2017年に入り、いよいよ盛り上がっている動画メディアスタートアップ。本誌では2016年7月25日に5つの動画メディアを紹介する特集を組んだが、その中からMINEを運営する3ミニッツがGREEへ43億。スタートアップ業界から一抜け?し、EXITの一つの価格水準を築いたといえよう。
前回の紹介から約9ヶ月経ったが、本誌独自の取材網から動画メディア主要3社の2017年1-3月期媒体資料を入手した。3メディアの媒体資料を比較しつつ、動画メディア広告市場の最新動向に迫る。
注記:下記グラフのデータは全て3社の媒体資料の数値を基に作成。なお、DELISH KITCHENは名前が長いため表記をDELISHとした。
3媒体最新数値:C ChannelのMAUは132万
C Channelは海外を合わせた再生回数であり、6.6億再生中、海外再生回数は5億であると先日のB Dash Campのセッションで話があった。実に7割が海外。KURASHIRUは国内のみの再生回数とのこと。
C ChannelのアプリMAUは媒体資料によると132万(2016/11/30時点)2017年3月時点ではもう少し伸びているだろう。
C Channelは東南アジアや中国を中心に海外展開しており、料理動画2媒体と比べると、明らかに規模は大きい。現に、DeNA問題で運営停止となったMERYへ出稿していた広告主の受け皿として、特に2017年1月の売上が伸びたと関係筋から耳にした。C Channelのような総合型F1動画メディアは他に存在しないがゆえに、女性向け消費材などの出稿が集中したと思われる。
動画再生回数を担保する各分散チャネルのパワーだが、基本的にまだ各媒体Facebook依存率が高いと聞いている。Facebookのアルゴリズム変更も怖いし、今後本質的にはアプリでどれだけのMAUを確保できるかという勝負になるだろう。
DL数は各社非公開だが、DL数は本質的な数字ではなく、MAUが肝だ。アプリではKURASHIRUのリリースがDELISHより早く、先行していた印象があるが、2017/3/23現在では無料ランキングではDELISHの方が上。日々のランキング変動でMAUを察することは難しいが、C Channelも含め、この辺は今後大型調達を基にした、札束で頬を叩き合う戦いになる展開が予想される(要はTVCMが始まる。C Channelは実施済み)
各社の資金調達額は、C Channelはリリースを出していないが2016年末に主にソフトバンクを割り当て先として50億調達している。KURASHIRU、DELISHはともに7億前後の資本金だが、今後さらなる資金が集まってくることは想像に難くない。
広告メニュー比較:1本200万、保証再生回数10万が相場か
各社非公開の項目が異なるが、1本200万前後、保証再生回数10-15万程度というのがざっくりとした相場観といえよう。
なお、今回の情報筋からは、1再生10円程度での販売(動画制作も含む)が市場の相場観であるという話も聞いており、あくまで「保証再生回数」であることから、各社はボトムの数字を記載しているにすぎない。ボトムを1再生16-20円と設定し、実体としては大抵1再生10円程度までは単価が落ちているのではなかろうか。
ちなみに今回の情報筋によると、C Channelの2本300万円パックが一番売れている商材のようだ。価格感的にも、売りやすいのだろう。情報筋曰く、広告主の出稿パターンは「お試しで100-200万」、「本格取り組みで500-600万」「満足して継続発注で1,000万規模」での出稿が多いと聞いており、この数値感は筆者の東京カレンダーWEBでの体感値からも、乖離していない。
各媒体がメニューで打ち出している特徴から、各々何を最重要視しているのかが見えてくる。
ユーザーのKURASHIRU、クライアントのDELISH
KURASHIRUのメニューは他2社と異なり「アプリ配信」と「FB+IG配信」でメニューが分かれており、価格は同じ200万円だが、保証再生回数がアプリ10万、FB+IG25万、想定再生完了率がアプリ50-60万、FB+IG20-30%と異なる。
ここから、KRUASHIRUはアプリ単独での配信と、再生完了率に自信を持っていると推測される。
動画再生回数は基本的に3秒以上再生の回数をカウントしており、特にFacebookなどでは、ユーザーは目的を持って動画を見に来ているわけではない。一方でKURASHIRUのような料理動画アプリを訪問する場合は、明確な目的(動画を見ながら料理をする、レシピの参考にするなど)を持つユーザーが多く、アプリでの再生完了率は高くなりやすいのだろう。
