LINEの上場(IPO)で見るべき3つのデータ

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ついにLINEの上場 / IPOきましたね。田端さん、おめでとうございます。リクルート上場時より有価証券報告書の読み込みがヘビーだった気がしますが、TheStartupの栽培マン読者の皆様にもわかるよう、私がここだけは着目しておくと良いのではないかというデータを3つ揃えましたので、ご覧ください。

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想定公募時時価総額は5,879億円。田端氏持分は1.2億円

まずはいつもの株式周りの話から。

公開日発行済株式総数:13,476,200株
想定価格:2,800円
想定公募時時価総額:5,879億円
2016年1Q調整後当期利益:37億円
2016年TS予測調整後当期利益:160億円
2016年TS予測調整後当期利益適用PER:35倍

*「調整後」とは後述するが、株式報酬費用とMix Radio関連損失などを除外し、LINE事業単体の数字とし、その数字をベースに評価するのがたしからしいと判断した。

業績に関しては2016年1Qから微増していくと仮定した。TS予測PER35倍はLINEがメディア企業であることを考えると、決して割高ではない。メディア企業として類似を置くと、2016.6.10終値でカカクコム時価総額4,486億円/PER28倍、サイバーエージェント時価総額3,616億円/PER26倍。

VCは入っておらず、親会社NAVERの持分が87%。日本人では出澤CEO、舛田CSOが0.05%、森川元CEOが0.03%、我らが上級執行役員田端信太郎氏が0.02%という持分となっている。(全てストックオプション)

想定価格で換金すると仮定すると田端氏持分は1.2億円。

それにしても韓国勢が株式持ちすぎじゃないですかね。日本人にとっては夢がない数字だと思ったのは私だけでしょうか。

必読データ①:「調整後」EBITDAと当期利益を見よ

スクリーンショット 2016-06-10 20.22.15LINEのPLを「普通に」読んでしまうと、あれ?売上の割りに儲かってなくない?と見えてしまう。むしろ2015年赤字ですねと。

私が知る限りではありますが、インターネット銘柄の有価証券報告書では見ることが稀なのですが、営業費用で本業と少し関係ないものを「調整」して、ピュアなLINE事業の数字のみに置き換えたものが「調整後」のEBITDAとなります。

スクリーンショット 2016-06-10 19.34.05スクリーンショット 2016-06-10 19.34.25この辺がそのロジックとなります。「株式報酬費用」「MixRadio関連損失」の2つが主に大きな費用となっています。2015年など株式報酬のみで106億の計上ですから、PLへ大きな影響がありますよね。

そういった会計上の事情を除いていくと、2016年1Qは調整後EBITDAでは利益率20%を越えてきています。

必読データ②:四半期推移とコスト構造を見よ

スクリーンショット 2016-06-10 20.31.14続いては四半期推移。2015年1Q→2Qが地味にほぼ伸びていません。2015年3Qに盛り返しつつ、その後+5億、+10億と伸びており、今後爆発的に伸びるのか?四半期ごとの売上の伸び率はさほど期待できないのではないか。後述のセグメント別でそこはもう少し考察しましょう。

一方コストコントロールが効いてきており、2016年1Qでは営業利益53億出ています。営業費用の主要項目は下記の通り。売上の伸びと共にコストの伸びも付随しやすいのではないかと、私が判断したものから順に並べます。

<LINE営業費用項目>
①:決済及びライセンス費用
②:認証及びその他サービス費用
③:インフラ及び通信費用
④:従業員報酬費用
⑤:マーケティング費用

ビジネスのスケールに伴い、人も増やさなければならない労働集約事業ではないため、④の従業員報酬費用の伸びは鈍化していくはずです。⑤のマーケティング費用は実際に上記のデータ通り2015年2Qの57億から、2016年1Qの23億へと34億のコストダウン。その結果がそのまま営業利益についてきていると思われます(上場直前のため意図的に広告費を抑えたという考え方もできますが)。

少なくとも日本国内ではLINEほどの認知があれば、そこまでもうマーケティング費用をかけなくても良いのかもしれません。マーケティング費用と人件費をいかほどでコントロールするかが、利益と直結しそう。

必読データ③:コンテンツと広告の売上比率は7:3

スクリーンショット 2016-06-10 20.48.55最後にセグメント別の売上です。セグメント別の利益は非開示でした。

<各事業領域の定義>

☆コンテンツ領域
コミュニケーション:スタンプ
コンテンツ:LINE GAME、LINE PLAY
その他:LINE MALL(2016.5に終了)、キャラクター

☆広告領域
LINE:公式アカウント、スポンサードスタンプ、ポイント
ポータル:NAVERまとめ、Livedoor

◼︎コンテンツ領域

①:コミュニケーション(スタンプ)

2015年通期のペースと2016年1Qのペースを比較すると微増という印象。LINE本体アプリのMAUと連動しやすい領域と判断。LINEのグローバルでのMAUは2015年1Qの2.05億から2016年1Qの2.18億と実はほぼ伸びていない。

②:コンテンツ(ゲーム)

