何がきっかけだったのか忘れてしまったのですが、最近「ブランディング22の法則」という本を読みまして、なかなか良かったのでご紹介です。著者はマーケティング系では著名なアル・ライズ氏で、私は6年前に「売れるもマーケ 当たるもマーケ マーケティング22の法則」を読んだことがあります。
著者は「法則は22個」というこだわりが強いのでしょうか。
本書は洋書の翻訳にありがちな、冗長で睡眠薬的要素な要素はなく、1つの法則を10ページ程度で平易に紹介しており、非常に読みやすいです。読書が苦手な人ですら、読めそうな本です。
監訳者のあとがきの指摘にもある通り、なんかいくつかの法則が言っていること同じだったり、決してMECEな本ではないのですが、それでも十分に読む価値があります。ブランディングに際し、やってはいけないことや、こういうことをやると良いということが網羅的に書かれています。
大枠の印象としては、ブランディングに際しては「これをやると良い」というより「これをやるとミスブランディングになる」というNG項目が多く、その罠に陥ったがために自滅していったブランドが多々あるのだなと感じました。
例の如く私が気になった箇所をいくつかピックアップして、紹介したいと思います。
☆記事を読む前の確認事項
対象読者層:ブランディングに関心のある方全て
本書目安読了時間:2時間半程度
難易度:平易
とにかく「一番手になること」が大事
本書では「一番手になることが重要」と様々な言い換えで強調されていると感じます。下記が一番強烈に感じたメッセージでした。
常識を破壊した後に著者たちが強く主張しているのは「一番手になること」。「もし一番手になれなかったら自分だけのカテゴリーを作りなさい」とさえ言い切る。 自分たちでなければ作れない独自の世界を築きなさい。(P268)
一番になれないのであれば、カテゴリーを作ってでも一番になれ。ということです。
ブランドにおいて、カテゴリー内でナンバーワンであることが非常に重要なのだと思います。よくTVCMでも「◯◯ナンバーワン!」と連呼されていたりします。
本書では新しいブランドは「広告ではなく、パブリシティによって生まれる」という表現もあり
パブリシティを生むベストな方法は一番手になることである。新しいカテゴリーにおける一番手ブランドになること(P47)
こういったメッセージもあります。
まず、ブランディングにおいては何よりも「ナンバーワンになること」が大事なようです。
新しいカテゴリーを創造せよ
ナンバーワンになることが重要とのことですが、ナンバーワンになれなければカテゴリーを作ってその中でナンバーワンになれ。と本書による主張があると上記で紹介しましたが、おそらくその領域による第一想起を取れるか否かで売上や利益が全然違ってくるだろうということだと思います。
ブランディングの最も効果的で、実り多く、役に立つ側面とは新しいカテゴリーを創造すること。焦点をゼロにまで絞り、全く新しい何かを始めること。(P103)
ブランドではなく、カテゴリーを売りこめ(P112)
大事なのはブランドを拡張させることではなく、市場を拡張させること(P76)
順序としては、自分(自社)がナンバーワンになれるカテゴリーを創出し、そのカテゴリーの市場規模自体を拡張させることができれば理想的です。
競争は市場のノイズを高め、カテゴリーの売上を伸ばす。各々のカテゴリーにとっては二大ブランドの存在が理想的(P144)
あなたのブランドは健全な競争を進んで迎え入れるべき。そうすればそのカテゴリーにより多くの顧客がもたらされる。支配的ブランドのシェアは50%が上限(P149)
わかりやすい例でいうと「料理サイト」というカテゴリーがあったとして、そこのナンバーワンはクックパッドでした。そこで「料理動画アプリ」というカテゴリーに絞ると、そこはまだクックパッドが強い市場ではなかった。
そこでクラシルとDELISH KITCHENが出てきて、二社で競争したことによって、そのカテゴリー自体の成長率を高めたと言えるのではないでしょうか。
