年明けからエグめのネタを。CNETで年末にあった2013年に注目すべきサービスはこれだ–インキュベーター編という記事で経営共創基盤の塩野氏のコメントにあった「Acqui-Hire(買収による人材の獲得)」これは国内スタートアップで今後まだまだ出てくるであろうということで見逃せない視点だと思いました。この「Acqui-Hire」という概念を掘り下げて考えてみたいと思います。
Acqui-Hireされるスタートアップの特徴と事業継続
対象:シリーズAもしくはシリーズBでの調達が難しいと思われる企業
金額:1億〜10億
被買収企業の条件としてはこんなところでしょうか。現状では2010年、2011年に創業しているスタートアップで、サービスがスケールしそうな企業に関してはほぼほぼシードの次のシリーズAで1億前後の調達が完了できている頃合いかと思いますし、今まさに仕込んでいる段階の場合もあるでしょう。
前提として、今後も高い成長性が見込まれるサービスであれば次のラウンドでのファイナンスが可能である確率は高いと思われます。Acqui-Hireされるケースというのは、サービスの成長が鈍化したりマネタイズの未来が限りなく見えず、次のファイナンスが難しいケースであると想定されます。スタートアップ側からするとファイナンスできなければ受託で事業継続か売却かという選択肢です。
バイアウト(事業売却)と Acqui-Hire(買収による人材の獲得)の違いは明確な定義がないかと思いますが、その後の事業継続の有無を違いといえるのかもしれません。事業売却後も事業継続する場合はバイアウトで、スタートアップの事業は畳むという場合はAcqui-Hireとか。買収側からするとサービス継続しない企業を買収する理由は、人材獲得しかないかと。
よってバイアウトのケースの方が多いと思われますが、バイアウトの中に Acqui-Hireとしての意味合いもある内包するケースがほとんどで、Acqui-Hireだけでその後事業継続しないというケースはあまりないかと。
バイサイドに関しては1億単位でも成立するという観点から、未上場企業によるAcqui-Hireも全然あるだろうと思います。幅広い企業がバイサイドになり得ます。
2012年Acqui-Hire事例:ソーシャルランチとLivlis
Yahoo!によるcrocosやコミュニティファクトリーの買収は10億円前後の規模で、事業も継続しており、従来のバイアウトという表現が適切かと思います。一方でDonutsによるソーシャルランチの買収、mixiによるkamado(livlis)の買収はAcqui-Hireの色が強いディールと言えるのではないでしょうか。
ソーシャルランチもkamadoも外部株主が入っており、株主が損をする形での売却にはならないと思いますので、最低でも外部株主が参加したラウンドより少しはプレミアムを乗せて売却しているはずです。勝手な予測としては両社とも1億円台前半〜後半レンジでの売却と想定します。
あくまで勝手な予測ですし、次のラウンドでファイナンスする場合は最低3〜5億くらいのValuationになったはずです。そこまでのバリューにはならず、投資家も最低限の利益は出るというレンジで手を打つはず。
Acqui-Hireについて、色んな立場から思うこと
まず投資家の観点では、エンジェル投資の100万円程度ではなく、投資業として1,000万円程度出資していた場合は、せいぜい2-3倍程度になるくらいであり、ホームランとはいえません。マイナスにならなかっただけ、マシという感覚ではないでしょうか。むしろ投資家が損をしないために、Acqui-Hireディールを主導しているのではないだろうかという見方もできます。
一方で私が事業者側の人間だと仮定すると、Acqui-Hireは選択肢として合理的であると考えます。リスクを犯した起業で、サービスが伸びなくなっても、上手く買ってもらえればここ数年でサラリーマンとして勤めた時に想定される数倍以上のキャッシュは手に入ります。失敗して何もなくなるよりはよほど魅力的です。
そしてメディアとしての観点からも個人的にAcqui-Hireについて思うことがあります。結論としてはメディアの立場から見るとAcqui-Hireされるサービスは成長が鈍化していたからAcqui-Hireされるケースが大半だと思いますし、そういうサービスをメディアとして押してしまった自分に嫌悪感を覚えています。(事業シナジーある場合は後々の結果でわかるでしょうが。)メディアで押されているのを見れば、そのサービスが流行っている、すごくイケてると思われる読者の方もいるでしょう。
微妙なサービスばかり紹介しているメディアは信頼を損ないますし、実際にそういうメディアもあると思っています。そうならないよう、気を引き締めたいと思います。Acqui-Hireに関してはより赤裸々な個人的見解をUmeki Salonで話していますので、よろしければどうぞ。
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