スタートアップM&A減損率ランキング:買収額の9割の額を減損した案件も

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非常に性格が悪そうなデータ収集ですがw 国内スタートアップのM&A後の減損に関して調査し、「減損率」ランキングをご紹介します。

そもそも「減損」とはなんでしょうか。

減損会計は、企業が行った投資額が回収できなくなるという見積りをタイムリーに財務諸表に反映するための会計処理です。

引用元:新日本監査法人「減損会計」の項目

上記の新日本監査法人のページに、減損会計の様々な説明があり、ぜひ一読されてみることをオススメします。

基本的にM&Aは、定量的観点で見ると、買収額と同額ないしはそれを上回る額のキャッシュを生み出すことを期待して実行します。厳密にはキャッシュの出し入れ的には、営業利益の積み上げではなく、当期利益の積み上げ>M&A実行額となると、明らかな成功と言えるでしょう。

私は会計の専門家ではないので細かいことはあまり突っ込めないのですが、減損は買収後すぐに発生するというよりかは、スタートアップのM&Aに関していえば、2-3年後に発生するのが比較的多い気がします。

M&A実行時に被買収企業の事業計画に基づいてPMI3年目で黒字!とか描くのですが、PMIで2年経っても、あれ?来年黒字化の予定だっけ。無理じゃないですか…?(汗)となる。

新日本監査法人のページにある「減損の兆候」は「営業活動からのキャッシュフローが継続的に赤字の場合」とあり、黒字転換の見込みがない場合に減損対象となります。

減損対象となった場合、「減損の判定」をするわけですが、「モトが取れない金額はいくらか」を判定することになります。

ここは今回作成のランキングと大きく紐付きますが、買収額のうち何割がモトを取れないか?という論点は、買収額の妥当性の議論に有益な指標といえます。

それでは、下記がランキングです。

被買収企業名 買収企業名 買収額 減損額 減損率
コーチ・
ユナイテッド
クックパッド 10.0 8.9 88.7%
waja リブセンス 4.0 3.2 79.5%
ペロリ DeNA 35.0 26.5 75.7%
セカイエ GREE 13.0 9.4 72.0%
ロケットベンチャー エニグモ 6.3 4.3 68.8%
gloops ネクソン 365.0 243.0 66.6%
ポケラボ GREE 138.0 90.0 65.2%
iemo DeNA 15.0 7.9 52.7%
アラタナ スタート
トゥデイ
30.0 14.8 49.3%
FindTravel DeNA 非公開 1.3億 NA

単位:億円
対象企業:2011/1〜2015/4まで買収発表があった企業約30社。期間選定ロジックは、上記紹介にある「M&A後2年目移行で減損が顕在化する可能性が高い」ため
調査方法:買収企業側の決算資料で「減損」が確認されたかを検索で調査

30社中、9社の減損発表を確認できました。なお、当該期間で3件のM&Aを実施したじげんはIR上で「減損リスクなし」のコメントを記載。KDDIによるM&Aは規模が大きすぎて、小粒M&Aの減損がまぎれこんでいる可能性があります。

減損ではないものの、MUSE&COに関しては17.8億でmixiが買収後、0.5億でオールアバウトに転売されています。

私情を抜きにコメントしていきたいと思いますが、減損企業の傾向としてはメディア企業が多く、キュレーションメディア関連がDeNAの3社を含め4社。買収額が大きいゲーム企業も、減損を実施済み。

DeNA勢に関しては、もしWELQ事件がなければMERYは回収フェーズに入って、減損するにしても減損額は26.5億よりだいぶ減っていたかと思われます。

あくまで結果論ではありますが、減損率7割を超える企業は、その買収額の妥当性がかなり怪しいと言わざるを得ないでしょう。スタートアップのM&Aに関しては、被買収企業の業績予測よりは、直近ラウンドのバリュエーションないしは、既存株主の累計出資額に大きく左右されます。

特に既存株主の累計出資額を、買収額が上回るか否かが一つの大きな基準です。累計出資額<買収額であれば、優先株の場合は、既存株主は出資元本を回収できるからです。

M&A仲介業もやっているという私自身の立場を明らかにしながらも(ポジショントークと思われても仕方がないため)、既存株主の元本回収など、買収企業側には本来関係ありません。被買収企業の業績予測に基づいて、妥当な買収金額を決めるのが本来的には正しいはずです。

日本のスタートアップ買収の場合は、「既存株主の累計出資額は上回る額にしなきゃね」的な空気感を私は感じます。既存株主が納得しなければ買収(特に100%の場合)は成立しないので、本来の事業価値に加えて、プレミアム(という名の既存株主納得料)を支払って買収している場合が非常に多い気がしています。

そうじゃなければ、買収額に対して7割以上が回収不能で減損となるのって、業績予測の精度低すぎじゃないですか。本業の業績予測で「営業利益7割減の下方修正」とか繰り返してたら、ヤバすぎですよね。ゲームとかは仕方ない側面もあるとは思いますが。

こういった「空気」でM&Aが実行されているという一面があると思います。泣きを見るのは(「空気感」に負けて金額DDが甘すぎる)買収側であり、儲かるのは創業者やVCです。株主や買収企業の栽培マンからすると、たまったものではないでしょうね。

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スタートアップに限らず、一般論的にはM&Aの成功確率は2-3割程度です。私自身、M&Aを否定するつもりはさらさらなく、失敗してもナイストライ!という文化でも良い気はしています。

しかし、買収額の7割以上の額の減損が発生するM&Aが多く出てくるというのは、結果論としては買収額のミス・プライシングが少なくないと言えるでしょう。

減損すれば一気に営業利益が減り、特に時価総額数百億円規模の企業の場合、営業利益も10億円代前半であることがほとんどですから、減損一発で予想していた当期利益が半減することがあり得ます。現に、エニグモは減損&下方修正後に株価が3割程度下落しました。

M&Aの成功率は2-3割程度という一般論は大前提の上で、M&Aにおけるミス・プライシングが是正されていくことで、日本国内のスタートアップのM&Aがもっと増えていくのかなと思います。

これも感覚論なのですが、上場対象となる企業の利益創出ポテンシャルと、M&A対象となる企業の利益創出ポテンシャルの乖離幅がかなり大きく、PMIで買収額をきちんと回収できそうな企業は少ないと感じます。

今回は調査対象外となった2015/5以降のM&Aに関しても、減損が多発していくでしょう。減損が絶対悪かというと、必ずしもそうでもないという意見もあり、買収後すぐに一旦減損しておくというパターンもあるようです。営業利益出すぎたから減損しておいて、節税しよう的な。mixiやDeNAの営業利益規模感からすると、あり得る発想です。

減損実施に関わらず、被買収企業は買収額と大きな乖離がない程度の利益貢献は将来的にしてほしいものですよね。

M&AのPMIの傾向を見ていくと、良い意味でじげんの業界の空気を読まない異次元なM&Aが際立っています。

減損と向き合うことで、スタートアップM&Aのプライシングを再考する機会になれば良いなと思います。



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