事業構想2015年4月号でEC×決済特集をやっていました。興味深く読め、俯瞰する良い機会となりました。本稿でEC関連の市場を大まかにまとめてみます。
まず、ECのパターンを登場した(ほぼ)時系列で並べるとこうなります。
■ECの10パターン
①:本店(Amazon、ロコンド、oh my glasses)
②:モール(楽天、Yahoo!、ZOZO、Amazonの一部)
③:フラッシュ(Groupon、GILT)
④:越境(BUYMA)
⑤:キュレーション(Fab、MONOCO、Origamiなど)
⑥:インスタント(BASE、Stores.jp)
⑦:C2C(メルカリ、フリル)
⑧:C2B2C(The Real Real、リクロ)
⑨:レンタル(Rent the Runway、Le tote)
⑩:オンデマンド(インスタカート、bento.jp)*()内は一例
前半で上記ECパターンの話、後半でEC周辺のビジネス環境の話をします。
本店:差別化が難しく規模の経済が働きやすい
「本店系」とは自社で在庫を持ち販売するECの本流を指します。上記では①としてAmazonを挙げています。バーティカルコマース(あえて分類せず①に含めた)や⑤のキュレーションコマースは本店系といえます(キュレーションコマースは在庫を持たず委託販売も多い)。
魅力的なMDでAmazonにはない価値を!と謳って一時期飛ぶ鳥を落とす勢いだったFab.comがかなり寂しい価格でドナドナ売却されたことは記憶に新ですね。基本的に本店系は規模の大きいところが勝ちやすいと思います。MDは実はさほど差別化にならず、売り方や価格で差別化するしかない。上代価格が決まっているモノを売るのであれば価格で差別化はできない。
モールやC2Cはプラットフォーム:ここも規模の経済
②のモール型は本店を持つECが販路を拡げるために出店することが多い。ここの最大のプレイヤーが楽天であり、vs 楽天対策としてYahoo!が出店料無料化施策を過去に打ち出した。ZOZOTOWNはファッションに特化したモール。Amazonは自社で在庫を抱えるが、後からモール出店も可能となった。
⑦のC2Cも自社で在庫は持たず、出品者と購買者を繋ぐプラットフォームとして売買が成立すれば手数料を取るという形態を取る。④で例に挙げた越境ECといえるBUYMAも海外のバイヤーと購買者がマッチングするプラットフォームである。
⑧のC2B2CはBがCから(実際にBからもあるようですが)仕入れてCに売るという構造。オフラインではコメ兵とかあるわけですが、最近まであまりメインストリームでこの手のECはありませんでした。これもプラットフォームといえます。
売買が成立しないとプラットフォームとして成り立たないので、規模の経済がモノをいう。
売り方の差別化:フラッシュ、キュレーション
Grouponによるフラッシュセールが出てきた時は、時間制限やお祭り感により、ついつい必要ないものでもなんか買ってしまうという面白い購買行動が起こった。これは従来のECのサイトにモノを載せておくだけというのとは異なり、攻めの売り方であり、売り方のイノベーションだったといえる。
キュレーションコマースやセレンディピティコマースという言葉もあったが、検索型で「これが欲しい」と目的を持ったユーザーに買ってもらうのではなく、「なんとなくウロウロしてたらこれ欲しいかも」という衝動買い(セレンディピティ的な出会い)を演出するコマースが一時期注目されたが、それの代表例がFabであり終了している。国内で同様のプレイヤーであると思われるMONOCOやOrigamiがどういう着地となるか興味深い。
売るシステムの革命:インスタントEC
Stores.jpやBASEのような手軽に作れるインスタントECの登場により、ECを開設する事業者数がここ2年でかなり増えた。
それまではECというとEC cubeを使うなどかかなり手間がかかるしガチな感じで、手軽に始められるものではなかった。インスタントECの登場により趣味で書いた絵をくっ付けた絵はがきを売れるようになったりした。
インスタントECで月商数万円〜数十万円のEC事業者が増えたが、彼らの売上をどう伸ばすかという点が課題として残る。
試してから買う?:レンタルEC
レンタルECと名付けてみましたが、月額や1回いくらで服などをレンタルできる。気に入ればそれを買うというモデルで、お試し1週間⇒買うか否か検討することもできます。
