IPOも事業売却も目指さない「持続可能な」経営手法:ループスコミュニケーションズ斉藤徹氏インタビュー

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こういうメディアを運営していることもあり、私はスタートアップやベンチャー企業の経営者の知り合いがそれなりにいる。そして時々思う。彼らは何をゴールに起業したのだろうかと。もちろん、世の中に問いたいサービスがあるという前提がある方が多いであろうが、投資家を入れている場合は資本政策上、IPOか事業売却の2択を迫られる場合が多い。

ビジネスをスケールするにあたりIPOすることや、キャピタルゲイン狙いで起業することを私は否定しない。しかし、「IPOか事業売却か」という2択以外の経営スタイルがあっても良いのではないかと思う。IPOも事業売却も目指さない「持続可能な経営」に私は興味がある。持続可能な経営スタイルや、「会社員」「フリーランス」の間となるような新しいスタイルの働き方を志向し、今後実践していきたいと思う。

本稿では「持続可能な経営」スタイルを実践しているループスコミュニケーションズの斉藤氏に話を伺い、氏の経営哲学についてお伺いした。実際にお会いしてみると仏のようなキャラである斉藤氏だが、氏の壮絶な半生はこちらの記事をまずは参照していただきたい。

ループス創業物語
徹底的にやる男、その名も徹

本稿では上記の内容以外の点にフォーカスを当ててお届けする。

リーマンショック後のポスト資本主義への価値観の変化

上記の文中にもある通り、斉藤氏は最初に創業したフレックスファーム社で総額30億円の資金調達をし、その後ループスコミュニケーションズでも11社のVCから6億円調達している。しかし、リーマンショックの時期に資金調達に失敗し、経営危機を経験した。

リーマンショックに接して、今までIPOを目指していた斉藤氏の心境に変化が現れた。今までは疑問に感じたこともなかった資本主義に論理矛盾が生じているのではないかと思い始めた。「お金より大事なものがあるのではないか?」「売上や規模を伸ばすことが本当に善なのか?」という疑問を感じ始めたのだ。その後は事業計画へ期待して投資いただいた投資家には心苦さを感じつつも、持続可能な経営を目指した。斉藤氏の周りでもIPOを目指さなくなった人が増えたりしたらしく、リーマンショックは確実にベンチャー経営者の思想に影響を与えたといえるであろう。

赤字スタートアップではバブル崩壊後は生き残れない

斉藤氏に伺った情報を元に、歴史的な日本国内のベンチャー投資を振り返る。過去と比べると今のスタートアップバブルは少額でかわいいものである。今の投資家はバブル経験者も多いため、投資金額やリスクに対して慎重な傾向が見られるとのことだ。

1995年代:5,000万前後の投資が多い
2000年代:ソフトバンクと光通信を中心に10億単位の投資が何社か
2005年代:3,000万〜1億単位の投資が多い
2010年代:1,000万前後の投資が多い

バブルはいつもメディアと投資家による煽りで醸成される。ただ現代はリードインベスターができる投資家が増えたことは大きいとのこと。バブルは長く続かないので、1年以内に引き潮が来る。ダウントレンドになった時に黒字ではない企業は厳しい。そうした状況を鑑みると、規模の追求よりも利益思考が重要になるというのが斉藤氏の見解だ。メディアによる煽りに対して警鐘を鳴らしたこちらの記事もご覧いただきたい。

アマゾンのような健全な赤字の後に黒字になるモデルもあるが、 利益モデルが見えない事業の規模の拡大のために先行投資をして赤字を出す事業は、今の日本国内の環境では事業継続可能性が低いであろう。規模を追求する夢も良いが、足下で利益を稼ぐことが重要であり、ダウントレンドで生き残れるのは利益が出ている企業であるとの見解も示している。

「現代の若手起業家は収益性を考えたビジネスを運営しているのだろうか?」という疑問を斉藤氏は感じている。実際に私の肌感覚ではスタートアップではマネタイズに触れるのは禁句になっているのではないかと思うほど、マネタイズについて軽視する風潮があると感じている。小規模の資金調達しか完了しておらず、マネタイズへの道が遠いスタートアップはバブル崩壊後は茨の道になるであろう。利益思考を追求すべきだ。

顧客や社員の幸せを第一に考えた経営とは?

リーマンショック後の価値観の変化を反映してか、斉藤氏は規模拡大の追求せず、顧客や社員が幸せになる経営を心掛けている。その姿勢がループスコミュニケーションズのミッションステートメントにあたる「Looops Way」に表れている。グーグルやザッポスを参考に作られたようだ。

詳しくは上記のリンク先をご覧頂きたいが、Looops Wayの下位概念にあたるLooops VisionやLooops Core Valueからは一切「売上や規模の拡大に関すること」は垣間見えない。この種の企業ミッションだと「○○で売上No.1を目指す」とあるところも目にするが、Looops Wayからは社員の価値を最大化しその結果、顧客へ提供する価値を最大化するためのVisionや行動指針となっていると見受けられる。

たとえばVisionである「好きなことに熱中できる、超スペシャリストが集まる理想郷を目指す」という点に関してはソーシャルメディアを通して超個性的なキャラクターが垣間見えるループス社員の存在によって、その徹底ぶりは客観的に伺える。

社員の働き方に関してもかなり自由度が高いらしく、クライアントへのアウトプットをしっかり出していれば、会社外での作業も容認される。社員数は16名。経営危機後は社員が1人も辞めていないことから社員の満足度の高さが窺い知れる。メンバーを見た限りは実際に満足度は高そうだ。

規模拡大と真の顧客志向(アウトプットの質)は限られた人材リソースであれば相反するが、規模を拡大しないため真の顧客志向が維持され、働きやすい環境にもなった結果、今の良い循環が生まれているのではないか。顧客志向に関しては、プロジェクト終了後にプロジェクトメンバーではない社員がクライアントにヒアリングを行いその結果を社内で共有しているとのこと。

斉藤氏を迎えた学生向けセミナーを5/31に開催

ソーシャルメディアコンサルティングファームであるループスコミュニケーションズやブログ「In the looop」でも著名な斉藤氏であるが、私は「持続可能な経営を志向する経営者」としての側面が一番興味深かった。
そこで学生向けにではあるが、Goodfindにて次代のソーシャルメディアの考え方と学生のソーシャルメディア活用法というセミナーを企画した。

本セミナーはあくまでソーシャルメディアに関する考え方の話が中心になるであろうが、私からの問いかけで「投資家に頼らない持続可能な経営スタイル」についてもお話しいただこうと思っている。投資家の資金とIPOや売却を前提としない起業、どういう経営スタイルと関わることが自分にとって一番幸せなのかを、セミナーを通して私も考えたい。学生の方はぜひお越し下さい。一味も二味も違う「生」の話は価値があるでしょう。

【参照リンク】

ループス創業物語:
http://media.looops.net/saito/2011/11/22/looops_story/
徹底的にやる男、その名も徹:
http://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/1106/08/news016.html
The startup -テックメディアの功罪とメディアの理想のバランス
http://thestartup.jp/?p=1933
Looops way:http://looops.net/message/
In the looop: http://media.looops.net/
Goodfindでの斉藤氏セミナー: http://www.goodfind.jp/2013/seminar/detail.html?sc_id=560



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