久々の更新ですが、メインがnoteになっているので、書評です。
Tapスマホで買ってしまう9つの理由、を最近読みました。
簡潔に話すと、対象読者層はマーケターがメインと言えます。
マーケターなら一読の価値がありますが、読了に4.5時間かかった(多分私の読書スピードは平均的)ので、マーケター以外の方は読んでも挫折する気がします。私もこの本の内容をすぐに実践できる立場にないこともあり、挫折しかけましたw
なので、内容に興味がある方はこの記事(3分程度で読めます)をサラッと読んでいただいて、それでも興味があるなら買って読んでみることをお勧めします。
率直に申し上げて、翻訳がかなり下手に感じたのが、読了時間や本のボリュームが嵩んでいる理由になっていると思います。似たような表現を何度も繰り返し用いているので、多分半分以下にボリュームを圧縮できたはずです。
内容が悪いわけではないので、翻訳で損をするのはもったいないですね。
オススメの読み方としては、三部構成ですが、第二部の「モバイル経済を形成する力」この中で9章に分けて「モバイルで買う理由」が説明されています。章末には「企業にとって重要なポイント」というまとめがあるので、そこを要約としてそこから読み始めてみるのもアリだと思います。
9章に分けられている「スマホで買う理由」の章だけ抜粋して下記に紹介。
状況:何が起きているのか?
場所:なぜ位置情報は重要なのか?
時間:味方につけるべきもの
顕著性:顧客の目を引く
混雑度:なぜ混んでいることが重要なことなのか?
行動履歴:軌跡を明らかにする
社会的関係:誰と一緒にいるか
天気:完璧な嵐を発生させる
テック・ミックス:端末と広告フォーマットを組みわせる
これらの中から気になった点をピックアップしていきます。
位置情報データは宝の山。「軌跡連動型広告」に今後注目
大前提として、本書の内容はマーケターの中でもメガブランドを扱うマーケターに向いている話で、本誌のメイン読者であるスタートアップに最適な内容とは言えません。
ですが、マーケターであれば知っておいた方が得なことがたくさんあるのでその一部をご紹介します。
「スマホで買ってしまう理由」という副題の本であり、企業視点での話が多いです。よって、スマホで人にモノを買わせる視点であり、スマホのデータをどのように活かして広告配信をするか。という点に主眼が置かれています。
ユーザーがスマホにデータ提供を許諾することが前提ではありますが、スマホのビッグデータは企業が効率的に広告配信する際の大きな助けになります。
そこで最も重要なのは位置情報であると本書を読んで再認識しました。(マーケターの皆さんなら知っていることでしょうがw)
データにも様々な階層があり、スマホの位置情報データはその土台にあると言えます。この位置情報データを起点に9つの章でいうと、天気や誰といるか、もしくはこの概念が初耳でしたが「どこからどこに移動したか」のパターン分析にもなる「軌跡」をデータとして持ち、そこに最適化した広告を配信すると効果が良い。
位置情報を利用したプロモーションとしては「距離」と「割引率」を変数に、今いる場所から遠い人に対してでも、高い割引率を提示すれば、高い割引率のクーポンを使用する場合がある。距離的に不利でも、割引率を高めれば、顧客を横取りすることが可能である。というデータの話が興味深かったです。
満員電車の中だと、スマホでモノがよく売れる?
他に気になったのは、プロモーションの小手先的な話にはなりますが、「時間・混雑度・社会的関係・天気」の4つです。
☆時間
実用的な商品の午後のマイクロモーメントには、快楽的フレーミングのメッセージで対処できる。 同様に、快楽的な商品の午前中のマイクロモーメントには実用的なフレーミングのメッセージが有効。 同じ商品の広告のフレーミングを変えるだけで、1日を通してより多くのマイクロモーメントを活用できる。(引用:P1744)
「マイクロモーメント」の上手い日本語訳はなかったのでしょうかw 「瞬間」で良い気がしますが。「フレーミング」も「コピー」と同じ意味な気がします。こうした翻訳の下手さが、読者の眠気を誘いますよね…
商材と時間帯によって、コピーを変えると良いよという話。
☆混雑度
(元の文章をかなり要約すると)
特に通勤時間帯の電車内で混雑度が高い場合、ユーザーの行動が制約される。ゆえに、普段より熱心にスマホに没頭するようになり、その結果モバイル広告に影響されやすくなり、通常より広告を受け入れるようになる。よって、購入率が高まる。
レビュー記事を書く際、大抵本文引用するわけですが、本文の引用が苦痛なほどのわかりにくさがあるのも本書の特徴です…
この混雑度の話は自分が満員電車に乗った時のことを想像してみるとわかりやすいです。周囲を見ても、大抵の人がスマホに没頭しています。他の人と目があったりもしたくないので、快適な空間にいるよりも、スマホへの没頭率が高いのが、購買率向上に寄与していると言われています。
☆社会的関係
集団でいる消費者は、一人でいる消費者よりもモバイル広告に反応する確率が2倍も高い。 3人でいる消費者は、2人でいる消費者よりレスポンス率が1.5倍高い。 男女の恋人同士はモバイル広告に最も反応しなかった。
大人だけの集団では、共同で使える割引クーポンは、一つの製品の値引きよりも効果が高い。 高所得の顧客は、社会的集団で買い物をしている時よりも、一人で買い物している時の方が、モバイル広告に反応する確率が高い。 彼らが一人で買い物している時、企業側が軌跡連動型広告を使用している時が、最も成功率が高い。
(引用元:P2923)
まず「誰と一緒にいるか」というデータを取るのは、かなり大変な気がします。例えば、店舗入店時にIoTでそのデータを取って、そのデータを元にターゲティング広告を出すイメージでしょうか。この検証実験では、そんな感じのことをしていたのかな。
さらに考察すると、集団でいる人は恋人でもなければ、たまに手持ち無沙汰でスマホを見ることがあって、その結果プッシュ通知とかに反応しやすいのではないでしょうか。
共同クーポンの効果はバイラル効果があることの検証になっています。高所得者が一人で買い物している時も、やはり暇なのでスマホを見ていることが多く、ゆえに広告への反応率が高いのではないでしょうか。
☆天気
天気が良いとスマホでの購買率が上がり、天気が悪いと低くなる。天気が良いと、モバイル広告への反応が早い。
晴れた日は予防的なフレーミングのコピー(「この機会をお見逃しなく」)を使うのを避け、雨雪霧嵐の日に使うと購買が増える。マイクロクライメイトに基づいた消費者のマイクロターゲティングは強力な手段になりうる。(引用元:P3297)
これは基礎的に思えて、案外知りませんでした。「マイクロクライメイト」というのは「局所的気候」のことで、例えば「港区」という単位での気候ではなく「麻布十番」という単位まで区切ることによって、気候の正確性を担保し、細かくターゲティングすることで購買率を上げることが可能になります。
気になった点としては以上です。読みづらい本ですが、エッセンスを掴んだり、その裏付けとなる実験結果の話はある本なので、より詳細を知りたい方は是非ご一読を。
マクドナルドのマーケターとかが読むには非常に実務的な本なのでしょうが、スタートアップのマーケターが実践に移すのはフェーズがまだ早い気がします。しかし、時間帯や天気で広告コピーを変えるとかはできますよね。
細かいチューニングで、広告効果を高めることはマーケターとしては重要な仕事だと感じます。