「ハフポで猫が見たい」ではなく「猫が見たい」だけ:バイラルメディア3つの問題点【The Media②】

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昨今のバズワードである「バイラルメディア」。そのほとんどが消えてなくなると冒頭で断言しますが、ごく一部だけ残って米国のバズフィードのように勝ち抜ける可能性があります。バイラルメディアの定義やその構造と本質、勝ち抜けるにはどうすれば良いかを本稿でお届けします。

バイラルメディアの定義と本質:事業資産が溜まりにくい

定義から確認します。

■バイラルメディアの定義

動画や画像など、ソーシャルメディアで「バズる1発」をYouTubeなど他のサイトから引用したものを中心にした記事で構成されるメディア。(The Startupでの解釈)

僕なりのキュレーションメディアとの違いは、キュレーションメディアは複数の引用を元にそのメディア独自の文脈を編み出そうとし、それゆえに独自性を(バイラルメディアとの)相対的には出せている。バイラルメディアは、他サイトの引用で成り立っているのが特徴で、独自性が極めて低い。

独自性のない記事を集めているということは、他のメディアと代わり映えしないコンテンツである可能性が高く、ある記事でバイラルして数字が取れたとしても、それは結果論であり、再現可能性が低い。メディアのブランド力が上がり、例えばFacebookページのファン数が相当な数に上った結果、バイラルさせやすくなる。というのであれば、再現可能性は出てくる。

一つの参考指標として、発表されているPV/Facebookページファン数(固定ファン、これはfeedlyのRSSなどでも良い)の数値を並べてみると、メディアのブランド力が見えます。PVと固定ファンの数字の乖離が大きすぎると、他のメディアでも読める記事と代わり映えしない記事(Appleの記事ばかり流すメディアのような)が数字を稼いでいるのであって、読者はそのメディアに魅力を感じているとは言えない状況と捉えられるのではないか。

バイラルメディアの記事は他でも読めるがゆえに、固定読者が付きにくく、ゆえに事業資産を溜めにくいと僕は考えます。

ハフポのPVの実態は猫?それがバイラルメディアの問題点

一例として、バイラルメディアではないのですが、プラティッシャー的な立ち位置でバイラルメディア的なコンテンツも内包する日本版ハフィントンポスト(以下ハフポ)を紹介しましょう。

一説では7,000万PVに到達しているという話もありますが、先日行われたニュースサミットのパネルで編集長の松浦氏は「猫がけっこう数字を取っている」という話をされていました。

一見、堅めに見えるハフポであり、好敵手に東洋経済オンラインなどの経済誌が挙げられますが、純粋なPV比較をすると、「猫的な記事」でPVを2,000万くらいアドオンしている可能性もあり、7,000万PVのハフポvs5,000万PVの東洋経済オンライン。と言われても、僕の肌感覚では「ハフポってそんなに読まれてるか?」と思ってしまったわけで、そのからくりは「猫が存在するか否か」に集約されるといえます。

イケダさんの過去記事にもハフポのバイラルコンテンンツには触れられています。

「ハフィントンポスト日本版」の月間UUは600万人!「ハフポは失敗」って言ったの誰だっけ?

ハフポが猫でPVを稼ごうが、どうでもいいといえばどうでもいいですし、本国もそれでスケールしてきたので、戦略としては「アリ」なのでしょう。

しかし、猫画像でPVを稼いでいる構造を踏まえておかないと、東洋経済オンラインよりハフポの方がメディア価値が高いと勘違いしかねない。猫を使っている時点でコンテンツポートフォリオの性質が異なるので、apple to appleの比較ではなくapple to orangeの比較になってしまう。ということは本誌の読者には頭に入れておいてほしいですね。

バイラルメディア論に戻すと、読者は「ハフポで紹介されてる猫がマジかわいい!『ハフィントン 猫』で検索して見よう!」ではなく、たまたまソーシャルで流れていた可愛い猫を紹介したのがハフポだった。というだけです。ここにバイラルメディアの本質があります。コンテンツがメディア価値に紐づくものではなく、コンテンツ単体に価値があったのであり、それがどのメディアで紹介されても、変わらないのです。こういうパワーバランス。

スクリーンショット 2014-06-27 11.00.33現状のトラフィックの集め方から、理想の方向へシフトすることも理論上可能ですが、「猫が見たいからハフポにいいね!しとこう」とはならないはずで、固定読者の獲得効率は悪いはずです。この猫画像記事を掲載したメディアが「にゃんこドットコム」であれば、今後も多くの猫画像の掲載が期待され、猫画像記事を見た読者を固定読者化し、事業資産を溜めることが可能になりますが。

ということで、ハフポが猫でPVを集めるのは見せかけのPVを集めるのには「アリ」なんでしょうが、本質的なメディア価値を向上させているとは思えず、僕が編集長ならやらないコンテンツです。ハフポには僕からの寄稿希望を保留されていますが、なんでなんですかね。猫より数字は取れないかもしれないけど、あの寄稿陣で僕が通らないのは意味が分からない。編集部の好みの問題でしょうか。と強気な発言でハフポ問題は締めておきます。

こんな世論もあるようです。

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旅ラボのようなスクロールURL切り替えでPVを稼ぐ場合も

ハフポのPVの実態は猫比率が高いんじゃないかというコンテンツポートフォリオ問題に次ぎ、バイラルメディアのPVカウントの問題に踏み込みます。最近出てきた旅ラボですが、「月間1億PVを狙いたい」と鼻息が荒いですが、ローンチから10日間で60万PVのからくりは、トップページのスクロールでURLが切り替わる点にあるといえるでしょう。