一方のDELISHの特徴的な点は、オプションでブランドリフト調査を実施している点。KURASHIRUも裏メニューでブランドリフト調査のメニューを持つ可能性は否定できないが、下記の表にあるとおり、DELISHのみ広告主社数を累計160社と公開し、マーケターが購読していると思われる宣言会議にも長期の広告出稿をし、広告事例の紹介などに注力している。
かなり強引な棲み分けをすると、ユーザー(C)・ファーストなKURASHIRUとクライアント(B)・ファーストなDELISHというのが筆者の印象である。
筆者の浅はかな分析では、アプリを見る限りはKURASHIRUの方が見やすい。DELISHのように動画を全画面で見るより、動画とレシピを行き来しやすいUXが大事ではないかと思う。アプリトップページも、DELISHのカレンダー構造より、KURASHIRUのジャンル構造のほうがわかりやすい。
広告の売り方に関しては、外から見た限りでは、DELISHの方が戦略的に上手くやっている印象がある。第三者視点では、オープンに出稿事例を豊富に紹介したり、広告主社数の公開からも、出稿検討の際の安心感がある。ブランドリフト調査からも、効果検証にもしっかり力を入れていることが伺える。
注記:あくまでも「極論すると」という話であり、両媒体の微細な差はそこにあるというのが筆者の見解。KURASHIRUにマネタイズ意識がない、DELISHにユーザー視点がないと主張するつもりはない。濃度の問題と考えている。
広告主属性と動画広告満足度:継続率が高い媒体は?
広告主属性は当然ながら総合型であるC Channelが最も幅広い。しかし、DELISHは流通のローソンや、その他の小学館などの出稿実績もあり、思いの外フードに限られていない。
2017年3月段階での広告主の動画広告への態度からは、メガトレンドなのでとにかくやってみたいというレベルが多いようで、規模が一番大きいC Channelで。というケースが少なくないという。
しかし、C Channelの動画はハウツーがメイン。ジャンルがハウツーであることは関係ないとは思うが、動画広告のクオリティのしょぼさが、一部代理店からも指摘されているようだ。筆者もいくつか動画広告を拝見したが、たしかに…感が否めなかった。
C Channelは総合型でF1層に訴求したい広告主に幅広く対応できるため、広告収益のアップサイドポテンシャルは料理動画特化型であるKURASHIRUやDELISHよりは高いのは明らかである。しかし、動画広告の質がイマイチだと、焼畑になる可能性もあるだろう。
C Channelはグロースを牽引した山崎ひとみプロデューサーがかなり前にプロデューサーを退いており、「プロデューサーの質が全て」と思っている筆者としては、今後のC Channelの動画広告のクオリティ向上には現段階ではやや懐疑的である。
KURASHIRUは「KURASHIRUの動画を見た後、料理レシピなどを作るために材料を買いに行ったことがある人」が88%いるというデータも媒体資料で紹介しており、想定再生完了率の高さからも、広告主の継続率が高いのではないかと想像する。
DELISH共々クックパッドの動画版であるがゆえ、フード系の太い広告主を何社つくって、彼らの広告予算の中でのシェアの奪い合いになっていくと思われる。その際に、再生完了率やブランドリフト調査の結果が良い方に広告予算をシフトしていくはずであり、現段階の筆者の外から見た感触としては、アプリで先行している(気がする)KURASHIRUに軍配があるかもしれないと考える。
出稿主数も大切だが、1社からどれくらいの出稿額を確保できているか。太客になっているか否かが本質的に重要な指標ではないか。
本質的にB向けへの見せ方の上手さより、Cをどれだけグリップできているかが、効いてくるというのが、私の仮説である。Cの満足度が高ければ、再生回数が伸び、視聴完了率も高まるはず。
メディア運営において、Cに比重を置くべき時期と、Bに比重を置くべき時期があり、マネタイズの誘惑に負けず、Cに比重を置く時期をどれだけ長期間取れるかの忍耐が必要だと考える。これは、私自身も一介のメディアプロデューサーであり、その実務経験を持ってしての「勘」である。
KURASHIRU vs DELISHのレシピ動画戦争は、TheStartupとしては、KURASHIRUに軍配が上がると賭けたい。
C Channelは総合型でその2媒体とは一部でしか競合しないので、F1層動画メディアとしては、後続に抜かされることなく、トップランナーを維持し、おそらくIPOまでいくだろうと本誌では予想する。