よって、競合をdisり合うよりも、健全な競争を歓迎した方が、カテゴリー自体の認知が上がるため、自社の収益拡大の恩恵を受けられると言えます。寡占できる市場など、ほとんどないのですから。
サブブランドの罠と兄弟ブランドの留意点
本書を読んでいくと「サブブランド」と「兄弟ブランド」という言葉が出てきます。非常に似た概念な気もするのですが、私はこう解釈しました。
サブブランド:本体ブランドの廉価版や高価版
兄弟ブランド:異なるカテゴリーへの進出
例を挙げると、マッキントッシュというゴム引のトレンチコートブランドがあります。これをもともとメンズ特化のブランドと仮定しましょう。
マッキントッシュ フィロソフィー(実在する)は廉価版のサブブランドと言えます。メンズ特化だったところ、マッキントッシュ・ウィメン(勝手に作った)を作る場合、兄弟ブランドと言えます。カテゴリーが違うから。
補足:マッキントッシュ・ロンドン ウィメンやマッキントッシュ フィロソフィー ウィメンは実在するようです。「マッキントッシュ」自体は実際はメンズウィメンズ両方扱っている。
もう一つ例を挙げましょう。Umeki Salonというオンラインサロンがあり、学生向けの「Umeki Salon Young」という別サロンを作るのがサブブランドです。
一方で、資金調達情報に特化した情報を届ける「ウメキワークス」を作る場合、兄弟ブランドと言えるかと思います。同じスタートアップ関連の情報でも、アウトプット手法や特化する内容を変えているので、成立している(と私は思っています)。
サブブランドと兄弟ブランドに関して、本書では下記のような指摘がありました。
サブブランド構築はコアブランドの力を腐食させる。ブランドとは何かを突き詰めると、顧客の頭の中に刻まれたアイデアであり、特徴であり、典型的な顧客像である。サブブランディングは当該ブランドをその反対の方向に導く考え方であり、サブブランディングはブランディングが築いたものを破壊している。(P187)
ファミリー・アプローチに成功する鍵は各兄弟ブランドを独自のアイデンティティを備えたユニークで個性的なブランドにすること。各ブランドをできるだけ際立つブランドにすること。(P192)
新しい兄弟ブランドは新しいカテゴリーを創る場合にのみ市場に出す(P200)
特にブランディングの主体が企業である場合、売上成長を求められるため、安直にライン拡張に走りがちです。一見、短期的には売上増になるであろうライン拡張ですが、長期的にはコアブランドの力を削いで弱体化させる場合が多いと指摘されています。
これは私自身、ユーザー感覚として日頃から思っていることで、実際に「マッキントッシュ」のコートに憧れを持ち、スプリングコートは一着持っています。しかし「マッキントッシュ・フィロソフィー」が出てきた際には、なんとも言えない気分というか「なんか安っぽいブランドになってしまったな」という感覚が拭いきれませんでした。
サブブランド?兄弟ブランド?星野リゾートに思う疑問
ここでさらに踏み込んで、もう一つ実例を検証してみましょう。本書には全くない話で、私の見解です。
サブブランドなのか、兄弟ブランドなのかどちらとも言えて、かつユーザーによっても持ち得る感想が異なるのではないかと感じるのが星野リゾートではないでしょうか。
コアブランドは「星のや」で軽井沢・京都・竹富島・大手町・富士に日本では展開しています。価格帯は高級ホテル群でも高い部類であり、都内であればアマン東京と並んで最も高い価格です(リッツやペニンシュラよりも高い)。
一方で「界」というブランドで地方の至る所に「そこそこの価格帯」の旅館を展開しています。これはおそらくターゲット層も星のやと異なり、カテゴリーも別と置いているのではないかと思います。私が勝手に思う棲み分けは下記の通りです。
星のやの顧客層:宿泊単価10万円近く、年収1,500万円〜のアッパー層
界の顧客層:宿泊単価5万円前後、年収800万円がたまのご褒美として宿泊
