時価総額経営かサービス第一主義か。揺れるクックパッドの経営

Pocket


インターネット業界の方であればすでにクックパッドの異例の「株主提案権の行使」のリリースは見かけたであろう。

・クックパッドIR:株主提案権の行使に係る書面の受領に関するお知らせ

業界の関心を大きく集めているこのニュースだが、簡単に解説する。

クックパッド創業者の佐野氏は、2009年のクックパッド上場後の2012年に社長を退任し、カカクコム社長などを務めた穐田氏が社長に就任している。穐田氏の就任後、クックパッドはM&Aを中心に売上営業利益共に成長。

スクリーンショット 2016-01-20 1.05.53参考記事:クックパッドが約2年で90億を投じたM&Aと大型出資10件

株価は2012年初頭から2015年末の4年間で約10倍になっている。アベノミクスによる日本経済の株高があったとはいえ、それ以上の株価の伸びを示している。2016年1月19日時点の時価総額は2,333億円。

スクリーンショット 2016-01-20 1.03.05穐田氏の辣腕により、売上利益株価全てが伸び、一時期は時価総額も3,000億円を超えた。この穐田氏の経営方針に異を唱えたのが創業者の佐野氏だ。プレスリリースの内容を一部引用した佐野氏のコメントは下記。

しかし、当社は、現在、基幹事業である会員事業や高い成長性が見込まれる海外事業に経営資源を割かず、料理から離れた事業に注力するなど中長期的な企業価値向上に不可欠な一貫した経営ビジョンに大きな歪みが出てきました。

ここからは本誌の推論(というか、上記内容を噛み砕いた解釈)を。佐野氏から見ると、利益剰余金をM&Aに主に投下する穐田氏の施策に対して、本来のクックパッド社の基幹事業である会員事業や佐野氏が担う海外事業に十分な経営資源を割かれていない。

もっと直接的にいうと、穐田氏の経営方針は短期的な利益と時価総額の最大化に重きが置かれており、クックパッド自体の強化によって海外でも勝てる機会があるにもかかわらず、海外事業に投資するという中長期的な施策に十分に経営資源を割いていないという指摘。経営の時間軸をどう考えるかという論点であり、本誌読者にも有用な議題である。

本誌の見解としては、上場企業である以上、四半期決算で成長し続けていき、株主の期待に応え続ける姿勢は、株式市場のプレイヤーとして立派な姿勢であると思う。しかし、佐野氏の立場からすると、みんなのウェディングのような決してクックパッドと高いシナジーが見込めると思えない案件を買収して連結するよりも、クックパッド事業自体へ投資し、再成長なり成長余地のある海外事業に本腰を入れるべきではないかという見解なのではないかと思う。

穐田氏の経営力は素晴らしく、4年で株価を10倍にしている点は非の打ち所がない。M&A中心の成長戦略は時価総額経営ともいえよう。しかし、中長期な視点を見ると佐野氏の見解が正しいように感じる。

みんなのウェディングのM&Aに関しては、本誌の見解では単に26.87%取得して、その後買い増して完全子会社化するとは思えない。時価総額100億を切っていたみんなのウェディングの株を1/4保有して再生させ、バリューアップして例えば時価総額300億円くらいで売却。28.6億円の買収を3-4年で3倍の85.8億円とし、約57億円のキャピタルゲインを狙い、特別利益計上で利益を上乗せしていく。そういうシナリオもあるのではないか。

そのような金融会社的なプレイはソフトバンクなどに近しく、経営手法としてはボラティリティあれども、有用な打ち手である。何も本業のみを伸ばして利益を伸ばすより、収益機会の多角化を推進したほうが、経営の安定性も増す。しかしながら、M&Aという外に頼らずとも、海外展開という内部でグロースできる余地があれば、すぐに成果は出ないであろうが、そちらにもベットするべきだろう。

結論としては、クックパッドが2年で90億を投じてきたM&Aの成否を語るにはまだ時期尚早であろうが、時価総額経営に乗っ取ったその方針は正しいのだと思う。しかし、全てをM&Aに寄せる必要はなく、佐野氏の主張する既存の会員事業や海外事業への投資にも一定程度予算配分するという、比率の問題ではないか。例えば、本業とさほどシナジーがなさそうな、みんなのウェディングの買収に28億投じるのであれば、その額をそのまま海外事業に配分するというような。

本校執筆にあたり、クックパッド関係者にヒアリングしたが、当初から佐野氏と穐田氏の考え方の違いはあったようだが、その溝が深くなっていった印象だ。

穐田氏のような時価総額経営か、佐野氏のようなサービス第一主義経営か。その成否は時間軸によって異なるであろう。読者の皆さんはどう考えるだろうか?ぜひ多様なご意見をいただきたい。



Pocket

コメントを投稿する

「時価総額経営かサービス第一主義か。揺れるクックパッドの経営」に対してのコメントをどうぞ!