2015年通期ペースと比べると、2016年1Qは減収。2016.6.10時点のApp Storeトップセールスランキングでは、ディズニーツムツムが9位、ポコポコが17位、マンガが18位、バブル2が38位、LINEプレイ アバターコミュニティーが41位、POP2が50位となっている。50位以内に6作品も送り込んでいるパブリッシャーはLINE以外には日本に存在せず、コンテンツ・広告の全5セグメントの中でも稼ぎ頭である。

LINEプラットフォームおよびストアランキングという2つの入り口があるがゆえに、通常のゲーム会社のタイトルよりも売上は安定しやすいと考える。LINEにゲームを提供するパブリッシャーも増えており、一時期のGREE・モバゲーのような構造を作れている。

③:その他

LINE MALL終了により、今後の売上推移予測はしづらいが、案外キャラクタービジネスでブラウンのぬいぐるみが売れているとか、そういうことなのかもしれない。比率低いので詳細は割愛。

◼︎広告領域

①:LINE(公式アカウント、スポンサードスタンプ、ポイント)

実は現在のLINEの成長ドライバーはこのセグメント。順当に伸びれば2016年通期は400億の売上を越え、2015年対比1.5倍の成長となる。ちなみに我らが田端さんの管掌領域がここであると思われ、実は田端さんはLINEで400億ものPL責任?を持つことが判明した。

一般的にメディア事業は利用ユーザーが一定規模に達した後に、広告のマネタイズが数ヶ月遅れで追いついてきやすい。公式アカウントやスポンサードスタンプといった、従来他のメディアでは存在しなかったような広告商品を
生み出し、「楽天パンダスポンサードスタンプ!1,000万円!」(価格は適当に置いただけです)といった、なんともファンタスティックな商品を売り出している。

しかも公式アカウントやスポンサードスタンプなど大した原価は発生しない。異様に高い利益率を叩き出していると思われるのが、LINEの広告事業だ。ゲーム事業はAppleなどへの支払い手数料や、外部パートナーとのレベニューシェアもあるため、広告事業ほどの利益は出ていないと思われる。ゲーム事業の先行きやヒットが出ない場合は、5つのセグメントがこのLINE広告セグメントが比率30%を越えてトップになる場合も十分あり得る。

②:ポータル(NAVERまとめ、Livedoor)

LINE広告と比べるとかなりどうでもよく見えてしまうが、ここだけでも2015年の通期売上約100億となっている。NAVERまとめとLivedoorの比率は知らないが、NAVERまとめ自体一時期よりあまり見かけない気がしており、斜陽な領域かもしれない。

とはいえ、他社と比較するとサイバーエージェントのAmeba事業でも2015年の通期売上78億で営業利益5億(しかもAmebaゲーム含む)であり、LINEのポータル事業はAmeba事業より売上は大きく、おそらくセグメント利益もAmebaよりは稼いでいると思われる。

以上、セグメントは「コンテンツ:広告=70%:30%」だが、田端さん率いるLINE広告事業がシェアを伸ばしてきており、2016年1Qでは「コンテンツ:広告=65%:35%」と伸びきている。

今後のLINEをどう見るか?

今回の重要データではLINE自体のMAUを紹介しなかったが、安定的なMAUの上に、スタンプやゲーム、広告といった多様なキャッシュポイントでのビジネスが機能することは言うまでもない。

5つのセグメントのうち、3つで85%以上を占めるため、その3つの今後の展望を。

MAUが落ちなければコミュニケーション総量は減らず、その中で一定のスタンプ課金が発生し続けるとは思いますが、有料スタンプを毎月1,2個ずつ買い続けるものか?という点は少し疑問です。

ゲームに関しては浮き沈みが激しいものの、LINEのようなプラットフォームがあるので、通常のゲーム会社よりはボラティリティが低いと思われます。

LINE広告は高い成長率を見せていますが、その広告費はやや割高ではないかという懸念もあります。1,2年は伸びそうな領域で、仮にMAUが落ちきても、すぐに売り上げは落ちにくく、今後の主軸はこの領域であると考えます。今後2-3年でこのセグメントでどれだけ利益を積み上げるかは一つの大きなポイントではないかと。

この3つ以外にも、ベンチャー投資にも積極的で(gumiはまだ保有している模様)ベンチャー投資でのキャピタルゲインが局所的に発生してきたり、webpayのようなM&Aも上場後は積極的にやっていくのではないかと思われます。

LINEという強固な基盤を持ちつつ、どんな事業展開をしていくのか。LINE MALLの撤退など、参入や撤退の判断スピードも早く、日本国内のインターネット事業会社としてはナンバーワンのセンスだと私は感じています。他の時価総額1,000億円以上規模のインターネット企業は動きがやや遅く、撤退スピードも遅いです。少なくともLINEは一時期のyahoo!より爆速感を感じます。

株価予測に関しては本稿では控えますが、LINEはなかなか調べ応えがある、面白い企業ですね。

ちなみにインターネット銘柄IPO分析は、最近はこちらのnoteマガジンでやっています。今回は規模が大きいため号外として無料記事でしたが、小粒IPOは基本noteでお届けしますので、ご関心ある方はこちらをどうぞ。

すでに4社分と過去2年のIPO傾向などの情報を載せています。



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