高額商材であればワークしやすそうです。Rent the RunwayやLe toteを勝手にここにセグメントしましたが(実際はドレスを貸してるだけとかありそうですが)ユーザーのレンタルデータを溜めた上で「これ、欲しくない?」とレコメンドすることも可能になります。
時間軸の革命:オンデマンドEC
生鮮食品をオーダーから2時間以内程度で届けてくれるインスタカートや、弁当を20分以内に届けるbento.jp。これらはスマホ時代によって、オーダーから1日以上かかるとかではなく、即モノが届くということに価値を見出せるようになってきています。
この文脈でドローンなども語れます。たとえばマクドナルドのハンバーガーをスマホで注文すると20分後にドローンが届けてくれるとかです。
本店を軸に、集客最大化と売上最大化領域にチャンス
ここから後半戦です。10パターンのECを紹介してきましたが、ECを取り巻く環境を整理すると下記のようになります。
本店を軸とすると②のモールはプロモーションチャネルになります。プラットフォーム型のECはそれ同士が競合にあたるため、たとえば楽天にメルカリが出店するとかはないわけです。
本店を開設しただけではいきなり売れません。モール出店やリスティングや検索流入がないとサイトに人は来ないからです。本店の数が増えると競争が激化するため、リスティング広告の単価は上がり苦しくなってきます。
よって①にあたる他の集客ツールを使うか(最近だとPeople & Storeとかが出てきています)自社でコンテンツを内製して集客するか、など新しい集客手法が求められているといえます。
コンテンツ(ECのメディア化)の本命はMERY?
②にあたるコンテンツで集客するECの成功例というのは実はあまりありません。EC事業者にメディア的なコンテンツ作成力が備わっているケースが稀だからです。ゆえにメディアから入ってECをアドオンする方が自然だと思われます。実はここの本命はキュレーションメディアのMERYではないかと。
ファッション系キュレーションメディアはまず記事を量産してメディア力を付けますが、本丸はECを考えていたりすることも少なくありません。トラフィックを武器にコマースに遷移させる(というか自社で在庫を持ってその上で販売する)。コンテンツがあるのでSEO上有利ですし、リスティングの不毛な価格競争に巻き込まれない。本誌では「メディアコマース」とワードを度々唱えていますが、ポテンシャルは大きいと思う。
ちなみに月刊事業構想のEC×決済特集では「メディア化できないECは死ぬ」と断言されていた方もいた気が。トラフィックを取れないECはどんどんキツい。リスティングなどの外的環境ではなく、コンテンツを内製できる体制を作っておかないとしんどい。
集客をどう売上に繋げるか:CVR向上ツールが熱い?
様々なチャネルから集客しても、売上に繋がらないと意味がありません。そこで売上を上げるツールサービスが最近増えています。
この領域には、リアルタイム解析でWEB接客を可能にするKarteやスマホ特化のCRMツールであるフリップデスクや、販売促進のZen Clerkというプレイヤーがいる。これらのツールサービスはECの裾野ビジネスといえ、ECの取扱高が増えればそれに付随して市場が拡大する。
とはいえこの手のツールサービスは1つ導入すれば十分である点と、ITリテラシーが決して高くないEC事業者が使いこなせるだけのシンプルさが求められる。どのプレイヤーが頭一つ抜け出すか、ここは2015年度国内スタートアップでホットな市場だと思う。広義でいえばCVR改善という意味ではKAIZEN PLATFORM(のplanBCD?)もここにプロットされるが、上記3プレイヤーはECに特化しており、その点優位性が高いと思われる。
以上です。本店が増えると本店間の競争が激化し、本店の利益率は下がっていくでしょう。逆にECの市場全体は拡大しており、ECへ送客できるプレイヤーや売上を上げる手伝いができるプレイヤーは潤うというゴールドラッシュ構造にあります。
ゆえにEC自体より、裾野ビジネスがおいしいのです。
ECでもAmazonのような巨大な本店や楽天メルカリのような巨大なモールが一番果実は大きいです。しかし、winner takes allが効きやすい市場であり、上位プレイヤーではないECは儲かりにくい。それよりは裾野ビジネスの方がまだプレイヤーが少なく、勝てる余地があるのではないでしょうか。