インターネットには多種多様な記事が溢れており、キュレーションメディアやオウンドメディアでは今日も毒にも薬にもならない、勝利も敗北もないような記事を廃棄物のように生産し続けている。
誰も覚えていないような記事の積み重ねで「量(PV)の論理」で席巻するメディアが存在する一方で、来年あたりはその逆に一気にトレンドが触れてもおかしくないと考える。オリジナリティの高い記事が相対的に価値を上げてくるはず。私がキュレーションメディアのCEOであれば絶対に強いオリジナル記事をしっかり仕込んでおく。だが、そういった動きをしているキュレーションメディアは見かけない。
とはいえ、単にオリジナルであるからといって読まれるわけではない。
一瞬で消費されるのではなく、一生心に残る記事を書こう。塩谷、アンパンマンみたいな顔してるけど、いいこと言うじゃねえか。資生堂のコピーのパクりって、一瞬でわかったけどな。
そう、記事一発で人を動かすことってできるんですよ。それを知っているのは、記事一発で人を動かした経験がある人くらいなんですけどね。
企業がストーリーを語るプラットフォームのようなCGMメディアを運営するスタートアップも登場した。PR Tableだ。PR Tableの構想について同社CEO大堀航氏にFacebookメッセージで軽く取材した。
PR Tableの物語は採用のコンバージョンレートをあげる
・元・エンジニアが営む“定食屋のスタートアップ”が、飲食業界の定説を覆す!?
本誌の長い読者であれば知っているだろうが、STORYS.jpは必ずしも上手くいったとは言えない。ビリギャルなどのヒット作を生み出したが、同サービスを運営するレジュプレスはいつの間にかBitcoinのCoinCheckへと舵を切っている。
私自体はもともと書くことが好きなので「ストーリー」的なものは好きだ。しかしいつしか、先日の物欲なき世界での“ライフスタイル”同様に“ストーリー”もマジックワード(思考停止ワード)化しているのではないかと感じる。なんとなくストーリーって良さげ!そんな空気が蔓延している気がするし、私自身も思考停止していた一人である。
PR Tableの発想は特に採用領域では有用に思える。採用HPに募集要項を載せただけでは人は来ない。wantedlyによってその辺の意識が少し変化していき、「なぜその仕事をやるのか」など意義を語れる企業も増えてきた。PR Tableは企業の創業物語や成長物語、ビジョンをストーリー仕立てにすることによって、少しでも多くの人に興味を持たせるコンテンツを届ける。私にはそういうプロダクトに映った。
採用に関していえば、求人媒体に広告を載せるだけでは限界がきている。一定の露出を図り、認知を獲得することは大事だが、それ以降の「検討フェーズ」にてその企業の内実がよくわかる物語があれば、応募検討者はイメージが沸き、実際に応募ボタンを押しやすくなるはず。ストーリーはCVRを上げるソリューションといえます。
CVRをあげるプロダクトはEC周辺領域で出てきていますが、インターネットサービスが成熟期にある中で、様々な分野のCVRを上げるプロダクトは価値が上がっていくはずです。国内において不当に価値が上がりすぎたジャンルとしては、グロースハック分野ですが。
今振り返ると超絶文章が下手すぎて死にたくなるが、2010年に私は「CVRを上げるためのストーリー」に着目していた。不動産サイトにおいてこういう文章を作っていたのだ。ご参考までに。
シェアハウスにおいてはスペック軸ではなく体験軸での付加価値を求めるユーザーが多い。ゆえに、体験を想起できるストーリーをサイト内にコンテンツとして散りばめておく必要があると考えたのだ。正確なデータは測れないが、たぶんCVRは上がったと思う。しかし、これを書いた5年前から年齢がまだ変わってないのはやばい気がする・・。そう、私は5年前の今頃はソーシャルアパートメントのマーケターだったのである。
振り向かれるための、良いストーリーとは何か
しかし、ストーリー至上主義はよろしくない。なんでもストーリーにすれば何とかなるという発想は危険であり、魅力的なストーリーと魅力的ではないストーリーが世の中には存在する。
書く対象の元素材が魅力的であればそのまま書いてもある程度魅力的に映るが、如何に普通の素材を魅力的に仕立て上げるか。そこにはプロのライティングテクニックが必要となる。それは企業広報のようなプレスリリースを描く仕事に従事してきた人ではなく、バズる記事を生み出せるような、読者の心をザワつかせることができる人が持ち得る技ではなかろうか。
☆ストーリーを魅力的に見せるコツ(付加価値)
・やや大げさなタイトリング
・多くの人に関心を持たれやすい味付け(多くの人に共通する話題を入り口にする)
・ドラマティックな構成
・どの角度から当てると面白く見えるか
同じ話であっても、倒置法を用いるだけで、20%面白さupとか全然ある。
などなど、要素は挙げればキリがないが、この辺はまたの機会に考えたい。
最後に、記事タイトルの疑問に私なりの答えを。
ストーリーはたしかに求められるようになってきており、ストーリー自体がインターネット上には増えてきている。しかし、98%のストーリーは面白味がなくクリックされないで通り過ぎ去られ、それは毒にも薬にもならないキュレーションメディアに載ってるクラウドソーシングでライターが書いた記事と、さほど大差がない。
求められているのは、面白いストーリーだ。
すごく単純な話だけれど、「ストーリーになっていれば良い」という空気を感じるので、「面白いストーリーじゃないと意味がない」と言いたい。
それこそ、消費されるのではなく、鮮明に思い出せるような。
強いストーリーにはそんな魅力がある。驚くほど読者がディティールを鮮明に覚えている。
そんなストーリーは量産できるものではなく、簡単ではない。
だからこそ、そこに挑み続ける価値がある。
私自身、実はストーリーを書くのが苦手であり、ストーリー執筆に向き合うことから寄り道してこの記事を書いてみた。
おそらく今後、ストーリー・メイカーの価値は相当に上がっていくだろう。かつてのコピーライターと同等か、それ以上に。魅力的で強い物語を描ける人材は市場にほとんど存在しないから。
「ストーリー」なだけで満足していたら、試合終了ですよ。