蛇足ですが私は「アンチ・星野リゾート」で、軽井沢と大手町に宿泊した経験から、そのハードとソフト共に同じ価格帯であるアマン東京と比類するレベルではないと感じています。
星野リゾートの高価格は大量の雑誌広告費によって嵩上げされており、ユーザーは広告費分まで負担していると感じます。
本題の戻ると、「星のや」の顧客が宿泊するのは、アマンやリッツ・カールトンであって、「界」にはほぼ宿泊しないと思います。
むしろ、雑誌広告などで「良さげなブランドイメージ」をターゲット顧客の中に構築しているであろう星野リゾートが、ランクが落ちる「界」というブランドも展開していることを思うと、なんだか微妙な気分になるユーザーもいるのではないでしょうか。私は実際にそうでした。
「界」は定義的には「カテゴリーが違う兄弟ブランド」ともいえ、「旅館カテゴリー」のナンバーワンかもしれません。
しかし、「宿泊施設」というより大きなカテゴリーで見ると、星のやのディフュージョン(劣化版)ブランドとも捉えられ、サブブランドにも感じることができます。
例えば、アマンが「アマン・コンフォート」なる(価格が快適なという、強引なネーミングにしてみたw)廉価版であったり、「アマン・プレミアム」というより高価格路線のブランドを出したらどうでしょうか。
「アマン・コンフォート」はなんだかブランド全体の格が下がるイメージを、「アマン・プレミアム」は、今までのアマンはプレミアム感ないんかい!というツッコミをしてしまい、コアブランドである「アマン」のイメージを損なうことでしょう。
星野リゾートは「界」という別のブランド名を使用しており、上っ面は兄弟ブランドなのですが、中身的にはサブブランドと同じと感じるユーザーが多いのではないか。ゆえに、長期的にはコアブランドの「星のや」のブランド価値は下がるでしょうね。というのが、私の見立てです。
絞ることがブランドへの第一歩
具体例から戻って、ブランディングの抽象論から徐々に具体的な話をしてきましたが、最後にブランド構築のための実践的な話をいくつか引用します。
これまでに最も成功したブランドは、焦点を絞り続けてそのカテゴリーを自体を拡張したブランド。自分の名前を他のカテゴリーに暇で広げようとしたブランドとは逆。(P79)
高品質ブランドを構築するためには、焦点を絞り、その絞った焦点と優れた名前、高い価格とを組み合わせる必要がある。(P103)
いい結果は焦点を絞る時に生まれる。(P41)
おおよそ全て「絞れ!」という言い換えです。
絞ることによってエッジを立たせて、そのカテゴリーのナンバーワンを取り、そのカテゴリー自体を拡張させること。本書をまとめると、これがブランディングの基本であるといえそうです。
雑な例としては、仮にこれからインスタを運用するとして「グルメなアカウント」や「鮨に特化したアカウント」を運用するよりも「鮪か雲丹に特化したアカウント」を作って、ひたすら「鮪か雲丹」をupし続けた方が、ブランド価値は付きそうです。
インスタで写真を見ただけで、「どこの鮨屋の鮪か」がわかったりするので、ひたすら鮪を見るのも楽しいものですし、鮪好き、雲丹好きは一定層はいるので、きっとそれなりのフォロワー数が付くはずです。
仮に「鮪アカウント」で一定の認知を得た際に、鮪のみで頑張り続けるのか、雲丹にも拡張するのか、鮨全体に拡張していくのか、悩ましいところですね。
私自身は「スタートアップ」というカテゴリーから始めましたが、最近は「投資」というカテゴリーに拡張していこうか悩んでいます。多分、サブブランドではなく兄弟ブランドなのだと思います。未上場株特化から、上場株の投資目線での紹介により、個人投資家層の読者を獲得したいという思惑があるのです。その方が市場も大きいですしね。
以上です。ブランディングの教科書として、これ以上はないという書籍かと思いますので、Kindle版はないのが残念ですが、ぜひ読んで見てください。
「売れるもマーケ、当たるもマーケ」も良かったと記憶していますのでセットでどうぞ。