愛しすぎたらもう戻れなくなるように。*うにー*も僕もiOS6の世界にupdateされてしまった。「ぼく、スマホ」おじさんを展開する小俣はAndoroidユーザーだったからか、まだこちらの世界で気配を感じない。iOS6をupdateしたものとそうでないものとで、見える世界が全く異なってきてしまっているのを感じる。しかし、今までなかったはずの新宿西口駅は僕が今居る世界に存在しているし、副都心線はごく自然に運行していた。僕はBrooklyn Parlorを出て、iOS6以前と変わらない街並の新宿三丁目の地上に出た。iphoneを取り出してGoogle Mapを覗いてみた。そこにはiOS6以前には存在したはずの伊勢丹が明記されていなかった。僕はおそるおそる伊勢丹方面に歩き始めた。



Pocket

コメントを投稿する

「2O12 iOS6が世界を変えてしまうこともある」に対してのコメントをどうぞ!