1億円以上の調達を検討するスタートアップへ:先ずCFO探しからはじめよ

Pocket

先日の1億円以上の資金調達に成功した28社のスタートアップ・ベンチャーにみる億単位のラウンドの共通項という記事がわりと話題を呼んだ。2012年6月現在、国内で大型調達がしやすい地合いということもあり、1億円以上の調達を狙ってVCと交渉中のスタートアップは少なくないかもしれない。今回は4.4億円の資金調達に成功しているメタップスのCFO、山崎祐一郎氏に話を伺う機会があり、大型資金調達成功の方程式の一つを垣間見た。

結論からいうと、海外展開を視野に入れたスケーラブルな事業展開を考えているスタートアップは、30代前半までの外銀IBD出身者をCFOとして迎えた上で資金調達に望んだ方が良い。CFOが居ずとも1億円以上の資金調達に成功しているスタートアップは少なくないが、より大型の調達を狙いに行ったり、成功確度を高めるにはIBD出身者を招聘すると良いであろう。ネットリテラシーやリスク許容度の高さの観点から30代前半までとした。

本稿ではメタップスの山崎氏を事例に、CFO人材の有用性について触れる。

根っからのアントレプレナー志向×ドイチェIBDの経験

山崎氏の略歴はメタップスHPをまずご覧頂きたい。この略歴を詳しく掘り下げると、高校時代に渡米しており、そこから西海岸のUniversity of California, Berkeley大学に進学。ちなみに孫正義氏に憧れており、17歳で孫氏が渡米したのを真似たようだ。最初からアントレプレナー志向であった。

卒業後はドイツ証券の投資銀行部門(IBD)に入社。 担当セクターはテレコムメディアテクノロジーで、現GREEのCFO青柳氏と同じチームの後輩にあたる。その後、縁あってメタップスにCFOとして参画。当初SEO事業が中心であったが、SEO事業を売却し現在のリワード広告事業を立ち上げている。

「2年で勝負をつけたい」という山崎氏のコメントが印象的であった。同じチームで2年以上やってもそれ以上の成果は求めにくく、いかに短期間で結果を出すかを考えている。シリコンバレーのスタートアップでは2年程度の周期でプロジェクトを変えることが多いようで、山崎氏は大学時代シリコンバレーで学んでおり、その影響を受けているといえるであろう。

メタップスはCPI課金のリワード広告で世界を狙う

メタップスの事業に関して触れると、上記のTech Crunchのリンクにある通り、海外ではTapjoyが競合に当たり、インストール課金によるスマホアドネットワークを展開している。アドネットワークとしてはmedibaに買収されたノボットなどが国内の類似事例にあたる。ノボットが展開していたAdmakerはCPCやCPM課金である。CPC課金と比べるとCPI課金のアドネットワーク市場は競合がまだ少ないと山崎氏は言う。

このようなアドネットワークモデルは、製品の差別化よりも如何に早く出稿先をアドネットワーク化してスケールさせるかというオペレーションの実行力が一番肝心であると私(筆者)は考えている。現にノボットを見ていてもそのスピードはかなりのものであった。

メタップスに関しては4.4億の資金を元にシンガポールをはじめとした海外展開に注力しており、海外経験豊富な山崎氏が海外事業を統括している。資金力を背景に海外経験豊富な山崎氏を中心に海外支社をどんどん立ち上げ、市場を素早く拡大できるイメージを私は持った。

私個人的には国内か海外の事業会社に、かなりまとまった金額でEXITできるのではないかと予想している。 資金調達時だけでなく売約交渉時に力を発揮するのがCFOであり、山崎氏であれば満足いく出口戦略を実現するであろう交渉力があることを話から感じ取った。

外銀IBD出身CFOの希少価値:高い専門性と交渉力と英語

今回のメタップスのケースをみて、山崎氏の存在なしで4.4億の調達は実現したと思われるだろうか?1億以上は事業領域的に調達できたであろうが、4.4億は山崎氏抜きでは難しかったのではないかというのが私の感想だ。この資金調達が成功した要因は大きく分けると2つある。

1つ目は山崎氏がIBD出身という高い専門性を持っており、専門性柄、資本政策を描く力や交渉力に長けているであろうことが挙げられる。IBDは業務上、些細なミスが許されず、完璧に近い人間が多い。そこに数年身を置いていた人材に対する信頼感や安心感は高いといえるであろう。「交渉力」というありきたりな表現を用いたが、投資検討側にとっては山崎氏の存在そのものが交渉力の1つのカードとなっている。プロフェッショナルへの安心感だ。

2つ目は海外展開を考えた際の英語力だ。ここに「外銀」IBDとしている肝がある。グローバル企業に身を置いた経験は海外展開時に活きるであろう。GREEの青柳氏もCFO兼米国GREEのCEOだ。外銀IBD出身者はCFOだけではなく海外事業責任者としての期待も持てる。投資担当者から見ると、その存在が海外事業戦略の成功確度を図る一つとなる。調達後に海外事業担当を採用するのと、既にいるのでは投資検討時の材料としは大違いだ。

ファイナンスの専門性と海外事業責任者としての現実性を兼ね備えた人材である外銀IBD出身CFOの存在は大きく、そういう存在がいるスタートアップはスケールの現実味が増し安心できるため、交渉がまとまりやすいであろう。

外銀IBD出身CFOの採用のポイント

まず外銀IBD出身者でスタートアップのCFOになりたいという人がどれくらいいるであろうか。業界的にコンサバな方が多いらしく、数千万の年収を落としてまでリスクをとる人は多くないようだ。仮に、自社に興味を持ってくれたとしてもいくらで雇えばいいのか?前職考慮の年収はもちろん払えないであろう。現実的には600-1,000万くらいのレンジになるのではないだろうか。加えてストックオプションをそれなりに付与する。

スタートアップにとって年収600-1,000万の人材を雇うことはかなり勇気がいる決断であるだろうが、そのCFOに投資をして大型の資金調達をきっちり遂行してもらうというマインドで望むのが良いであろう。CFOの採用により資金調達自体の精度が高まり、集められる金額も大きくなるのであれば安い投資と言えなくもない。

CFO人材側も既にそれなりの額の資金調達が完了しているフェーズでは面白くないであろう。1億円以上のラウンドの調達前に参画して、資金調達をするのが腕の見せ所である。1億円調達できそうなポテンシャルのある企業を見極めるフェーズが非常に難しい。この辺は私も情報収集を続けていきたい。

もしこの記事を読んだ私の同期付近の外銀IBD出身者がいれば、ぜひスタートアップの門を叩いて頂きたい。彼らの力が日本のスタートアップを世界にスケールさせる一助を大きく担えると私は思っている。メタップスのような事例が多く出てきてほしい。メタップスに関しては、エンジニアや広告営業など「短期間で勝負をつけたい人」「海外展開に興味がある人」には転職先としてお勧めできるスタートアップである。

参照リンク

1. 1億円以上の資金調達に成功した28社のスタートアップ・ベンチャーにみる億単位のラウンドの共通項
2.  4.4億円の資金調達に成功したメタップス(Tech Crunch)
3.  メタップスHP
4.  Tapjoy
5.  medibaに買収されたノボット(Tech Crunch)



Pocket

コメントを投稿する

「1億円以上の調達を検討するスタートアップへ:先ずCFO探しからはじめよ」に対してのコメントをどうぞ!