旅ラボは動画記事が中心のようですが、動画記事であるがゆえ、YouTubeを埋め込み、記事全体の縦サイズは非常に短い。短いがゆえ、ユーザーが下までスクロールしやすく、スクロールして見たい動画を探すというユーザー体験が想定されます。先日のニュースサミットで旅ラボの方がUU120万、PV1,000万と言っていましたが、これは回遊性が高いのではなく、トップページをスクロールしてURLが切り替わるからPVが膨らんで見えているだけだと思います。

UU/PVが8.3もあり、かつ動画中心であればそれなりの滞在時間になるはずです。UUあたり滞在時間が5-10分くらいであればメディア力が付いてきているといえますが、スクロールでPVを稼いで、それで「1億PV目指すぜ!」と言われても、非常に表面的であり、その1億PVに価値はあるのか疑問。

一方でスクロールでサクサク見れるのはユーザーにとってはストレスがなくて良いです。海外ではQUARTZがこのUIを採用しています。というか、旅ラボのUIはQUARTZの丸パクリでしょう。スクロールでURL切り替えも、記事のボリュームが長ければ下まで容易にスクロールできないので、これでPVが稼げるかというのも一概には言えません、Umeki Salonでもメディア運営者に話を聞いたところ、スクロールURL切り替えのUIを採用しても、さほどUU/PVは伸びなかった。という話もありました。

PV論争に関してはThe Mediaシリーズで今後触れるので、今回詳細には踏み込みませんが、旅ラボが1億PVいっても、UU/PVが1-2でそもそも流入が強いか、UU/PVが10くらいで滞在時間も「ちゃんと長いのか」のどちらかでないと、メディア価値があるとは認められません。

旅ラボの方、本稿を読んでいたらぜひ「滞在時間」について言及してください。「滞在時間」が十分に長ければ、「スクロールURL切り替えで数字を稼いでいるだけ」という僕の主張の力が弱くなります。ただ、僕にはそう見えるんですよね。

BUZZNEWS、nanapiをパクってるけどいいのかYO!

コンテンツの独自性の話で、引用ではなく、他類似メディアの記事をパクって少しリライトしただけ。というのも散見されます。

例えば、BUZZNEWSのこの記事『本当は男性ウケの悪い髪型』【7選】女子がカワイイと思っていても、実は・・・かなり数字を取っているようですが、nanapiのこの記事似合う?似合わない?実は男性ウケの悪い髪型7選とほとんど同じ。画像は引用ですしね。左下にめちゃくちゃ小さい字でnanapiのtwitter画像が入っていますが、これは倫理的にどうなのよというレベル。

スクリーンショット 2014-06-27 11.25.38これはバイラルメディアだけではなく、キュレーションメディアでも起こりうる事例ですが、限りなく他社メディアに近い内容、ないしはそれを元にリライトして類似記事が量産されていく可能性は多分にあります。「バイラルメディア流行で、これ以上webにゴミを増やせないでくれ」という気持ちはよくわかりますね。僕もそこは全くの同意です。

バイラルメディアの思想はPV至上主義:ブランドに活路

まとめましょう。バイラルメディアの3つの問題点。

・猫などメディア価値に紐づくコンテンツではなく、どこでも読めるコンテンツでPVを稼ごうとしている(ハフポ)
・スクロールURL切り替えなどでテクニカルにPVを稼ごうとしている(旅ラボ)
・PVのためならパクりでもなんでもやる(BUZZNEWS)

これらを鑑みると、バイラルメディア運営の根幹の思想は「PV至上主義」といえると思います。PV論はThe Mediaコーナーにおいてもかなり重きを置いて展開しますが、PVをこうしたパワープレイで追うメディアに読者は付いてこないと思います。そこで取れているPVは見せかけの数字であり、固定読者ではないのです。

こうしたバイラルメディアは大嫌いです。僕は曲がりなりにも正統派路線が好きなので、試合終了間際のパワープレイではなく、独自の見解で読者を魅せるサッカーをしたいですね。Umeki Salonでも「バイラルメディア超嫌い。FBに流れてくるバイラルメディアをブロックできる機能があれば課金したい。あんなん見てると頭悪くなる」という意見を寄せる人もいたほどです。

しかし、こうしたバイラルメディアの元祖「バズフィード」はかなりのスピードで成長し、新メディアのお手本として注目を集めていることも事実。類似の動画中心のUpworthyがPVに代わる指標「アテンション時間」のソースコードを公開という動きも出てきています。バイラルメディアの本質を捉えた上で、次の手を打てるのか、表面的に真似ているだけなのかで、結末は全く違うものになるでしょう。

バイラルメディアも立ち上がりはソーシャルメディアからの流入に依存せざるを得ないでしょうが、ソーシャルメディアからの流入ではなく、「そのメディア名」で流入ないしは固定読者が増え、ブランド力が付けば見える景色が変わってくるでしょう。「ブランド力」が付くのは一朝一夕ではなく、それなりに時間がかかるため、そこまで耐えきれる忍耐力と資本力が重要。ポッと出で参入して、「んー、伸びないね。撤退!」というとこはダメです。

国内ではバイラルメディアスタートアップにまだ億単位の出資が入っていませんが、キュレーションメディアには流れ始めています。バイラルメディアにどの投資家が張ってくるのか、本誌では注目しています。GCP高宮さんあたり、やってきそうな気がしますね。

次回予告:PVをKPIに置くのはMajiで時代遅れ or バイラルメディアをシェアする心理

【The Mediaシリーズ】

①:女性誌市場をリプレイスする可能性を秘める、女性向けキュレーションメディア

Gunosy木村さんも参加する、会員数278名突破のUmeki Salon
内容の参考:Gunosy木村氏の降臨、野村證券の近未来的なIPO時価格算定方法など

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230席ほぼ満席なんだけどね。キュレーションメディアサミット。
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